『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』 by  佐藤航陽

お金2.0 新しい経済のルールと生き方
佐藤航陽
幻冬舎
2017年11月30日 第一刷発行

 

新聞の広告欄に、『世界2.0』というのがでていて興味を持ったのだが、著者のことは良く知らない。なので、図書館で借りようかと思ったら、無かった。代わりに、同じ著者の本を借りて読んでみた。

 

表紙の裏には、
「本書を読んでくださった方々が
お金を『ツール』として深く理解することで今まさに始まりつつある『新しい経済』を上手く乗りこなし自分のやりたいことが実現できることを強く願っています。」
と。

 

感想。
なかなか面白い。
幻冬舎の本。参考資料が掲載されているわけではなく、あくまも彼の個人的考えであるという域をでないのだけれど、それでも、結構面白かった。これにきちんと引用文献が掲載されていれば、もっとよい書籍になると思った。


著者の佐藤航陽(さとうかつあき)さんは、1986年生まれ。若い!
福島県生まれ。早稲田大学在学中の2007年に株式会社メタップスを設立し代表取締役に就任。2011年にアプリ収益化支援事業を開始。世界8拠点に事業を拡大。2013年より決済サービスを立ち上げる。2015年に東証マザーズに上場。累計100億円以上の資金調達を実施し年商100億円以上のグローバル企業に成長させる。

 

成功している若者、ということなのだろうが、最初の彼自身の生い立ちが語られる。福島は、今では震災や原発で名前はしられるようになったが、特に特徴のない田舎だったと。そして、お世辞にも裕福と言える家庭ではなく、母親と兄妹3人。一番厳しい時は世帯年収100万円だったが、それが当たり前だったと。
ただ、小学生になってどうやら我が家は「お金」というものが無いらしいことに気が付く。
そして、「人生って平等じゃない」と疑問を感じるようになる。
大学一年生の時、
幼少期からずっと自分の人生に影響を与え続けてきた「お金」の正体を掴み、今よりも良い社会の仕組みを自分の手で実現しようと考えた、と。

本書では、経済、お金の仕組みが語られる。そして、お金はツールでしかないということ。お金に振り回される必要はないのだ、ということが語られる。
かつ、お金も経済も、まだまだ進化の途中であり、人間はもっと違う存在をめざせる、と。

少し、先日読んだ、限界費用ゼロ社会』ともつながる。
社会は、コモンになっていく。
お金だけが求めるべきものではなくなっている。そういう話。

 

たぶん、最初に、なぜ彼が経済やお金の仕組みを理解したいと思ったのか、実体験から語られているところがこの本の魅力になっている気がする。
ものすごく斬新で画期的なことが書いてあるわけではないのだけれど、一人の青年が自分の経験から導き出した自論が展開されていて、そうだよね、そうだよね、とおもわず、うなずく感じ。

 

曰く、多くの人の人生の悩みは、
①人間関係
②健康
③お金

ごもっとも。

その、お金の悩みを解き放とう、という話。

 

目次
第1章 お金の正体
第2章 テクノロジーがお金のカタチ
第3章 価値主義とは何か?
第4章 「お金」から解放される生き方
第5章 加速する人類の進化


お金の正体では、まず未来の方向性を決める三つの要素のうちの一つがお金であるという話。


未来の方向性は、
①お金(充分にあるかないか)
②感情(人の好き嫌い)
③テクノロジー
それぞれのベクトルが同じ方向を向いたときに、未来に向かて進むという解釈。

 

そして、経済の仕組みが回る(会社や社会がうまく動く)には、
①報酬(頑張れば報われる)
②変動 (リアルタイムに変化や成長を感じる)
③不確実性(決まり切った結果だけでない)
④階層序列(ヒエラルキー、肩書のようなものが得られる)
⑤交流(ひととコミュニケーションできる)
が、人のモチベーションとして必要だという。

 

加えて、社会全体がその方向に動き、持続性をもたらすためには、
①寿命による移動先(システムが時代にあわなくなったら別のものに場を渡す)
共同幻想(共通の目的)
も必要だという。

なるほど、旨い表現だ。

彼自身が起業して色々経験したことからそう結論している感じが、ただの頭でっかちではない感じがして面白い。

 

