『ジャパンアズナンバーワン 再考』 by エズラ・F・ヴォ―ゲル

ジャパンアズナンバーワン 再考
エズラ・F・ヴォ―ゲル 著
上田惇生 訳
TBSブリタニカ
1984年12月15日初版発行

COME BACK (1984)

 

ジャパンアズナンバーワンの続編。

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1979年に最初の『ジャパンアズナンバーワン』が出版された時、日本の経済成長はすでに二桁成長の頭打ちのあとで、 GNP成長は名目前年比で 8.4%。そして、1984年には、4.5%まで低下している。おいおい!日本どうした?、、とはいいつつ、まだ強いね、、、っていうタイミングで出版された一冊といっていいだろう。日本はまだバブルに浮かれていた。 一般には 1991年 バブル崩壊と言われている。私はその年に滑り込みセーフという感じで就職したので、その変化を体感している。とはいえ、1984年前後は、まだまだ中学生か高校生の頃。ニュースで耳にした言葉を記憶はしているけれど、意味はわかっていなかった。私にとっては、そんな時代の歴史の復習みたいな感じ。


『ジャパンアズナンバーワン』によって、世界は日本に注目するようになった。本書の「日本版への序文」のなかで、ヴォ―ゲルは、

” 私がこの本を書いたのは、日本の成功に学び、 アメリカ 自身の過去に学ぶことによって、アメリカ経済の再生を図るためである。 今日の緊密なネットワークで結ばれる世界経済にあっては、アメリカの不信は即、マイナス の波及効果を全世界に及ぼす。 従って、 アメリカ 再 性化は、 アメリカのみならず、 全世界にとって緊急の課題と言えよう。”

と書いている。

80年代のアメリカは、すでに不況に入り始めていた、ということ。

 

目次
日本版への序文
謝辞
第一部 新しい国際環境
 第一章 日本の挑戦

第二部  日本のストラテジー
 第二章  最優先された基幹産業
 第三章  メカトロニクスの勝利
 第四章  斜陽管理と地域ルネサンス
 第五章  情報革命
 第六章 日本はいかに国際競争力をつけたか その学習曲線

第三部 アメリカのストラテジー
 第七章  国家総動員
 第八章  世界をマーケティング
 第九章  すべての家庭に住宅を
 第十章 州経済の近代化
 第十一章  産・官・学協力の条件   アメリカの場合
 第十二章  アメリカの対応

 

感想。
おぉ、これは、私には歴史の教科書だ・・・・・。第二章は、日本の近代経済歴史をよんでみるみたい。。。。第三章は、アメリカの話なので、さらっとしか読んでいないけれど、アメリカの近代経済をしりたければ、参考になるのだろう。けど、すべての家庭に住宅を、、、といって、2007年のサブプライムローンの崩壊、リーマンショックとなったわけだ。。。。

政治と経済は先がわからない、、、とはよく言ったものだ。あとから振り返れば、当時の判断を批判したり評価したりできるかもしれないけれど、、、やはり、その時その時の政策をつくる、戦略をつくるって、、、難しい。不確実性の中で、どう進むべきか、、、その判断をできる限りよりよい将来につながるように下せる人が、真のリーダーなのだろう。そこらの有識者ではない気がする。。。ほんと、むずかしぃねぇ。。。。

 

本書で、著者が日本の強みと挙げているのは、第二部で4つ挙げられている。

1 造船:国をあげて造船業をサポートし、当時の世界王者イギリスを越えた。
2 工作機器:民間が生産合理化をすすめ、輸出産業にまで成長させた
3 炭坑閉鎖に伴う九州の衰退への対処:国と地方の協力で工業団地誘致、福岡空港誘致、一村一品運動などで衰退を防いだ。
4 情報革命:IBMに追いつくために、電電公社と民間がタッグをくんでプロジェクトを推進。福祉の充実のために情報システムの開発を通産省主導ですすめた。

どれも、すばらしい成果をもたらした、、、、らしい。

 

ところが、現在は、、、、造船は大縮小、工作機器は他国が成長、九州経済はぼちぼち、情報では半導体ボロ負け、、、と散々な状況ではないだろうか。。。私には詳しくはわからないし、ちゃんとはしらべていないのだけれど、、、。

 

護送船団方式”という言葉が、バブル崩壊後の銀行救済としてニュースで飛び交っていた記憶があるのだが、それは、当時の「造船業の大成功」からきていたということ。当時は、なんだかよくわからないなぁ、、、と思っていた。ただ、国をあげて弱った銀行を救おうとしている、、、と理解していた。まちがってはいないみたいだけれど、本書で紹介されている造船業の勢いはすさまじい。国が資金でも強く支援、そして、日本の造船業は世界一になったのだ。競艇の収益は、造船業つぎこまれたのだそうだ。今は??ギャンブルに興味がないので、よく知らないけど、、、。少なくとも造船ではないようだ。

 

本書を読んでいると、「繁栄」って何なのかな?って思う。読みながら考えてみたけれど、答えは見つからない。たしかに、世界経済の活性化そして世界の繁栄のために、、、って聞こえはいいし、正しいことのように思う。

 

本書に描かれる日本は、間違いなく「過去」だ。だけれど、その後バブルを経て、日本は繁栄したのだろうか? 繁栄って何???

