『ハックルベリー・フィンの冒険(上)』 by  マーク・トウェイン 

ハックルベリー・フィンの冒険(上)
マーク・トウェイン Mark Twain
土屋京子 訳
光文社 古典新訳文庫
2014年6月20日 初版第1刷発行
2018年8月20日 第2刷発行

 

先日読んだ、『民主主義全史』の中で、アメリカの民主主義についてのページだったろうか、本書が言及されていた。

megureca.hatenablog.com

 

最初に、トウェインの警告が書いてあるのだと。

 

気になったので、図書館で借りてみた。アメリカ文学を代表するマーク・トウェインの作品は、トム・ソーヤの冒険だって、ちゃんと本で読んだか怪しいもんだが、とりあえず、言及されていたハックルベリー・フィンの冒険を読んでみることにした。図書館にあったたくさんの蔵書の中でも、「光文社 古典新訳文庫」を借りてみた。このシリーズは、古典も読みやすい日本語になっているので、物語を読むには、ありがたい。

『民主主義全史』の中で言及されていた警告は、本書の最初にでてくる。

 

警告

この話に何らかの主題を見出さんとする者は、訴えられるであろう。
教訓を見出さんとする者は、追放されるであろう。
構想を見出さんとする者は、射殺されるであろう。

著者の命により
兵站部長G・Gの名において布告する。”

 

読んでみれば、この警告の意味が分かる。だから、私がこれからここに覚書としようとする内容も、もしかすると追放されるに値するのかもしれない。

でも、読んでみればわかる。

これは、少年少女文学なだけではない。いや、主人公のハックルベリーは、確かに子どもかもしれないけれど、大人よりもよほどしっかり社会を見る目を持った、白人男子で、大人の世界のややこしさもわかっている。これは、、、大人の文学だ。そうそう、そういうと、訴えられちゃったり、追放されちゃうのね。つべこべ言わず、 読んでおけ!ってか。
思ったことは、自分の胸にしまっとけ!ってことかな。

 

いやいや、でもね、私の頭の中の整理のために、ここに覚書するだけだから、追放しないでおくれ。。。

 

マーク・トウェインは、ディズニーランドの「マーク・トウェイン号」もあるし、トム・ソーヤの冒険もあるし、、、名前を聞いたことのない人はいないだろう。

 

マーク・トウェイン
1835-1910。アメリカの作家。ミズーリ州フロリダに生まれる。印刷工、ミシシッピ川を運行する蒸気船の水先案内人、新聞記者などの職業を経て、作家となる。1867年最初の単行本『キャラヴェラス郡の名高き跳び蛙』を刊行。以後、『トム・ソーヤの冒険』『王子と乞食』『ハックルベリー・フィンの冒険』『アーサー王宮廷のコネティカット・ヤンキー』などの小説を発表するほか、『ミシシッピ川の生活』等のエッセイや評論も多数執筆。ユーモアと痛烈な文明批判を織り交ぜた作風は、後世に多大な影響を与えた。1910年コネチカット州レディングの自宅で死去。享年74。

 

本書は、1885年に『The Adventure of Huckleberry Finn』として出版されている。
1884年ということは、トウェインは50歳前。
1863年奴隷解放が宣言され、1865年に南北戦争終結したはずだが、黒人に対する差別はまだまだ大きかった時代。21世紀の今だって、まったくなくなったとはいいがたい。

 

本の裏表紙の説明によれば、
”トムソーヤとの冒険で大金を得た後学校に通いまっとうな(でも退屈な)生活を送っていたハック。そこに息子を取り返そうと飲んだくれの父親が現れ、ハックはすべてから逃げようと筏で川に漕ぎ出す。身を隠した島で出会ったのは主人の家を逃げ出した奴隷のジムだった・・・。”
と。

 

そして、中表紙には、
ハックルベリー・フィンの冒険
(トム・ソーヤの仲間)
場所 ミシシッピ川流域
時代 4,50年前”

そして、訳注
*1830~40年代。リンカーンによる奴隷解放宣言1863年

つまり、アメリカの奴隷解放宣言の前の物語、ということ。

 

また、著者の注釈として、幾種類もの訛りが使われていることが言及されている。ミズーリ州の黒人訛。アメリカ南西部僻地の極端な訛。バイク州の普通の訛。などなど。これらは、念入りに描き分けたのだそうだ。訳本ではわからないけれど、日本語も標準語でなさそうな?訛りで訳されている。種類まではわからないけど・・・。

 

全42章+おわりの章からなる物語。(上)は、22章まで。

 

(上)(下)

ざっくりまとめれば、ハックが世話になっていたダグラス未亡人の家を抜け出し、虐待父ちゃんからも逃れて、ミシシッピ川を旅する。驚いたことに、逃げている最中にダグラス未亡人の妹、ミス・ワトスンが所有する黒人奴隷のジムに出くわす。当時、逃亡奴隷を見逃すのは罪とされた。でもハックは、迷いながらもジムを自由にするために自らが「逃亡奴隷の逃亡を助ける」覚悟を決める。そして、ジムと共にミシシッピ川を下り、悪い大人、人のいい大人、色々な人に出会いながら、ジム救出の旅となる。最後には、ジムの所有者だったミス・ワトスンが亡くなったことがわかり、ジムはほんとの自由を手にする。

と、そうした旅を通じて、ハックがまた一回り大人になった、ってそんな話。

 

まぁ、それをこれでもかというくらい、とんでもない悪党の大人たちが出てきて、それでもダマされたふりをしてうまく立ち回るハック。人の好い人たちには、やっぱり悪さをするのは気が引けて、ハックのやさしい思いやりの顔がのぞいたり。悪ぶっているけど、根はいい子、なんて言ってしまうとつまらないけれど、ハックは、やっぱり、良い子だ。正直者なのだ。だから、自分のついた嘘に、自分ではまってしまったり、、、。

