『落陽』 by 朝井まかて

落陽
朝井まかて
祥伝社文庫
平成31年4月20日 初版 第一刷発行
* この作品は 平成28年7月、小社から四六判で刊行されたものです。

 

明治神宮  内と外から見た百年  鎮守の森を訪れた外国人たち』(今泉宜子(いまいずみよしこ) 、平凡社)の中で、 明治神宮造営の時の様子が 物語になった本 として紹介されていた。

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小説として読んでみるのも面白そうだと思って、図書館で借りて読んでみた。


著者の朝井さんは 1959年 大阪生まれ。 甲南女子大学文学部卒業。 2008年『実さえ花さえ』(のち『花競べ』に改題)で 小説現代長編新人賞奨励賞を受賞してデビュー。 その後、『恋歌』で 直木賞、『阿蘭陀西鶴』で織田作之助賞、『悪玉伝』で司馬遼太郎賞などなど、受賞作品多数。

 

私は、多分、初めて読んだ。ネットで本書を検索してみると、2016年 7月29日の日経新聞の書評記事が出てきた。

 

記事には、
”献木10万本、勤労奉仕のべ11万人、完成は150年後――この数字を見て何のことかお分かりの方は、そういないだろう。
答えは、明治神宮創建に関わる見積りである。
今年の朝井まかては、『眩(くらら)』『残り者』と傑作揃(ぞろ)いだが、ここにまた新たな傑作が誕生した。
明治天皇崩御に際し、渋沢栄一らは、神宮を帝都に創建すべしと主張するが、帝大講師・本郷高徳は、風土の適さぬ土地に森を造るのは不可能と反論。しかし、いったんことが決まるや、湊川へはせ参じた楠木正成の気迫をもってこれに当たる。
脇の人物も生き生きと躍動し、明治を生きた人々の志が胸を打つ絶対の感動本。”
とあった。

 

本の裏の内容紹介には、
明治天皇崩御―直後、渋沢栄一ら東京の政財界人は御霊を祀る神宮造営を計画、その動きは巨大なうねりになっていく。一方、帝国大学農科大学の本郷高徳らは、「風土の適さぬ東京に神宮林にふさわしい森を造るのは不可能」と反論、大激論に。東都タイムスの記者瀬尾亮一は、対立を追う同僚に助力するうち、取材にのめり込んでいく…。天皇と日本人の絆に迫る著者入魂作!”
とある。

 

目次
(青年)
第一章 スクープ 
第二章 異例の夏
第三章 報道 
第四章 神宮林
(郷愁)
第五章 東京の落胆 
第六章 国見 
第七章 洛陽
開設 門井慶喜

 

感想。
面白かった!
明治神宮造営のお話というよりは、その計画をめぐる報道のお話。主人公は、ジャーナリストだ。渋沢栄一も、神宮造営に 大いに関わっていたということ。フィクションと、ノンフィクションが混ざった歴史小説というか、フィクションというか、、、。


うん、これは、質が高い。。。面白いわ。明治神宮造営に特に興味が無くても、ジャーナリスト物語の小説として十分に面白い。明治天皇崩御の頃の日本の様子を知るにも勉強になる。

 

以下、ちょっとネタバレあり。

 

物語は、建武中興以来、500年ぶりの王政復古を前にした江戸、いやいや、東京の様子から始まる。

”1868年(明治元年)、天皇は東京に入り、二重橋を渡った。その後、江戸城は皇城(こうじょう)と改称され、東京の皇居と定められる。”
「幼冲の天子」と呼ばれる身であった、17才の明治天皇が、五箇条の誓文を胸に、新たな日本のために率先して励む覚悟の旅立ち。

 

が、物語は、別に明治天皇が主人公ではない。

主人公は、東都タイムス(三流の大衆紙)の新聞記者、27才の瀬尾亮一。時代は飛んで、日露戦争後の日本。戦争前には主戦派と非戦派に別れて、新聞各社が大きくにぎわった。新聞が身近になり、商業的に大きな飛躍をとげたきっかけが、日露戦争だったのだ。亮一は、帝大を出たにも拘わらず、官につとめず、報道の路を歩んでいた。