 

第六章では、日本の成長成功にあわせて、当時の日本が抱える「問題」についても言及されている。それは、

1 過剰な拡大
2 過度な保護

とある。

 

過剰な拡大の後に待っているのは、飽和と衰退・・・。

 

私は製造業で働いていたので、拡大した工場が外部環境変化によって生産するものが減少あるいは無くなり、設備も人も余る、、、、という不況を経験している。日本の製造業では、全体でも明らかに過剰設備になっている。食品なら人口が減れば同じだけの生産キャパは不要になる。精密機器や半導体を作っていたクリーンルーム工場が、室内野菜生産工場に転用されている例もある。自動化、ロボット導入で、たしかに「生産要員」は激減した。

 

そして、日本の会社は、仕事がなくなったひとたちをクビにしないことが美徳、と著者は言う。終身雇用だもの、クビにはしない・・・。それが、バブル以降は、リストラという言葉も聞かれるようになった。。。。

さて、そして、日本は繁栄したのだろうか???

 

個人的には、ありがたいことに経済的に困窮したことがなく、休暇を楽しむこともできていて、生活は便利になり、やはり繁栄しているのではないかと思う。

犯罪を心配することなく、安全に暮らせる。公衆衛生も心配することなく、水道の水だって飲める。好きな時に、好きなものが購入できる。食べ物、本、洋服、日用品。。。。

「失われた30年」というけれど、いったい何が失われたのだろうか?

 

本書で成功の印とされている造船業の成功のひとつは、老朽船の積極的スクラップにあった、という話がでてくる。

新しいものを作るには、古いものを捨てなければいけないことがある。

古いものを守り続けることで、新しいものがうまれる機会を失ってしまうことがある。

う~~ん、難しい。


けど、面白い一冊。具体例ではなしが進むので、わかりやすい。
なるほど、、、、だった。

 

気になったところを覚書。
・日本の造船業が独特の成功をおさめた方法の一つが、競艇の収益からの資金導入。1951年、笹川良一によって、収益を造船事業に割り当てる法律が国会で通過した。

 

・ 当時大手ではなかった山崎鉄工所は、豊田工機東芝機械、日立精機、池貝鉄工、大隅鉄工所より早く、海外に市場開拓の道を求め、74年末、アメリカに工場をもつ初の日本の工作機器メーカーになった。

小さいからこその小回りの良さが、果敢な行動、決断につながったのではないだろうか。

 

・日本の石炭産業。 19世紀末から今世紀初頭(20世紀)にかけて、 九州は「石炭ラッシュ」と呼ぶべき時代があった。 九州は日本の全需要を賄うだけの出産量を維持し、採掘された石炭のおよそ半分は、外貨獲得のために輸出され 日本の近代化の財源に充てられた。炭鉱があるので、製鉄所が誘致され、巨大製鉄所が八幡に登場し、さらには輸送のために鉄道なども発展した。一般の農民は炭鉱で働くよりも、植民地へ出稼ぎに行くことを選んだ。そのため、炭鉱は、貧農や貧しい都市労働者、僻地から人をあつめ、第二次世界大戦下には、朝鮮人、中国人も炭鉱で働かされた。
 戦後、石炭生産は、国の復興のシンボルとなったが、50年代になると安価な輸入原油におされ、全国的に炭鉱の危機となった。炭鉱の閉鎖だけでなく、九州は戦後の引揚者の受け入れ地となって余剰労働力の九州が課題となった。

 

・九州が迎えた斜陽の危機を救ったのは、” 大勢の人たちの責任感と広い視野”。
多くの人たちが集まって解決の選択肢を広げ、そのプロセスに対して敬意を払い、他の人たちの直面する問題の重要性を理解することができた。

1人の圧倒的リーダーシップではなく、大勢で理解し合いながら進めた協調による進行が、成功をもたらした。 

 

どの成功話も、たしかにすごいなぁ、、と思える。かといって、今の日本にも適応できるものは何だろうか? 協調、協力、といったことは、現代でも十分に通用すると思う。なにが、、悪かったのだろう。いや、悪くないのか? いや、やっぱり、元気は亡くなってしまったように思うし。。。

 

過度な個人主義能力主義が、協力し合うという心を失わせてしまったのだろうか? 終身雇用も崩れつつある。一方で高齢者の雇用が増えて、いつまでも会社にいる60代も増えている。そして、若者のポストが空かないという課題もある。あるいは、たとえ再雇用者は制度上は上司でなくなったとしても、これまで上司だった人が同じ職場にいて、いきなり部下ですと言われても、、、日本人的にはなかなか、、、やるせないものがある。たしかに、先輩方の知識も経験も、大変ありがたい。60歳になったとたんにこれまでの1/3の給料なのに、同じように働き続けていただけることには頭が下がる。でも、やはり若手に対してとは異なる気づかいがあるのも事実、、、。

 

誰もが活躍できる社会でありたいと思う。それは、金銭の報酬だけではないけれど、やはり、経済活性化のためには、高齢者でも、最低賃金以下だったとしても、ボランティアではなくて報酬が得られる活躍の仕方をするって、大事ではないだろうか。

 

と、、、本のの話からだいぶずれてしまったけれど、やはり、80年代と同じやり方でもだめだし、「成功」や「繁栄」の定義も80年代とは違っていていいのではないだろうか。

日本よ、COME BACK!!!

 

今日一日が、いまここが、幸せであってほしいと思う。

 

本書を読んでいると、まだまだ私にもできることがあるような気がしてくる。バブルを経験しているからそう思うのかもしれないけれど、今読んでも、それなりに興味深い一冊。考えているだけでなく、行動せよ、って、、、自分に思う。

 

まだ、シリーズ続きがある。それは、また、次回。