『AI と日本企業 日本人はロボットに勝てるか』 by 榊原英資・竹中平蔵・田原総一朗

AI と日本企業 日本人はロボットに勝てるか
榊原英資竹中平蔵田原総一朗
中公新書ラクラ 

2018年6月10 日発行

図書館の経済学の棚、竹中さんの本だから読んでみた。

かなり、色の濃いメンバーの鼎談 。

 

榊原英資さんは、1941年東京生まれ。元大蔵省財務官。東京大学経済学部卒業。1965年に大蔵省入省。財政金融研究所所長。国際金融局長を経て1997年に財務官に就任。1999年に退官。慶応義塾大学教授、早稲田大学教授を経て、青山学院大学教授、財団法人インド経済研究所理事長。


竹中平蔵さんは、1951年和歌山生まれ。元経済財政政策担当大臣。一橋大学経済学部卒業。大阪大学助教授、慶應義塾大学教授を経て、小泉政権下で経済財政担当政策担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣を歴任。2004年参議院議員当選。2006年9月に公職を辞し、東洋大学教授。慶應義塾大学名誉教授。


田原総一朗さんは、1934年滋賀県彦根市生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学第一文学部卒業、岩波映画製作所、テレビ東京 を経て フリーに。

3人とも空気を読まないタイプの人たち。

 

タイトルは「 AI と日本企業」となっているが 、AIに関することだけでなく日本のビジネスや政治に関して、一言モノ申す!!と言った感じ。

話がどんどん展開するのを、一応?田原さんがまとめていっている感じ。まとめるというか、次の議題にポンポン移したり、元に戻したり。

テンポよく、さらっと読める一冊。

日本の今の停滞の原因を理解するのによい一冊。


内容的には、竹中氏の著書、『この制御不能な時代を生き抜く経済学』とだいぶかぶる。時期もほぼ重なっている。そこに、二人の意見が加わったという感じだろうか。

構成は以下の通り。

まえがき 田原総一朗
第1章  AI 時代で日本はこうなる
第2章 自滅する日本の大企業
第3章 忖度政治とアベノミクス
第4章 格差拡大の大混乱期
第5章 中国国家資本主義とアメリカ経済
第6章 第4次産業革命に生き残れる人とは

 

本が出版された2018年、世界はトランプ政権、ブレグジット、ヨーロッパでの極右政党の台頭など、大きなグローバリゼーション変化・保守的動きの激動の中、日本だけは、なぜか安定していると海外からは言われていた。
ひとえに、島国で、移民の問題が少なかったからかもしれないが、国内に目を向けると、森友学園の国有地払い下げ問題、加計学園獣医学部設置忖度問題、、、政権批判の声だけは大きかった。そして、世界のAIの進展に乗り遅れていく日本、、というわけだ。

それで、AIと日本企業というタイトルなのだろう。

 

第一章では、日本は規制によって、自由に新技術導入が出来ないという問題。自動運転も、今の道路交通法では「人が運転すること」となっているので、法律を変えないと導入できない。様々な規制がなくなり、AIがビジネスに導入されれば、サービス業だけでなく、弁護士や会計士のような資格のいる仕事も、一部、AIにとってかわられるだろう、と。やはり、のこるのは、クリエーターか。でも、AIになっても、マネジメントは必要なわけだし、機械のメンテも必要で、技術の変化で仕事がなくなればその分新しい仕事が増える気がする。駅の自動改札だって、切符を切る人はいなくなったけど、自動改札の装置をつくり、設置し、メンテナンスする人は必要だ。ま、今の若い人は切符を切る国鉄社員、とかいってもわからないのかな、、、。

 

第二章、日本の大企業の関しては、企業にもはびこる「官僚の無謬性」、空気を読んで粉飾を指摘できなかった東芝東芝に関しては、本書のなかでも逮捕者がでないのはおかしい!と、竹中さんも榊原さんも声をそろえる。
伊藤忠の社長だった丹羽宇一郎さんの言葉が引用されていた。
「日本はポジティブ・リストだ」と。その一番の典型が自衛隊自衛隊は原則としてこれをやってもいいよ、というポジティブ・リストに上がっていることだけしかできない。対照的なのがフランスやイギリスの軍隊。彼らはネガティブ・リストつまりこれはやってはダメだよということ以外全部やってもいい。

