『危ない読書  教養の幅を広る「悪書」のすすめ』 by  佐藤優

危ない読書
教養の幅を広げる「悪書」のすすめ
佐藤優 作家・元外務省出席分析官
SB新上554
2020一年9月15日 初版第1刷発行

 

めちゃくちゃ面白かった。

 

たまたま図書館で見つけて借りてみたのだけれども、今年の9月15日が初版第一刷。9月28日は第2刷発行になっている。確かに面白い。紹介されるのは、20冊。かなり古い本もあって、図書館で検索すると「禁帯出本」だったりするものもある。実のところ紹介された20冊の中で読んだことがあるものは一冊もなかった。しいて言えば、読んだことのある著者は、堀江貴文村田沙耶香くらい。紹介された『ゼロ』(堀江貴文)も、『地球星人』(村田沙耶香)は読んだことがない。
佐藤さんの解説を読むと、どれも面白そうだ。私はドストエフスキーの作品で読了したものは1つもない、気がする。。。読み始めたことはあるし、内容は、なんとなく知っているけれど、たいて挫折してしまってきた。しかし、『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』、いつか熟読してみたい、と思った。


佐藤さんが「悪書」といいながらすすめる理由が、「はじめに」と「おわりに」で書かれている。

 

”「悪書」この言葉を聞いて思い浮かぶイメージは、人によって様々である。読む価値のない本を思い浮かべる人もいれば、社会にとって害悪を出す本と考える人もいるだろう。私の考える「悪書」とは、現代人にとって咀嚼しにくいような強烈な個性を放つざらざらした本である。生理的に受け入れがたい、ざらざら感のある本。普段であれば決して手に取らないような本。そういったもの読むことを通じて、世の中と自分を多面的に捉える絶好の機会となるから、あえて「悪書」をすすめる。”
と。

 

選んだ基準は次の通り
・現在の日本人にとって異質さを感じる著者もしくは作品
・このまま歴史に忘れ去られてしまってはもったいない作品
・現実社会を動かした(動かしている)人物の描いた作品
・タブーに挑んだ作品もしくは人間の本質をえぐるような作品

 

”荒唐無稽な内容のいわゆるとんでも本は取り上げていない。気になった作品だけでも実際に読んでみることをおすすめする”、と。

20冊が、そのまま目次になっているので、以下に覚書。

 

第一章 独裁者の哲学  彼らはいかにしてひとを操ったのか?
我が闘争』 アドルフ・ヒトラー
レーニン主義の基礎』スターリン
『書物主義に反対する』 毛沢東
金正恩著作集』 金正恩
『国体の本義』 文部省教学局

 

第二章 過激派の知略 彼らはなぜ暴力を用いたのか?
『戦略論』 クラウゼヴィッツ
『クーデターの技術』 クルツォオ・マラパルテ
プロパガンダ戦士』 池田徳眞
『読書のしかた』 黒田寛一
パルタイ』 倉橋由美子

 

第3章 成功者の本性  彼らは何のために富を得たのか?
カルロス・ゴーン 経営を語る』 カルロス・ゴーン/フィリップ・リエス
『トランプ自伝 不動産王にビジネスを学ぶ』 ドナルド・J・トランプ/トニー・シュウォーツ
『告白』 井口俊英
『ゼロ』 堀江貴文
『死ぬこと以外かすり傷』 箕輪厚介

 

第4章 異端者の独白  彼らはタブーを犯して何を見たのか?
『わが闘争・猥褻罪 捜索逮捕歴31回』 大坪利夫
『突破者 戦後史の陰を駆け抜けた50年』 宮崎学
『邪宋門』 高橋和巳
カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー
『地球星人』 村田沙耶香

 

どれも、読んでみたいと思わせるものである。確かにもう読んでいて気持ち悪くなりそうな本もありそう。ヒトラー金正恩、トランプ、いまさらのカルロス・ゴーン
それでも佐藤さんが解説してくれているので、手に取ってみようかなと言う気になる。

