『人はどこまで合理的か(上)』 続き。

人はどこまで合理的か(上)
スティーブン・ピンカー
明美 訳
草思社
2002年7月15日 第1刷発行

 

昨日の続き。

megureca.hatenablog.com

 言葉の説明を
プロスペクト理論」、「モンティ・ホール問題」、「リンダ問題」、「マシュマロテスト」、「ウェイソン選択課題」、「ナッジ」、「わら人形論法」、「ベイズ理論」

 

ちょっと、長くなっちゃうけど、これらの言葉の意味を理解するのがもともと、本書の目的の一つなのだと思うので、覚書。

 

・「プロスペクト理論
行動経済学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの研究で取り上げられたのが「プロスペクト理論」。 プロスペクトとは「見込み、展望、期待」という意味。 人は自分が思い込みたいおもい込みから、理論的に考えれば当たる確率の極めて低い1億円の宝くじを、自分だけは当たると思って買ってしまうようなこと。そして、1000円を得るための努力より、1000円を失うことの方が 大きな痛みと感じ、「人は損失を避けようとする習性がある」ということ。そして、この損失を避けようとする人間の思考の習性を、「損失回避性」と呼ぶ。

もう着ることのなさそうな洋服を、何年も捨てられずにいる、、、、というのも、損失回避性の一つかもしれない。一度自分のモノにしたものを手放すのは辛い。最初からなければないで、どうでもいいのに。。。。ノベルティーグッズとかもそうかも。あるいは、コンビニの割りばしも。。。貰ったけど使わなかったものがたまっていたりしないだろうか。。。
実は、無くしてもたいした損失でもないのに、、、、。

 

・「モンティ・ホール問題
アメリカで1950年代から1980年代にかけて人気だったテレビのゲーム番組から来た言葉。司会者の名前が、モンティー・ホールだった。確率の問題に火をつけた。
ゲームは、次のようなもの。
参加者は三つのドアからひとつのドアを選ぶ。一つの後ろにはピカピカの新車が残りの二つの後ろにはヤギが隠されている。モンティ・ホールは、参加者が選んだドアではないものを最初に開く。そこにヤギがいれば、残りの二つのドアのうち、一つに新車があることになる。場を盛り上げるために、当然、モンティ・ホールは、ヤギが隠れているドアを最初に空ける。参加者がどのドアを選ぼうと、選んでいないドアの一つはヤギだ。すると、残りの2つのうち、どちらかに新車がある。参加者は、ドア1を最初に選んでいたとしよう。モンティがあけたのは、ドア3。つまり、ドア1かドア2のうしろに新車が隠されている。そして、モンティは参加に訪ねる。
「さぁ、このまま、ドア1を選ぶか? あるいは、最初の選択をやめて、ドア2を選ぶか?」
さて、あなたならどうする?
ここで、問題になったのは、残った二つのドアのうち、新車がかくれている確率について。2つが残っているのだから、50%、50%と思いやすい。実際、著名な博士たちは残りの2つのドアのうしろに新車が隠れている可能性は50%、50%だと言った。
だが、それが誤りなのである。
それが、「モンティ・ホール」問題。
この話が有名になったのは1990年にある雑誌のコラム「マリリンに訊いててみよう」で紹介されたから。この雑誌は、アメリカの何百もの新聞の日曜版に折り込まれていたので多くの人の目に留まった。マリリンというコラムニストは、 IQ のギネス記録を持っているため世界一賢い女性として知られていた。そのマリリンが、このゲームについて、
「車がドア2の後ろにある確率は2/3。ドア1の後ろにある確率は1/3だから選択を変えたほうがいい」と答えた。
結論は、マリリンが正しいのだ。この説明は、、、文字で書くと長くなるのだけれど、、、、最初に3つから選んでいるので、モンティがドア3をあけるまでは、ドア1もドア2も、確率は、1/3だった。でも、モンティがドア3をあけたことで、ドア1に新車が隠れているの確立は1/3のままだけれど、ドア2の確率は、2倍の2/3になるということ。
だから、確率論としては、ドア2に変えた方がいい、という話。あくまでも、確率だから、ね。

 

・「リンダ問題
これも、行動経済学の論文などで良く取り上げられる。連言錯誤と言われる。トヴェルスキーとカーネマンが最初に説明した。連言で表された命題が成立する確率が、その連言を構成する個々の命題が成立する確率よりも高いように思えてしまう罠。
課題は、こうだ。