なんだかちょっと、、、すごく分かる気がする。 これはやってはいけないという基本が抜けているから上司から言われたことは何でもやってしまう。。。こわいこわい。

竹中さんは、そこには、法風土の違いがあるという。成文法主義か、判例法主義か。日本は成文法主義。だから法律に書かれている通りにやる。判例法主義は、アメリカのような社会。やってみて、何かあったら裁判で、事後規制する。
成文法はもともとは大陸法と言われていたが、本家のフランスもドイツも、基本的には判例に基づくようになってきた。日本だけが、ものすごく古典的成文法主義をとっている、ということ。

うむ。


ルールが多い。
書いてあることしかやってはいけない。
前例がないから、やってはいけない。。。
むむむ。
打破したい、と思う。

 

他に、アベノミクスの金融緩和と財政出動はそこそこやったけれど、成長戦略はまだまだ、、、。民主党政権は日本のポピュリズムの表れであり、ただ「下手なばらまき」をして、官僚を敵に回して、ぐちゃぐちゃになった、、、国民はそれに懲りたから安倍政権が長く続いた、と。

トランプは、エビデンスではなくエピソードで政治をやったという話。なんとなく耳障りのいいエピソードで、さも成果が出ているかのようにアピールする。

アメリカのヒルビリーのエレジー。コツコツ働いてきたけど、工場の移転などで職を失った恵まれない境遇のアメリカ人の話。格差は今や人種ではない。

 

格差問題は、やはり、再配分をどうするかという話へ。第四次産業革命がすすみ、AIがもっと生活にはいってくると、AIを使いこなす人と、AIに使われる人とでさらに格差は広がるだろう、と。
やはり、格差の解消には国の介入が必要で、その一つに、この本のなかでも「ベーシックインカムが取り上げられていた。


また、竹中さんは、日本は所得税が低すぎると言っている。累進課税で、高所得の税金は世界的に見ても極めて高いのだが、税率10%の人が多すぎるのだと。税率10%以下の人口は、イギリスでは15%、アメリカ・ドイツで30%、日本はなんと80%なのだそうだ。それは知らなかった。日本は、貧しいのではなく、税金を払っていないのだと。。。

だいたい、年収1000万円をさかいに、大きな差がでてくるとのこと。


なるほど、そういうこともあるのか、と思った。

サラリーマン時代は、源泉徴収で、がっぽり持っていかれるのが当たり前で、率まで考えたことがなかったけれど、正直、ある年収を越えると、税金や社会保障費がどんどん増えて、手取りが増える気がしなかった。1000万円くらいがお得??なのかもしれない。。。。

 

田原さんは、高齢化になるのだから、定年を74歳にすればいいというのだが、それはどうなのかな???と思う。いずれにしても、一般企業の定年は企業がきめることで、国に強制されるのはおかしいと思うけど。。。。
私は、定年60のままで、60以上でも再就職や起業の機会が増えればいいと思う。
そのまま、居座られると、若者への世代交代が遅れていくように思う。

 

結局、この本で伝えたいのは、若者でも高齢者でも、混乱期を乗り越えられる人材になる必要があるよ、ということ。

若者は若者なりの、高齢者は高齢者なりの、中堅は中堅なりの。


そして、そのために必要なのは、体力ももちろんだが、「困難を面白がれる」ということ。

ロボットは、面白がれないからね。

人間は、楽しむことが出来る。

 

起きていることは正しい。

どう認識するかが問題、ってこと。

 

悲劇も喜劇も紙一重

命さえあればね。

 

さらーーっと読める、なかなか面白い本だった。

新書は、コンパクトにまとまっているので、読みやすい。

 

読書は楽しい。

 

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『AIと日本企業 日本人はロボットに勝てるか』