 

亮一は、貴族の御令嬢の婚礼話のスクープに、貴族のお家を訪ねている。その、貴族の家の中の様子、西洋料理を楽しむ様子が、なんとも古き日本。そして、ちょっとやくざな稼業といった感じの亮一。市蔵という探索仲間、ようするにタレコミ屋?!との付き合いもある。市蔵は戊辰戦争の経験もある。

 

と、そんな亮一が、市蔵から
「陛下のご容体が、いよいよいけないようです」
と、特種をもらう。これは、スクープ!とにわかに喜ぶ亮一。

 

東都タイムスには、亮一の同僚女記者の伊東響子、先輩の田中寛治らも活躍している。社長は、武藤。武藤は、大衆紙と言われようが、ジャーナリストとしての徳をもって記事を掲載することを大事にし、裏とりのできていない記事をスクープのように掲載することを嫌う。また、「アンナ・カレーニナのセリフ」をメタファーにしようとする文学的な趣も。べらんめー口調もあるけれど、男気のある武藤、という感じ。

 

明治天皇崩御は、官報をまっての掲載となる。

 

明治天皇崩御の様子と、それがどのように報道されたかの詳細が続く。天皇の病気恢復を願う人々が 二重橋に押し寄せる。天皇とは、いったい誰なのか・・・。 近代国家日本にあって、これほどの思慕をあつめる存在、、、、。亮一は、そんなことを想う。

どきどき、、、、。読み始めると止まらない面白さ。


そして、天皇崩御

陵墓は京都に築かれることとなり、「東京は負けたんだわ」という鏡子。一方で、
「 商業会議所に、 中野会頭と阪谷市長それに青淵(せいえん)先生も集まって協議が始まった。」と。

青淵先生、つまり、渋沢栄一

 

そして、先帝を祀る神社を東京に建設したいという運動を起こす委員会が発足する。
大正元年(1912年)8月27日、先帝は「明治」の元号諡号(しごう)として送られる。

そして、いかに、明治神宮の土地が選ばれ、森がつくられていったか。政治的動きと、学者の意見を尊重する動きと。各地からの献木、運び込まれる様子。

 

森は、100年かけて自生の森となるように計算されて木々が植えられた。だからこそ、今、私たちが明治神宮にいけば、とても人工的に創ったとは思えない、自然の様子を感じることができるのだ。

 

物語の中盤は、明治神宮造営に焦点が当たり、後半は明治天皇と皇后、その人となりに焦点が当たる回想記録のようになっている。

 

最初の方で、「天皇とはいったい何者なのか」という亮一の疑問が、後半の「明治という時代」を考え、天皇皇后について探求する話へつながる。皇后に仕えていたもと女官からきく、皇后の様子。これは、フィクションではなく、朝井さん自らが調べたことによるのだろう。亮一や武藤のジャーナリスト魂も、読んでいて心地よい。真実に向き合うことの熱意、情熱。。。。

 

最後は、完成した明治神宮の森のなかを、1000年続く森づくりに尽力した本郷と共に歩きながら、夕陽に足をとめる亮一、鏡子、田中。「落陽」。

 

読み応えがあるし、もう一度読み直したら、もっと明治から大正の日本の様子が理解できるかもしれない。

 

うん、良書。
朝井まかてさんの本、他も読んでみたくなった。
小説も深いなぁ、と思う。

 

ピーター・ドラッカーの書庫には、ビジネス書はなくて小説ばかりだったという。そう、人間を理解したいなら、小説がいいのだと、つくづく思う。ただ、物語を追って読むのではなく、、、実は読み込むほどに小説は面白くなる。そんな読み方、若い時はできなかったなぁ。。。

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本も色々あるけれど、読み方にもいろいろある。

読書は、深い。

重ねるほどに、楽しくなる。

 

読書は楽しい。