リンダは31歳の独身ではっきりものを言う頭のいい女性である。大学では哲学を専攻した。学生時代は差別や社会正義の問題に関心を持ち、反核デモにも参加していた。次の6つの項目のそれぞれについて、確率を予測せよ。

リンダは小学校の教師をしている
リンダは女性解放運動に参加している
リンダは精神科ソーシャルワーカーをしている
リンダは銀行の窓口係をしている
リンダは保険外交員をしている
リンダは銀行の窓口係で女性解放運動に参加している

この課題に応えた人々は、「A」の確率より、「AかつB」の確率の方が高いと思ってしまうのだ。

つまり、「リンダは銀行の窓口係をしている」確率より、「リンダは銀行の窓口係で女性解放運動に参加している」の確率の方が高いと思ってしまうのだ。。。。

よく考えれば、Aの確率より、A⋀(かつ)Bの方が、確率はさがる。でも、人は、連言命題につられやすいのだ、、、と。条件が厳しくなるのに、このような説明の場合、A⋀Bのほうが、それっぽく聞こえてしまうのだ。

リンダ問題。よく出てくる。

 

「マシュマロテスト」

心理学者のウォルター・ミシェルが1972年に発表した有名な実験。4歳前後の子どもたちが、今すぐマシュマロを1個食べるか、15分後に2個たべるか、という苦しい選択を迫られる。いますぐの小さな報酬をとるか、少し我慢して大きな報酬をとるか。。。このようなジレンマは、セルフコントロール(自己制御)、満足の遅延、時間選好、未来の割引、、時間割引率など、色々な名前で言われている。合理性を追求すれば、待った方がいいのだけれど、いますぐ楽しんだ方が、合理的に思えることもなくはない。だからこそ、ジレンマなのだ。
今夜、このまま飲み続けてパーティを楽しむか、帰宅して明日の仕事に備えるか、、、。
このケーキを美味しくいただくか、、お気に入りのドレスを1か月後のパーティー出来るためにはダイエットをするか。。。
今使うか、貯金するか。。。

数え上げればキリがない。。。
そして、人は、その時々に自分で自分に言い訳してなんとか合理的な理由を並べ立てて、今を楽しみがち、、、、。
人生100年時代、時間割引率が小さい人ほど将来を大切にできて、目の前の欲望に踊らされずに済むので、結果的には幸せかもしれない。まぁ、人生、人それぞれ。

 

・「ウェイソン選択課題
確率の問題。これも、よくでてくる。
4枚のカードがあり、それぞれ片面にはアルファベットが、もう片面には数字が書かれている。

「A」
「K」
「4」
「7」

と、4枚のカードがあるとする。
「片面が母音ならば、そのカードのもう一方の面は偶数でなければならない」というルールを確認するためには、どのカードをひっくり返せばいいか、という課題。

さて、あなたならどうする?

答えは、Aと7。

人は、Aと4を選び勝ち。それが、ウェイソン選択課題。ルールにでてくる、母音、偶数、という言葉に引っ張られてしまうのだ。
でも、4の裏は、母音である必要はない。条件は、母音ならば、、だから。

 

「ナッジ」は、キャス・サンスティーン、リチャード・セイラーが提唱した、人に望ましい行動をとってもらうためのちょっとしたきっかけの事。コロナで、ソーシャルディスタンシングを求めるために、レジの前に足跡のシールが貼ってあったりする。ナッジだ。誰に言われなくとも、人は、なんとなく足跡のシールのあたりに並んで、距離を維持しようとする。
男子トイレの小便器に、小さなハエの絵を書いておいて、尿飛びを減らしたっていう話も有名。私にはわからないけれど、立ちションする男性にとっては、おもわず、狙ってしまうのだろう。。。

ダイエットのために、お茶碗をちいさくする、っていうのも、ちょっとしたナッジかもしれない。


・「わら人形論法」
相手の主張を不当に言い換えて攻撃する。
例えば、
「動物界には一般的に順位制がみられ、ロブスターのような単純な生物でもそうなのです」という発言を取り上げて、
「つまり、あなたが言いたいのは、私たちは、ロブスターにならって社会を組織すべきだということですね」