社会は有機的なシステムとして動く。そして、自然、社会、人間、細胞、それぞれはその中に包含される。だから、自然の秩序に反するルールは危険だし、長続きしない

自然のルールに近いほど社会に普及しやすく、かけ離れた仕組みほど悲劇を生みやすい、という。


具体例として、マルクスの「社会主義を取り上げている。
多くの共感を得たという点では、感情のベクトルはとらえていた。
しかし、私利私欲の否定、政府によるコントロール、競争の否定は、自然の性質にはそぐわない仕組みだった。だから、結果的にうまくいかなくなった、というのが彼の説。

 

テクノロジーに関しては、本来「保存・尺度・交換」であったお金の価値が、資本が資本を生むことで、「作る」対象になっていったということ。実際の国の貨幣だけでなく、「トークン」「ビットコイン」といった貨幣外のお金がテクノロジーによって生み出されるようになった。
これは、「経済そのものの民主化と彼は呼んでいる。

 

印刷技術によって、知識が一般の人の自由になったように、インターネットの技術によって、交換手段としての価値を一般の人も生み出せるようになった。それが経済の民主化
なるほど、うまいこと言うな、と思った。

 

そして、本来、手段であった「お金」が金融工学などで増やす対象となり、手段が目的化されてしまった、と。プライマリー経済ではなく、セカンダリ経済によって、実体経済と関係ないところでお金が動くようになったということだ。そして、リーマンショックのようなことが起こる。プライマリー経済は健全だけど、やはりセカンダリ経済だけで資本が動くのは健全ではないのだ。

 

価値主義については、将来どうなるかわからないお金より、自分自身の価値を高めたほうがよい、という主張。「価値主義」は、彼の造語。

かつ、自分の価値は、自分で保存できる、と。お金としての価値ではなく、社会的な自分の価値を高めることが重要ではないのか、と。
そして、今や、これまで価値として測ることができなかったものが、フォロワーの数、いいね!の数などとして、可視化することが可能になってきた。その価値が、果たして正しいのかは分からないので、各自の判断が必要になるけれど。

 

彼曰く、評価のされかたも、「お金持ち」から、「フォロワーの多い人」に変わっていくかもしれない、と。


今までと違うルールで回る経済は、それぞれの優越を比較しても仕方がない。各自が自分にあった経済を選び、試行錯誤をしていく。
自動車が発明されても自転車はなくならなかったし、掃除機が発明されてもほうきはなくならなかった。新しい技術と古いものは、共存できることもあるのだ、と。

 

イギリスの作家、ダグラス・アダムスの言葉を引用している。面白い。

人間は自分が生まれた時にすでに存在したテクノロジーを自然な世界の一部と感じる。
15歳から35歳の間に発明されたテクノロジーは新しくエキサイティングなものと感じられ、35歳以上になって発明されたテクノロジーは自然に反するものと感じられる

 

たしかに、その通りかもしれない。
50歳を過ぎると、流行りものに懐疑的になりがち。気をつけよう、、、。

 

最後に、「お金から解放される生き方」では、世代の違いを指摘している。
彼に言わせると、バブル世代は、なんだかんだ言っても高度成長期の続きで、欠けているものを満たす、マイナスからゼロに持っていきたい、という強烈な上昇志向だった、と。

はい、その通りでしょう。

今でもみんなそう思っているかは、違うと思うけど。

一般論で言えば、バブル世代はバブル世代よね。


1980年代以降に生まれたミレニアム世代は、すでに比較的裕福になった社会で育ったので、お金や出世のようなものにモチベーションを感じにくい。

そのかわり、「生きがい」のある仕事をもとめる。
人生の意義や目的を提供している組織での仕事をもとめる。

 

いいんじゃないの、と思う。


確かに、時代は、お金至上主義ではなくなっていると思う。

もちろん、お金は必要だ。
でも、お金のために働くより、やりがいのために働く方が、人は幸せを感じられるように思う。

でも、なにが自分にとって本当の「やりがい」なのか、気が付くのにはそれなりの時間が必要な気もする。そして、その気づきは、何歳でも遅くない

 

私が生きてきた時代は、お金が必要だった。90年代、シェアサービスなんてあまりなかったし、欲しいものは購入するのが一般的だった。

でも、いまはレンタルもシェアも色々ある。あるいは、リサイクルに回す、メルカリで売るなど、個人がモノを売ることも容易になった。

明らかに昔よりお金がかからなくなっていると思う。工夫次第。

少なくとも、今の私はお金に振り回されずに生きていける。

とまぁ、30年サラリーマンして稼いだからいえるのかな、とも思うけど。


彼の本、他も読んでみたい、と思った。 

 

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『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』