『ゆきのもりのおくりもの』  by リンデ・ファース

ゆきのもりのおくりもの
リンデ・ファース 文・絵
西村由美 訳
岩波書店
2024年10月16日 第1刷発行

 

岩波書店の絵本、新刊として紹介されていた。昨年の秋に出版されたものだけれど、今更ながら図書館で借りて読んでみた。

 

著者のリンデは1984年、オランダ生まれのイラストレーター、絵本作家。ブレダの美術学校でアニメーションを学び、卒業後はアニメーターやイラストレーターとして活躍。2018年に初の絵本作品を発表し、『少年とクジラ』は10以上の言語に翻訳されている(残念ながら邦訳はなし)。2017年、生物学者の夫とノルウェーのトロムソに移住し、子供の頃から憧れていた極北の自然からインスピレーションを受けて創作を続けている。

 

本書の表紙はまさに「極北の自然!」という感じ。雪、雪、雪、背の高い樹木、そして小さく描かれたヘラジカと子ども。自然にどっぷり浸った絵本だ。

水彩画だろうか。透明感があり、優しいタッチの絵。

 

表紙を開くと、どこかの雪降る町のアパートの窓が並ぶ。家々には楽しそうな明かりが灯っているが、主人公ソフィーの家には明かりがついていない。パパはパーティーを開く時間もないほど忙しいのだ。

 

クリスマスの朝、ソフィーは「外に出たら素敵なことがあるかもしれない」と思い、コートを着てミトンをはめて外に出る。アパートの外階段を降りていくソフィーの後ろ姿。

濃淡のブルーで描かれたビル群と白い点々で表現された雪。寒そうな町の中に、黒いソフィーの足跡と影。

 

降りしきる雪の中、ソフィーの前に突然ヘラジカが現れる。

 

ブルーの町並みと雪模様の背景に、林のような木々。見つめ合うソフィーとヘラジカが描かれている。ソフィーのピンクの帽子が鮮やかなアクセント。

 

ソフィーはヘラジカに乗せてもらい、どんどん どんどん 進んでいく。

いつしか町を抜け、知らない世界へと入っていく。

 

雪が降り積もった森の木々。見開きのページには、白とブルーグレーの世界が広がる。ちょこんと描かれたヘラジカとソフィー、そして足跡。

 

ページをめくると、森の中に隠れていた動物たちが現れる。みんな白かブルーかグレーで描かれ、ほぼモノトーンの世界だ。ソフィーの帽子だけがピンクと水色、さらに赤いズボンとブーツが彩りを添える。色の使い方がいい。

 

森の中には、寂しそうに立つ一本のモミの木。

その前には湖が描かれており、キシキシとかすかな音が聞こえてくる。凍った湖面の表現がまた素敵だ。

ソフィーは動物たちと一緒に、モミの木をいろいろなもので飾り付ける。彼女は、綺麗になっていくモミの木にワクワクして嬉しくなる。

小さなモミの木は、それぞれが見つけた宝物である木の実や葉っぱで飾られ、見違えるようにきれいになって光を放ち、輝き出す。まるでおとぎ話の魔法のよう。

しかし、ソフィーはなんだかしょんぼりしている。心の中に小さな悲しみが残っているようだ。

 

すると突然、枝の間から「キシキシ」「カサカサ」という音が聞こえ、現れたのはパパ!

ソフィーはパパに抱きつく。動物たちがその様子を見守っている。

 

冬のオーロラの下で、モミの木が輝き、ソフィーとパパは動物たちと一緒にクリスマスを祝った。まるでこれまでもずっと、こうして祝ってきたかのように。

 

最後のページは見開きいっぱいに広がる湖とオーロラの空。白く光る小さなモミの木。

そして、宇宙の星のように輝く夜の雪……。

 

とても綺麗な絵本だった。

クリスマスの絵本だったんだね。少し季節外れだったけれど、北欧のクリスマスシーズンはこんな感じなのだろうか。素敵な自然の世界に触れた気がした。

 

大判の絵本なので、景色が広々と描かれ、その下の方にちょこんと描かれる動物やソフィーたちが何とも言えないアクセントになっている。表紙の絵を見ただけでも、北欧の冷たい空気の香りが漂ってきそうだ。

綺麗な絵本。 本当に素敵な絵だった。

 

そして、凍った湖をこう描くのか、、、と感心。本当に、きらきらとしていて、きしきしと不思議な音が聞こえてきそう。2023年1月に、阿寒湖を訪れた時、湖の不思議な音を聞いた。その時の景色が思い出された。あれは、明るい空が広がる阿寒湖だったけどね。

megureca.hatenablog.com

 

水を描くのって難しいけど、本作では凍った湖面が幻想的に描かれていて、素敵。

 

クリスマス前に読めばよかったな、とは思うけど。ママがでてこないのがちょっとせつないけど、ほっこり気持ちがあったかくなる。

北欧の世界、いつか行ってみたいなぁ。オーロラを地面からみて見たい。飛行機からじゃなくてね。

 

絵本は、世界が広がる。

たのしい。