アメリカのアジア戦略史 (下)建国期 から21世紀まで
マイケル・グリーン 著
細谷雄一・森聡 監訳
勁草書房
2024年1月20日 第一版第1刷発行
By More Than Providence
Grand Strategy and American Power in the Asia Pacific Since 1783 (2017)
アメリカのアジア戦略史 (上)の続き。
目次
第Ⅲ部 ソ連の台頭(承前)
第8章 アジア戦略とベトナムでのエスカレーション 1961-1968年
「 混乱していないものは、 この状況を理解していない」
第9章 ニクソンとキッシンジャーによるアジアでの封じ込め 戦略の最定義 1969- 1975年
「 釣り合いの取れた均衡」
第10章 ジミー・カーターと 中国カードの復活 1977- 1980年
「 大統領は弱き行動をいっさいとってはならない」
第11章 ロナルド・ レーガン 1980-1989年
「 封じ込めてやがて、巻き返す」
第Ⅳ部 中国の台頭
第12章 ジョージ・H・W・ブッシュとアメリカ単極時代 1989-1992年
「 我々の安全と繁栄の秘訣はそれらの外交関係の持続力の中にある」
第13章 ビル・クリントンと予期せざる大国政治の再来
「 関与と均衡」
第14章 戦略的奇襲とジョージ・ W・ ブッシュのアジア政策
「 自由に寄与する 勢力均衡」
第15章 バラク・オバマとアジア・リバランス政策
「ピボット」
終章 歴史からアジア戦略を考える
監訳者解説 大戦略の思想と実践を学べる 壮大な歴史書
監訳者あとがき
原注
著者・訳者紹介
感想。
まぁ、、 壮大な歴史書 だった。
下巻になると、私が生まれてからの話が増えて、聞き覚えのある名前が増えてくる。そして、戦後以降に始まった日本との関係も、日本が高度経済成長をなしていくなか、アメリカにとって、護るべき日本から、経済上は戦うべき日本に代わっていったこと、そして、中国や台湾、インド、オーストラリア、、、アジアの国々の関係と、ヨーロッパとの関係とのバランス、様々な政策が、大統領が変わるたびに、あっちに、こっちに、振れてきたのだということが判る。
政治と経済は、あとから評価することはいくらでもできるけれど、常に不確実性の中にあったわけで、あとだしじゃんけんのように批判されるのはかわいそうな気もするけれど、読み手にとっては、わかりやすい。
ただ、どの大統領のどの政策をとってみても、全面的に成功とか失敗というか言うことはあり得ず、見る立場がかわれば変わってくる。日本から見たらよきアメリカ政治だった時代も、他国から見たら苦節の時代だったかもしれない。
均衡という言葉が、たびたびでてくるけれど、、、経済なら数字で測れるかもしれないけれど、こと軍事力や国民の生活は、数字で比較できるだけのものではない。ほんと、むずかしいなぁぁ、、と感じた。
本書に書いてあることの、1%も理解できていないかもしれないけれど、こういう本が出版された、まとめられた、ということが一つの達成なのだろう。原本は、2017年の出版。監訳するのに、長い年月がかかったということらしい。
そして、その後、トランプ政権があり、バイデン政権があり、2024年秋には、再び大統領選。さて、どうなるのか。。。ハリスさんが候補になったし!!
