『パラサイツ 地方病院の闇』 by  杉敬仁

パラサイツ
地方病院の闇
杉敬仁
幻冬舎
2021年12月8日

 

新聞の広告欄で見つけて面白そうだったので、図書館で借りてみた。 

広告には、
”命を預かる病院の裏側では、パラサイツ(寄生者たち)が跋扈していた。
病院を食い物にする銀行や建設会社、創業者一族……。
パラサイツによって蝕まれた病院の経営がひっ迫していくなか、
地方総合病院の財務と医療事務全般を取り仕切る医事課で、
病院存続と患者本位の医療を提供する医師たちのために孤軍奮闘する主人公。
しかし、メインバンクの融資が差し止めになり、弱り切った組織に追い打ちをかける。
次々と襲いかかる院内の問題が、病院を破綻に追い込んでゆく。”

 

いわゆる、病院のドロドロ経営のフィクションらしい。

 

感想。
いわゆる、善が悪党に勝つ、正義の勝利、というほっとするストーリー。
面白いと言えば面白い。
ストーリーに驚きがないといえば、驚きがない。
これまでにもありそうなストーリー。
ただ、これはただ楽しく読んでもらいたい本ではないようだ。
著者は、フィクションとして書くことで、世の中には組織の内部にはびこる邪悪なものが沢山あることを、もっと世の人に知ってもらいたかった、ということのようだ。そして、どう闘うか。

あとがきに、その想いが書かれている。

半沢直樹みたいな感じ?
白い巨塔とか、ドクターXとか、、、そんな病院の世界の話だけれど、医師が主役ではなく、病院の事務方が奮闘する物語。

 

あっという間に、読める一冊。

悪党に憤慨しつつも、主人公を応援して、頑張れ~~と思いながらあっという間に読んでしまった。

 

著者の杉敬仁さんは、1955年2月9日生まれ。1979年福岡県立修猷館高等学を経て、早稲田大学卒業。大手証券会社、製造業、医療法人を経て今に至る。

 

あとがきには、(臥薪嘗胆)とあり、著者の社会への想いが語られる。
40年の証券・製造業・医療と異業種を経験した過程で、組織の中の阻害要因にあまた遭遇したことから、本書の執筆に至った、と。


組織成長の阻害要因となっているパラサイツは、
”その習性として自らが増殖可能な場所を選ぶ。健全で公明正大かつコンプライアンスが行き届いた場所を忌み嫌う。不完全で依怙贔屓が蔓延し、私利私欲を満たす環境こそがもっとも彼ら存続最適地となる。彼らの生命線は「理不尽」である。社会常識など通用しない。理不尽の源は「個人の私服」である。”と。

 

あぁ、、、わかる、、、と思ってしまう。

ことの大小はあれど、大企業であれば、どんな組織にも「個人の私服」に執着する人は

いると思う。

 

でも、このようなパラサイツによる負のスパイラルを断ち切り、組織を再起・再生させるために必要な6つのスタンスがあるという。

・相手が邪道であればあるほど戦意喪失することなく立ち向かうこと
・理不尽不条理から逃避しないこと
・正攻法で退治していれば孤軍ではなく必ず援軍が現れる
・自分を信じて仲間を信じて
・施して報いを願わず、受けて恩を忘れず
・知識は過去、知恵は未来
と。

大事なことはどんな苦境の時も諦めず逃げないこと。邪道に染まらず、常に正攻法を貫く。孤軍奮闘ではことは成し得ない。困難のとき、必ず信じた人々が援軍についてくれた、という。

きっと、ろくでもないことに沢山たちむかったのだろうな、、と思った。




以下、ネタバレあり。

 