とか。
論破するより、わら人形を作ってやっつける方が容易だ、ということからこの名が付いた。相手の言った言葉を曲解して、言い換える。
時々いる、こういう、ひねくれた攻撃性をもった人、、、、。 

 


そして、(上)の最後は、ベイズ理論」

これ、かなり重要。実際の自分の人生の選択にかかわることがある。
ベイズの定理とは、「証拠の強さ」を扱う確率の法則で、新しい事実をしったり、新しい証拠を観測したときに、どの程度確率を修正するか(考えを変えるか)を示す法則。
言葉で説明してもわかりにくいので、事例で考えるとわかりやすい。
範例としてよく取り上げられる「乳がん」の医療診断の話が、本書でも取り上げられている。

ある地域の女性人口(母集団)の乳がん有病率が1%だとする。
そしてある乳がん検査の感度(真陽性率)が90%、偽陽性率は9%だとする。
ある女性が検査で陽性になった。この女性が乳がんである可能性はどれくらいか?
さて?あなたなら何と答える?
この課題を与えらえた医師たちの答えで、最も多かったのは80~90%。
しかし、それは、謝り。
正解は、9%。ベイズの法則で確率を計算すると、9%なのだ。

どういうことかというと、80~90%と答えた医師たちは、そもそも、その地域の母集団の乳がん有病率が1%ということを考慮に入れるのを忘れている、ということなのだ。
母集団の有病率1%という「周辺確率」を考慮にいれずに、検査を受けた結果の確率だけを考えたのでは、前提条件が無視されているので、「ある仮説の確からしさ」が信頼度のない確からしさになってしまう、、とでもいえばいいだろうか。あるデータのもとにおける、仮説の確からしさが知りたい答えのはずだ。それを、P(仮説|データ)とする。
ベイズ理論では、
P(仮説|データ)= (P(仮説)*P(データ|仮説))/P(データ)
となる。


P(仮説)は、「この女性が乳がんにり患している」という仮説の信頼度。ここでは、母集団の1%なので、0.01
P(仮説|データ)は、証拠を検証した後の、或る説に対する信頼度=「事後確認」検査結果を見たあとの診断に対する信頼度。つまり、知りたいのはこれ。
P(データ|仮説)は尤度(ゆうど)と呼ばれるもので、仮説が正しいとしたらそのデータが得られる可能性がどれだけあるか、ということ。
真陽性が90%なので、P(データ|仮説)=0.9
P(データ)は、仮説がデータとして出る信頼度。つまり、
母集団に対して、乳がんに罹患していて(1%)、検査で陽性になる(90%)人は、0.01*0.9=0.009
罹患していなくて(99%)陽性になる人が9%なので、0.99*0.09=0.0891
0.009+0.0891=0.0981が、P(データ)。

つまり、母集団が1%の確率で乳がん罹患であるという条件の下では、
P(仮説|データ)=0.01*0.9/0.0981 となり、0.0918。
検査で陽性となった女性が、実際に乳がんである確率は、9%なのだ。

人間ドック一次スクリーニングのガン検査で陽性となったからといって、検査の感度だけで慌てる必要はないのだ。そもそも、そのガンにどれくらいの人が罹患しているのか、という情報を加味すると、実際に自分が癌である確率は、検査の感度より下がるはず。
とはいっても、人間ドックは、人に検査を受けさせることが目的だから、そんな話をしてくれる医者はいないだろう、、、しかも、こと、自分の健康となると、例え1%で以下であっても疑いは払拭できるに越したことは無い。

と、じっくりと理論的に、合理的に考えればああそうか、、、というようなことでも、人は目の前の数字、言葉によって、合理性を失ってしまうということ。

 

本書は、このような様々な「ひっかけ」があることを理解しておくことで、「誤った判断」を以下に減らすか、という言の様だ。

確率は、あくまでも確率なんだけどね。

宝くじだって、誰かはあたるのだ。ジャンボが当たるのは、1,000万分の1と言われている。その可能性にかけるくらいなら、そのお金を投資に回した方が増える確率は各段に上がる。確率じゃないんだ、楽しみなんだ、というのであれば宝くじを買えばいい。よく考えれば、1等になる人のために寄付しているようなモノなんだけどね。。。

私も、若いころはみんなで一緒に買ったりして楽しんだから、楽しみなのはわかる。

まぁ、何を選ぶかは、結局その人次第。

 

(下)の予約の順番が来たら、また続きを・・・。