『フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者』 by  シャルル・ペパン

フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者
シャルル・ペパン
永田千奈 訳
草思社
2022年2月2日第1刷発行

 

色々なところで話題になっていたので、読んでみた。
今年の出版だけど、原書は、2012年。

 

著者のシャルル・ぺパンは、1973年パリ郊外のサン・クロー生まれ。哲学の教鞭をとる傍ら、教科書等もかいていて、本書は、〈Librio MEMO〉というフランスの老舗出版会社フラマリオンが刊行している学生向けのコレクションの一つ。ほぼすべてが3ユーロと低価格のブックレットで、様々な分野のテーマタイトルが網羅されているそうだ。原書のタイトルを直訳すると、『バカロレアの哲学試験で避けては通れない10人の哲学者』という意味とのこと。

 

フランスのバカロレア(大学入学資格試験)では、哲学の筆記試験があるのだそうだ。日本の大学受験で哲学を一生懸命に勉強するというのは、あまり一般的ではない。フランス人の議論好きの背景は、哲学をたくさん勉強しているから、ということもあるのかもしれない。

 

訳者の永田さんはフランス文学専攻、ルソーの『孤独な散歩者の夢想』も訳しているそうだ。といっても、哲学が専門というわけではなさそう。

 

3ユーロのブックレットが原書、ということで、本書もそんなに分厚いわけではなく、訳者あとがき含めて163ページ。シンプルにわかりやすい。

10人について、それぞれの基本的主張と、それを今を生きる私たちはどう生かせばいいのか、一方でどんな問題発言(物議をかもした発言)があったのか、ということがまとめられている。とても読みやすい。だがしかし、やっぱり、哲学者のはなしなので、難解な事も無きにしも非ず、、、。一度さーっとよんで、もう一度読み直した。

 

10人は、プラトンからサルトルまで。紀元前から20世紀までのあいだで選ばれた10人。それぞれになんとなく、主張が脱構築しながら繋がるような感じで取り上げられている。10人、それぞれのキーワード、そして著者が「○○からのアドバイス」としてそれぞれの最後にまとめている言葉を覚書。

 

1.プラトン(BC428~)
イデア・可想会・理想の世界は天界・理想は天にある・数学
アドバイス:何時も他人に意見をもとめて、決断できないあなたへ
自分に自信を持て。そして他者と対話する。その中に真理がある。

 

2.アリストテレス(BC384~)
プラトンの弟子だけど、プラトン批判・カイロス(時間軸)・形而上学・中庸
アドバイス:いつも極端すぎるあなたへ
勇気とは、無謀と臆病の間にある。両極を考えたうえで中間をとる。

 

3.デカルト(1596~1650)
われ思う、ゆえにわれあり・『方法序説』・思考実験・知識と信仰の混同
アドバイス:優柔不断で決断できない。事なかれ主義に悩むあなたへ
「優柔不断は、悪よりも悪い。完全な解決を求めず、不確実でも行動すること。

 

4.スピノザ(1632~1677)
『エチカ』・人間の幻想批判・神の否定・無神論者・受動から能動へ・森羅万象・自然が先生
アドバイス:自尊心を傷つけられてつらいあなたへ
「なぜ傷ついているのかは関係ない。外から影響を受けていることが辛いことなのだ。であれば、受動から能動に転じることで、悲しみに対抗できる。

 

5.カント(1724~1804)
純粋理性批判・知識と信仰の混同を批判(デカルト批判)・信仰も知識も美しいが別物
アドバイス:道徳の問題で迷っているあなたへ
「友人のためのウソならいいのか、暴力には暴力で応えていいのか。自分の行為が道徳的か判断に迷ったときは、それが『普遍的か』を自分に問うてみる。普遍的ルールとして成立するのならが、あなたの行動は道徳的に正しい。

 

6.ヘーゲル(1770~1831)
弁証法・歴史の蓄積で歴史を学ぶ・理解することへの情熱
アドバイス:言いなりになるのが嫌で、動けなくなってしまったあなたへ
この行動は、本当に自分の意思によるものなのか、自分が選んだことなのかわからなくなってしまったあなた。人間の自由は、行動の源にあるのではなく、行動の結果である。つまり、自由とは行動によって生まれるものなのだ。まず行動すればいい。