下巻の最後には、「監訳者解説」がついていた。上下巻を通読しなくても、この完訳者解説を読むだけでも、だいぶ流れを掴むことができると思う。
ロナルド・レーガン大統領と中曽根首相が、ロン、ヤスと呼び合う中だったこと。実は、それ以上にジョージ・W・ブッシュ大統領と、小泉首相が仲良しだったこと、、、などなど、やはり、日米の関係に首脳の個人的関係性が寄与しないわけがない。
中曽根さんの時代には、日本の自衛隊が果たす役割が大きな争点となり、小泉さんの時代には、9.11発生でテロとの戦いが大きな争点となり、やはり日本はそこで何に貢献できるのか、ということになる。
本書は、それぞれの時代の大統領がどういうアジア戦略をとってきたのか、あるいはアジアから感心を失ったのかが時代の流れで説明されている。私自身が子どものときにニュースで耳にした断片的な単語が、歴史のストーリーになっていた。壮大すぎて、つかみきれないけれど。そして、アメリカのアジア戦略を理解したところで、今の私には、、、今の私の仕事にはなんら関係がない、、、気はするけれど、それなりに興味深いところがある。1993年のEU設立も、すでにイギリス脱退。NATOは膨らんでいく。。。かといって、私に直接かかわってくるのは、為替くらいか・・・。
過去を知ったからと言って、これから先に起こることはわからないけれど、、、中国の台頭もこれから先どうなるのか、やはりやってきたソ連と中国との蜜月。あるいはソ連と北朝鮮の蜜月。
これからさき、国際関係ニュースを耳にした時に、ちょっとは背景が理解できるかな、という気がする。でも、ベトナム、フィリピン、ミャンマー、、、、あるいは、台湾問題、、、根深いなぁ。
チョットだけ、覚書。
・ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ:1960年民主党トップで大統領に。共産主義とは徹底的に戦う姿勢。ベトナムの混乱のなか、1963年、ダラスで暗殺される。
ジョン・F・ケネディっておぼえていたけれど、フィッツジェラルドだったんだ。。。
・1960年 アメリカと日本の安全保障条約の改定にまつわる紛糾。 池田勇人首相とその後任は日本の国民所得を倍増することに国民の関心を向けさせた。
アメリカから見ると、そうみえるのだ。「とめてくれるなおっかさん」のポスターが東大に貼られていたことは、取り立てるほどのことでもない・・・。
・ニクソン大統領:中国に対する長期的視点の必要性を説いたが、周囲は眉をひそめた。一方で、極東の同盟国には、自主的な防衛努力の負担を高めた。
・ニクソン大統領と佐藤首相のワシントン会談 → 1972年までに沖縄返還の共同声明。ただし、当時アメリカの貿易収支悪化の一つとなっていた日本からアメリカへの繊維輸出に関する佐藤の声明は「善処します」という、”日本政治の典型的な言葉”で、ニクソン側の誤解を招いた。
この時の「善処します」は、通訳時事では有名な一言になってしまった。「 I will do my best.」と訳したので、積極的に対応するとアメリカ側が認識した、ということになっているけれど、、、。たしかに、言語としては、そう訳せる。問題は、そこには「気持ち」でしかなく、実行の「確約」ではないというふか~~い、日本的政治用語。。。willじゃなくて、「善処するかもしれない」と、maybeとかつければよかったのか、、いやいや、紛糾しちゃうだけで、曖昧で終わらせるという日本語活用がいかせない・・。難しい。
・通訳が絡む話の中で、極めて印象的な文章が。。。。
”中国の指導者たちとの首脳会談では、毛沢東 や周恩来がいつ微笑むのがいいかわかるように、彼らについた魅力的な女性通訳者たちは、ニクソンの冗談を聞いた時には、 通訳する前に微笑むように訓練されていた。 日本では、仏頂面の若い外務省員の男性たちが、誠実ながらも、いらぬ世話を焼くような通訳をしたことで、 ニクソンを退屈させ、「日本人と概念的な取引を行うことは不可能である」 とキッチンジャーに確信させたのだった。”
政治の通訳は、怖ろしい・・・・。
・1978年頃、 アメリカの納税者は日本の納税者の10倍以上もの金額を防衛のために支出していた。日本では、1976年の閣議決定に基づいて、 GNP 比 1%未満に抑えられた防衛予算となっていた。
ちなみに、2024年の日本の対GNP 防衛予算は、1.6 %。
・ロナルド・レーガン大統領:1980ー1989年。変革の大統領。 資本主義と自由、そして軍事力の関連を明確に認めた。中曽根首相は、これまでの日本の首相とはことなり、G7サミットの写真撮影の際、 必ず レーガンの隣に立った。
そんな中曽根さんも、2019年に101歳でなくなった。昭和時代でたった一人の令和時代まで生きた総理大臣。
本は、その後も、ブッシュ親子、ビル・クリントン、バラク・オバマの時代の話が続く。直近になると、少し評価があいまいな表現になっているように思う。政策の評価は、数十年くらいではしきれない、ということもあるかもしれない。
ちょっと、読むのがしいんどい一冊だったけれど、結局、さーーっと通読してみた。
じっくり読むには、昭和~平成~令和の日本の政治の歴史を先に理解したほうがよいように思った。まだまだ、わからないことだらけ。
それでも、地球は回っている。
なにも知らなくても、私のお腹は空く。
生きてるって、そんなもんよね。
わからないなりに、触れてみるっていうのも大事。
そういう読書でもいい。
読書は、楽しい。