大坪利夫は、「大人のおもちゃ」という言葉を作った人。宮崎学は、グリコ・森永事件の最重要人物「キツネ男」と言われた人。

パルタイ』 倉橋由美子は、日本共産党の本質がわかる本。

カルロス・ゴーンは、確かに今では逃亡しちゃったけれど、彼がいなければ日産は再浮上しなかったことを考えれば、彼をただの強欲な人間と言ってしまうのはもったいない。日本の経営者は報酬が1億円をこえると、有価証券報告書に記載しなければならなくなるから、ぎりぎり1億円以下にして、豪華な社用車に乗ったり、交際費使い放題。どっちがホントの強欲だ?と。

 

トランプは、政治になんて興味がない、大きなディールが好きなんだと、本書に書いている、とか。そして、大きなディールが好きだという性格が、堀江貴文と似ている感じがする、と書いている。

あ、、、ちょっとわかるような気がする。

堀江貴文のところでは、かれはチャーミングな男であるけれど、国家を怒らせることに鈍感だ、とか。

国家だけでなく、人を怒らせることに鈍感な気がする。

箕輪厚介については、バカを売り物するのはいいけど、それは、長くは続かないだろう、、と、佐藤さんは冷静だ。

『死ぬこと以外かすり傷』が出版された時、タイトルに興味をもって、一度本屋でぱらぱらっと立ち読みして、くだらない、とおもって、読まなかった本だ。せっかくなので図書館で探してみるか。。。

 

『地球星人』は、少しネタバレが含まれているのだが、ホントにざらざらしそうだ。地球は人間工場なので、子供を産むことを強制される社会。彼女の『コンビニ人間』を読んだ時、面白いのと、ヤバい話だな、というのと、他の本に感じない妙な感じがしたことを思い出した。そういう話を書ける人なのだろう。

 

ここには出てこないが、私にとって、この作家はもういい、、、と思うほどざらざらだったのは、桐野夏生だ。『グロテスク』を読んで、二度とこの人の本は読まない、、と思っていたのに、『日没』を読んで、さらに吐きそうなぐらい気持ち悪い本で、読んで後悔した。。。ただ、「好きか嫌いか」の感想しかなかったけれど、佐藤さんは、なぜそう感じたのかを大事にするべきだ、と「おわりに」で言っている。

今思えば、どちらの作品も「女」のいやらしさや、「権力」による暴力的な圧力、救いようのない話で、希望がどこにもない作品だから、嫌だった。女が「性」を武器にする話や、「権力」に人が負けていく話が、私は好きじゃない、ということに改めて気が付いた。

 

「おわりに」を読むだけでも、この本を読んでみる価値があるかもしれない。

佐藤さん曰く、
”例えば、禁煙運動に熱心な人は、自分のことを悪だとは思っていない。しかし健康のために他人の権利を奪って良いと考える不寛容な思想は、健康大国だったナチスに通じる思想であるとことくらいは知っておいた方が良いだろう。津久井やまゆり園を襲撃した植松死刑囚も、自分がやった事は正義だったと思っているし、おそらく今でも考えかたは変わっていないだろう。

健全な常識を育み続ける努力は必要なことだと思うのだ。

今回取り上げたような異質な作品を「良い悪い」や「好き嫌い」といった主観に引きずられずに大局的な視点から読んでみる事は、健全な常識を育む有効なトレーニンになるし、抵抗力を高めるワクチンの役目を果たす。

もしいまの自分の読解力では、その作品の内在的論理を自力でつかむ自信がないのであれば、まず解説書を読めばいい。それも立派なトレーニングである。”

 

なるほどなぁ。

 

読書って、好き嫌いだけではない楽しみ方もあるのだなぁ、と気づかされる。

 

ちなみに、先日おおいに感動した『数学する身体』(森田真生)、過去の読書マインドマップ雑記をぱらぱらとみていたら、2019年10月27日に、読もうとしていた。

megureca.hatenablog.com

マインドマップは、スカスカで、「感想:ひとことで言って、よくわからん」、、と書いていた。それが、今年読んだ時には、素晴らしく感動したのだ。たった2年の間に、私に何が起きたのだろう、、、我ながら不思議に思った。

 

本は、読むたびに新しい発見をもたらしてくれる、という事なのだろう。

 

読書は楽しい。

読みたいと思う本がたまっていくのも、楽しい。

 

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『危ない読書 教養の幅を広げる「悪書」のすすめ』 佐藤優