 

7.キルケゴールド(1813~1855)
理解不能なものへの情熱・神の神秘・哲学者ではなく宗教学者(byサルトル
アドバイス:決められないあなた。決断できない、選べないあなた
選択と決断は別物だ。選択は理性的判断があり、説明できるもの。決断には理性を越えたものが作用する。決断は科学ではなく、芸術だ。論証よりも直感。決断とは自分の内なる動きを感じ取り、時に理性を犠牲にしても心の声に従う事。理づめで納得した選択でも、そこに決断がなければむなしい。

 

8.ニーチェ(1844~1900)
キリスト教は人民のためのプラトン主義・形而上学の追求と否定・考えて生きる
アドバイス:退屈な人生を生き、何の感動も覚えないあなた
「生活の中の一瞬を切り取ってみる。その瞬間が未来永劫、つまり永遠に繰り返されてもいいくらい、その瞬間を愛しているか? ノーなら、生きる価値のない時間だ。永劫回帰していい時間と無駄な時間を仕分けていく。繰り返していくうちに、大切な時間だけがのこり、充実した日々を送れるようになる。

 

9.フロイト(1956~1939)
能動的無意識の存在・精神学者
アドバイス:死が怖いあなた
「死のような強迫観念を忘れようとすると、苦悩は深まる。忘れる必要はない。人は、死を考えるからこそ、濃密で充実した人生を人間らしく生きることができる。死が怖いのはあたりまえ。普通に仕事をして、誰かを愛せる限り、死をおそれるのは病気ではない。


10.サルトル(1905~1980)
存在と無』・人間とは不定であり、不定とは自由
アドバイス:「わざとやったんじゃない」が口癖のあなた
「たしかに、外から見ただけでは、善意による行動か、悪意による行動かわからない。一つの行動だけで判断してはいけない。いくつもの行為の積み重ねを見ることが大事。信用を失いたくないなら、同じ失敗を二度繰り返してはならない。評価の対象になるのは、『行為』につきる。才能や特性は予め決められているわけではない。世界や他者と交わることで徐々につくりあげられていくもの。だから人は、『不定』であり変化することができる。そして不定』であることこそ、自由であるということなのだ。」

 

と、「○○からのアドバイス」が、なかなかいい。
哲学の話をきいていても、で?だから?となりがちだけれど、著者は、それを読者へのアドバイスという形で分かりやすく説明してくれている。さすが、教鞭を取っている人のかいたテキスト、って感じ。

1500円の本。フランスで買えば3ユーロなら、とてもお手ごろ。
やっぱり、教科書の類は、良くまとまっているし、わかりやすく書かれている。
このシリーズ、他も色々よんでみたくなった。

 

結局、哲学というのは、神をどうとらえるのか、信仰をどうとらえるのか、そして、人間をどうとらえ、どう生きるのか、ということなのか。そんな歴史の変遷が10人の思想を通じてまとめらえている本、という感じだ。

解釈というのは、それぞれだろうけれど、私にとって印象に残るのは、やっぱり「行動する事」につきる。

 

自由だから行動するのではなく、行動するから自由になる。

自由をどうとらえるか。

原因か結果か。

 

哲学風に言うと難しくなるけれど、やっぱり、生きるということは何か行動するということなんだろう。

スピノザの言う、受動から能動へ、とうい考え方、惹かれるものがある。

やらされ感ではなく、自分で選んだという感覚が、私には大切。

実際には、だれかの想いにながされているのかもしれないけれど、自分で選択したんだという感覚?が大事。

 

振り回されないで生きる。

人にも、物にも、お金にも。

その自由を手に入れるには、行動するしかないんだね。

 

と、今の私に都合よく解釈しているかもしれないけど、それもそれでよしとしよう。

なかなか、面白い本だった。

もっと、たくさん、このシリーズ訳してほしいな。

 

読書は楽しい。

そして、

自分の人生は、自分で考えて、自分で決める。

 

『フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者』