人は簡単には騙されない
嘘と信用の認知科学
ヒューゴ・メルシエ
高橋洋 訳
青土社
2021年2月15日 第1刷印刷
2021年3月5日 第1刷発行
NOT BORN YESTERDAY (2020)
ヤコブ・ムシャンガマ著『ソクラテスからSNS「言論の自由」全史』の中で紹介されていた本。
ちょっと、気になったので図書館で借りて読んでみた。
著者のヒューゴ・メルシエは、 フランスの認知科学者。 パリの国立科学研究センター・ジャン・ニコ研究所所属。本書が初の単著。Ted Talksにスピーカーとして登場。
巻末註、参考文献、索引まで含めると400ページ以上のソフトカバー単行本。ボリュームはたっぷり。
目次
はじめに
第1章 人は簡単に騙される
第2章 コミュニケーションにおける警戒
第3章 開かれた心の進化
第4章 信念
第5章 知識
第6章 信用
第7章 情動
第8章 デマゴーク、預言者、伝道師
第9章 政治宣伝、選挙キャンペーン、広告
第10章 興味をそそられるうわさ
第11章 循環報告から超自然信仰へ
第12章 魔女の自白と他の有用な愚行について
第13章 フェイクニュースには効果がない
第14章 あさはかなグールー
第15章 憤懣やるかたないわけ知り顔の輩と巧妙な詐欺師
第16章 人は簡単には騙されない
感想。
う~~ん、、、なんて、わかりにくい本なんだ・・・。って感じ。面白いけど、ちょっと回りくどいかも・・・。
正直、途中で投げ出そうかと思った。文章がまずいのか、訳がわかりにくいのか、、、わからないけれど、わかりにくかった。。。でも、言っているのは、人は自分の信念にあっていれば信じるけれど、自分の信念にあわないことはそう簡単には信じない。つまりは、疑い深い性質の方が根底にあり、騙されるとすれば、それはそのほうが自分にとって都合がいいとか、メリットがあるとか、、そういう場合なのだ、ということみたい。それを、簡単には騙されない「開かれた警戒メカニズム」と呼んでいる。
だから、本のタイトルは、『人は簡単には騙されない』。けど、目次にあるように、最初に人は簡単に騙される、、という話から始まるので、なんなんだ?!と、、、なってしまう。
最後に、訳者あとがきがあるのだが、なんなら、そこから読んだ方がわかりやすい。話の展開の仕方がまどろっこしいのか。たくさんの実験例がでてくるのだけれど、それをもって何が言いたいのかがわかりにくかった・・・・。
で、著者紹介に書いてあったので、彼のTEDもYouTubeで探してみてみた。
15分くらいだけれど、こっちもまた、、、、英語は、そんなにはわかりやすくないかなぁ、、、。フランス人英語だというのもあるかもしれないけど、、、。日本語の自動翻訳で15分の動画を見た方が、本を読むよりはやいかも?!
人は、自分が間違っていたと認めるのが一番怖い。だから、そう簡単には騙されないんだよ、ってこと。ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』で紹介されているシステム1(速い、直感的判断)による影響がつよく、システム2(遅い、反省的なプロセス)によって修正されるには時間がかかるということ、。システム2が作動したあげくに、騙される、、、というのもあるようにおもうけれど・・・。
「第4章 信念」でも介されていた質問が、動画でも紹介されている。
【問い】
ポールはリンダを見ている。
リンダはジョンを見ている。
ポールは結婚しているが、ジョンはしていない。
この場合、既婚の人が未婚の人を見ているという言明は真か?