主人公は、兵庫県の鈴原病院で、事務課に務める46歳の竜崎仁。以前勤めていた病院の看護師に、実家の鈴原病院を立て直してもらいたいと相談され、東京から引っ越してきた。
その看護師は、「必要なら親族を追い出していい」といっていた。つまり、彼女から見ても腐った病院になってしまった鈴原病院だった。
竜崎が鈴原病院にいった当時は、治療費を踏み倒す患者、恐喝まがいで金をせびりに来る迷惑者などが沢山で、いったい、この病院はどうなっているんだ??という状況。
それを竜崎は、ひとつづつ、正攻法で片づけていく。


病院の懐具合は決して安泰ではなく、鈴原理事長をはじめ、その息子、妻などの散財、そして経営怠慢が原因だった。理事長そのものがパラサイツだったわけだ。

そして、ある日、メインバンクから融資の停止を言い渡され、病院をM&Aにて再生せる、と言われる。1億円が月末までに用意できなければ、病院はなくなってしまう。。。
独自で、様々な改善に取り組んでいた竜崎は、部下の丸山とともに、1億円を正攻法で集めることに成功する。とはいえ、今後の改善実行にも、資金の後ろ盾は必須。
そんな時、大手商社である華村商事が援軍となって、竜崎らを支えてくれる。

竜崎らの奮闘の一方で、鈴原は自分の私利私欲にしか興味がない。そのとんでもなさぶりが、ヒドイ。。。しかも、鈴原の周辺取り巻きも、なんとか鈴原の利権をまもって、自分もその甘い汁を吸おうとする。。

竜崎らは、それらの周辺パラサイツへも、毅然とした態度で臨み、ひとつづつ問題を解決していく。

繫ぎの資金の綱渡り、ぎりぎりのところで進みつつ、銀行の横柄な態度も動じず、援軍を信じて粛々と行動する竜崎と丸山。

横柄なデューデリジェンス、バンクミーティング(法人などの債権者である銀行が一同に会して行われる会議)での敵対心むき出しの発言などにも、竜崎は毅然とした態度で立ち向かう。

援軍となったのは華村商事とそのグループ企業の人々だった。再建計画の再考、融資、様々な点で援軍にささえられつつ、メインバンクと戦いつつ、竜崎らは、病院の立て直しをするとともに、パラサイツの追い出しにも成功する。

 

そして、2年以上の月日を経て、病院の経営は無事に黒字に転換する。

めでたし、めでたし。

 

そんな、お話。

 

ストーリーの中で、竜崎が鈴原理事長のろくでもない長男を表現している文言が、笑える。

① 自意識過剰
② 自己中心的
③ 血縁至上主義
④ 猜疑心が強い
⑤ 依存心依頼心が強い
⑥ 羞恥心がない
⑦ 執着心が強い
⑧ 劣等感が強い
⑨ 品性下劣
⑩ 責任転嫁がうまい
⑪ 論理的判断ができない
⑫ 傲岸不遜(ごうがんふそん)
⑬ 臆病・小心
⑭ 自己保身が強い

 

いやぁ、すごい人物像を作ったもんだ。

救いようがない。

でも、こういう人にはこういう人についていく人がいるという、世の中の不思議。

 

こういう話って、『半沢直樹』と同じで、そういう悪が身近な人ほど面白く読めるんだろうな、という気がした。

半沢直樹』だって、自分も理不尽な目にあっている、と思う人の共感を呼ぶのだろう。「倍返し」って、穏やかじゃありませんなぁ、と思う。私はドラマを見てないから詳細は知らないけど。

 

そういえば、半沢直樹が流行っていた時に、何かの時に「半返しだ!」って姉に啖呵を切ったら、「いうなら、倍返しでしょ」と、爆笑された、、、、。

 

古くは水戸黄門から、人は悪党が正義のみかたにやっつけられる話が好きなんだなぁ。

 

悪があれば、善がある。

善があるから、悪があるのか。

 

フィクションを読むことは一つの疑似体験。

こんな横柄な輩のいる世界が身近だったら、とっとと逃げ出そう。

それも、一つの戦略だ。

 

『パラサイツ』