さらばモスクワ愚連隊
五木寛之
講談社
昭和42年1月30日 第1刷発行 (1967)
5,6年まえ、同世代の男性(当時40代)が、「俺たちグレンタイ(愚連隊)だから」と言っているのを聞いて、何のことだかわからなかった。なんだか、「ろくでもないおやじ集団」みたいな文脈だった。そして、五木寛之さんの「さらばモスクワ愚連隊」が好きだ、という話になったような記憶がある。だいたい今時、愚連隊、なんて言葉、使わないでしょう。
広辞苑によれば
愚連隊:
「ぐれる」から出た語で、「愚連隊(ぐれんたい)」は当て字。繁華街などを数人が一団となってうるつき、不正行為などをする不良仲間。
不良仲間って、、、昭和の言葉だよね。。。とか思いつつ。
私にとっては、中高年男性に人気の五木寛之さん、って感じ。先日、佐藤優さんとの対談作品中『異端の人間学』で、『さらばモスクワ愚連隊』が、当時の東欧やモスクワあたりの様子をよく描写している、という佐藤さんのコメントが出てきたので、満を持して?!五木寛之さんのデビュー作と言われる本書を読んでみる気になった。
図書館で借りてみた。
五木寛之さんは、1932年、福岡県生まれ。早稲田大学ロシア文学中退。編集者、CM制作、ルポ・ライター、作詞家など、、、。そして、執筆活動へ。
若いころには、実際に、東欧、ソ連を旅されている、だから、東欧、ロシアの文化に詳しい。
私が借りたのは、昭和46年2月4日 第17刷発行、となっていた。
書庫にもなく、「別置き本」となっていて、予約して取り寄せた。
初版は、私が生まれるより前。
借りたのは、私が2歳の時に発行された単行本。
裏には、なんと、450円、、、と。骨董品のような本だ。。。
そして、中は、短編集だった。
一冊、丸ごと『さらばモスクワ愚連隊』ではなく、ほかに、GIブルース、白夜のオルフェ、霧のカレリア、艶歌、と全部で5つの短編がおさめられている。
感想。
ふ~~~ん。
男のロマンかな。。
という感じだった。
ハードボイルドというのとも違うのだろうけれど、一匹狼のような男の人が主人公の話。で、ロシアの厳つい男と対峙したり、綺麗な女の人に言い寄られたり、、、。
そして、それぞれの話の背景に、日本とソ連の関係性、東欧の当時の社会状況が垣間見える。
初版が、1967年だから、まだ戦後20年ちょっとなわけで、主人公は横浜からナホトカ行の船でソ連に向かったり、岩国基地につとめるピアノ上手なGIがでてきたり。なんとも、時代を感じる。
短編は、それぞれに、ジャズ、ピアノ、日本工芸(薩摩切子)、艶歌、、、、などなど、文化を背負って生きている男の生きざまの話。
ちょっとネタバレすると、『さらばモスクワ愚連隊』は、日本とソ連との民間外交の一環で、ジャズピアニストとしてモスクワに行った日本人が、現地の大使館員や、モスクワの愚連隊、チンピラみたいな若造と交流しながら、酒場で即興演奏をして一発カマス、みたいな話。でも、愚連隊の一人は、チンピラ同士のケンカで逮捕されちゃう。そして、日本の政界の大物が死亡することで民会外交の話もおじゃんに、、、さらば、モスクワ愚連隊、ってこと。
男の人が好きなのがわかる気がする。
やっぱり、自分をかぶせて読んじゃうんだろうな。
私の場合、主人公の男性に共感するということはあまりないのだけれど。
けれど、たしかに、ドキドキするし、ちょっとワクワクするような、娯楽小説といったら怒られちゃうのかもしれないけれど、そんな感じ。
そして、それぞれの主人公が、何か一つ、秀でた才能を持っている。社会的適合性はともかく、だれもがこいつすごい!とおもうような才能があるのが、あこがれる感じ。
へぇ、、、もっと、たいそうな難しい話なのかと思った。
というのが、正直な感想。
一匹狼で生きるって、やってみたいけどやれない。
だから、小説で疑似体験を楽しむ、って感じ。
どのお話も、主人公が最後に大成功を収めるというわけでもない。
淡々と、、、生きていくのだ。
そこも、昭和の読者を惹きつけたのかな。
うん、やっぱり、男性向きのお話だ。ステレオタイプかもしれないけど。
伊集院静の『白い声』も、男の憧れなのかなぁ、っておもった、それにちょっと近い感想。
ただし、『白い声』は恋愛ものだけれど、『さらばモスクワ愚連隊』は、恋愛はおまけみたいなもので、やっぱり、男の生きざまがテーマなんだと思う。
なるほどねぇ。
こういうのか。
面白い。
けっこう、さらっと読めるので、一匹オオカミ的な生き方に憧れる人にお薦め。
ちょっと、歴史を感じるところも、いいかも。
昭和だなぁ、、、、って、どこかで感じる。
私の知らない昭和って感じが、不思議な時代感覚。
なるほどね、五木寛之さんの原点がここだったんだ。
色々、読んでみるもんだね。
なんか、長年気になっていた懸案事項をひとつ片づけた様な気分。
貴重そうな本なので、さっさと返却しに行こう。
やっぱり、読書は楽しい。