イエス/ノー/決められない
私は、直感的に、つまりシステム1で、「決められない」と答えてしまったのだけれど、正解はイエス。
私は、リンダが既婚か未婚化がわからないから、「決められない」と思ったのだ。でも、リンダが既婚だとすれば、リンダ(既婚)→ポール(未婚)で、質問の答えはYESだし、リンダが未婚だとすれば、ポール(既婚)→リンダ(未婚)でYESということ。
あぁ、、、なるほど。。。。
そして、この質問への答えを、友人が即答で「YES」と答えたとしても、あなたは簡単にはその友人を信じないだろう、、、と。。。。
そう、自分が間違っている場合に、それを修正するように相手の意見を取り入れるには、「壁」があるということ。
そして、自分にマイナスになるようなことは簡単に信じたりしないことで、人々は進化してきたのだ、、、と。逆に、自分にとってお得っておもうと、騙されやすいのか・・・。
とはいえ、そう簡単には騙されないように、「警戒」のシステムが作動する。それは、情報元の信頼性があるかないかによって、「警戒」の強さが変わるという。
親の言うことなら信じるけれど、しらないオジサンのいうことは信じない、、とか。。教授らしき偉そうな人の言うことなら信じるけれど、そこらの若造のいうことなら信じない、、とか。。。子どもでも、「警戒すべき」相手のいうことは、そう簡単には信じないということ。
「開かれた警戒メカニズム」は、肯定的な手がかりが見つからない場合には、伝達された情報を捨て去る。人は、騙されやすいのではなく、保守的ということ。
なるほど、、、と思う。
「第8章 デマゴーク、予言者、伝道師」では、ヒトラーの演説ですら、「選挙におけるナチスの成功にはほとんど 寄与していない」という政治学者ペーター・ゼルプとサイモン・ムンツエルトの説が紹介されている。ヒトラーは演説が上手かったとされているけれど、ヒトラーの演説によって、反ユダヤ主義が広がったのではなく、もともと嫌ユダヤ感情のあった地域で、その嫌悪が深まっただけだったのだと。かつ、1939年にはヒトラーに対する不満はつのり始め、スターリングラードの大敗北の頃にはヒトラーに対する支持は瓦解した。
ちょっとしたユダヤ人への不満感情があった人たちが、ヒトラーの言葉に乗っただけであり、ヒトラーの言葉によって、反ユダヤになったわけではない、と。
人は、自分が受け取ったメッセージが、既に自分が抱いている見解と一致するかどうか、またメッセージの発信者の信用度を吟味している、と。そういう意味で、ヒトラーは、信頼に値する人だとは考えない人も多くいた、ということ。
フェイクニュースについても、ごく一部の人は信じるかもしれないが、多くの人は「うわさ」として口にしたとしても、心から信じているわけではない。アメリカの様々な陰謀論を信じる人は、そう信じることが自分の信念にどこかで一致する一部の人、ということ。
稀に、自分の信念を信じて正義に走り、それが世間では犯罪と言われる行いとなることがある。(アメリカのピザ屋襲撃事件、陰謀論でよく出てくる。)
あるいは、長い間信じられてきたことを、そのまま信じていることもある。「瀉血」による治療は、ローマ皇帝の侍医ガレノスによる四体液説から始まり、11~19世紀の間に、多くの病気の治療法として実施されてきた。中には、出血多量になっている人にさらに瀉血治療をしたことも、、、。瀉血によって、どれほど多くの命が失われてきたか、、、。これも、騙されていたといえばそうかもしれないけれど、当時はそれが「正しいこと」と信じられてきた、、、ということ。
ちなみに、ジョージ・ワシントンも、死ぬ前に2.5Lの血を抜かれていたらしい・・・。
人は容易に己の信念を書き換えたりしない。保守的であるということ。
一方で、「オレオレ詐欺」みたいなのは、やはり、家族を守りたい!という人の真心に付け込んだ悪事であり、そういう時は、「家族を救わなければ」という正義感の方が、相手を信用しない、ということに勝ってしまうのだろう。とはいえ、おそらく、多くの人は詐欺電話を撃退している。ニュースは事件になったことだけを報じるので、あたかも高い確率で騙されているかのようだけれど、それこそニュースに騙されてはいけない・・・。
何事も疑ってみる、システム2を働かせる、っということも、大事かもね。
著者の言うように、人が本当に騙されやすいなら、世の中はもっとしっちゃかめっちゃかになっているかもしれない。。。システム1で騙されても、システム2が働くから、そう簡単には騙されない。そういうことかもしれない。
信念をもっているかどうか、ということが、情報に左右されるかどうかということ。
私は、信念を持っていることなんて、そんなにたくさんあるわけではない。だから、情報に振り回されないように、余計なニュースソースには近づかないようにしている。
まぁ、騙されていたとしても、本人が騙されていると思っていないなら、それはそれで信念なのかもしれないけど、、、、ね。
面白いけど、熟読すると疲れる感じの一冊。
訳者あとがきを先に読むのがおすすめ、かな。
なんて、著者、ごめんね。
悪くないよ!私には、読みにくかっただけ。
それでも、やっぱり、読書は楽しい。