 

感想と言われれば、面白かった!なんだけれど、それだけでは済まないような、深さがある。こんな根性悪、そうそういないだろう!っていいたくなるような悪い大人が出て来るけれど、そういう大人には、あっさりと罰がまっていたり。ハックのお父さんも、結局は虐待親で、身をほろぼす。父親が改心して、ハックと仲良くくらしました、なんておとぎ話ではなく、トウェインが描いたハックの父親は、ホントにただの悪党のまま死んでいく。。。

そう、厳しい現実を描きつつ、ハックの冒険は楽しく描かれてて、エンターテイメントだし、深く考えさせられることもある、、、、。
読み応え、ばっちり。

 

ミシシッピー川沿いの話なので、水に浸かるシーンがたくさん出てくる。これは、、、冬に読むと、寒そうっておもっちゃうから、夏に読むとよい本かもしれない・・・。なんてね。 

 

以下、ネタバレあり。

 

ハックは、『トム・ソーヤの冒険』で儲けたお金をサッチャー判事に預かってもらい、ダグラス未亡人の家で、お世話になっている。未亡人は、ハックを良い子に育てようと頑張ってくれるのだが、ハックには退屈でたまらない。でも、学校へ行くのが楽しくなっていた。

今でも、ハックはトム・ソーヤとつるんで遊んでいる。遊びすぎて服を泥だらけにしちゃったりすると、ダグラス未亡人の妹、ミス・ワトスンにこっぴどく叱られる。

そんな背景含め、ハックの語りで語られるところが、本書が身近に感じられるところだろう。

洋服をひどく汚した後のハックの独白。

”朝、服のことでミス・ワトスンにこっぴどくしかられた。けど、未亡人はおいらを𠮟らずに服についた獣脂や泥を落としてくれて、すげえ悲しそうな顔をしただけだったんで、おいら、できれば少しのあいだは、良い子にしてようかと思った。”

と、こんな感じで、ハックの語りで物語は進んでいく。また、大人たちの行動や神様についてなど、ハックなりに解釈するところが楽しい。お祈りしたところで願いがかなわないもんで、”神様は2とおりあるんだな”、とか、トム・ソーヤーのいうことが出まかせばっかりして、”ありゃ、日曜学校の話とそっくりのうさんくせぇ感じがした”とか。

ある日、ハックが2度と会いたくないと思っていた父ちゃんが、ハックのところへやってきて、「金をよこせ」という。改心したふりをしてサッチャー判事のところへいき、判事をすっかりダマしたと思ったらお酒をのんで大暴れ。判事は、「こういう人間を更生させるには、猟銃で討つほかにてがないんじゃないか。」と・・。

それほど、ろくでなし父ちゃんとして描かれている。

そして、ある日ハックは父ちゃんに拉致される。なんとか逃げ出す機会をねらうハック。父ちゃんが出かけている隙に、自分が強盗に襲われたかのように偽装して、ハックは父ちゃんのもとを逃げ出した。ご丁寧に、ハックは自分で仕留めた豚の血を拉致されていた小屋にまき散らし、血だらけの斧といっしょに凄惨な事件現場を捏造し、カヌーで川へと逃げ出す。

目指すは、ジャクソン島。村の人たちは、ハックが殺されたと大騒ぎ。当時、殺人があれば川に死体をながすのが常套手段。人々は、ハックの遺体を探しにジャクソン島あたりまで船でやってきた。隠れるハック。そして、なんと、ミス・ワトスンの奴隷ジムに出会う。
数日間を一人で過ごして、ちょっと心細くなっていたハックはジムにあって大喜び。ジムはジムで、ハックは父ちゃんに殺されたと思っているから、「幽霊さん、ゆるしてくだせぇ!」と大騒ぎ。

お互いに事情をはなして、ジムはハックが幽霊でないことを理解し、ハックはミス・ワトスンがジムを売り飛ばそうとしていることから逃げ出したことを理解する。

そして、二人の自由を求めた旅が始まる。

 

ミシシッピ川は大きな川。時々、川には大きな船も通る。二人はカヌーと筏で、川を下りながら、時々上陸しては、食べ物などを手に入れた。ピンチは、自然の中のガラガラヘビだったり、川を下ってくる略奪船の悪党だったり。ときには、立ち寄った村で、こまった子どものふりをして、食べ物をゲットする。ジムは人の前に出るわけにいかないから、ハックが一人で奮闘する。

ある村で、ハックは女の子に変装して小屋に忍び込む。女の子に変装したのは、たまたま手に入ったのが女の子の服だったから、、、。適当な名前をでっちあげて、小屋にいたおばさんに優しくされ、針仕事を手伝ったりした。そして、ハックの村で起きていることを教えてもらった。ハックを殺したのは父親だとか、逃亡奴隷のジム!だとか。ジムは、ただの逃亡奴隷どころか、殺人容疑の懸賞金付き指名手配犯になってしまっていたのだ。

ハックは、そんな話をおばさんから聞いているうちに、自分がなのった偽名を忘れてしまう。おばさんは、最初からおまえさんが嘘をついていることは見抜いていたよ、と。

 

おばさんがハックが女の子ではないことを見抜いたことをいうセリフが面白い。

「キャラコの下着で女の子の真似をするのはよしなさい。あんた、女の子の真似ヘタだわ。いいかい、針に糸を通すときは、針で糸を迎えに行くんじゃないよ。針は止めといて、糸の方を針にとおすんだよ。」

ははは、、、そんなこと、考えたこともなかった。たしかに、針仕事に慣れていないと、針で糸を迎えちゃうかもね。

 

そして、その懸賞金付きのジムを探しに行った旦那がそろそろ戻ってくると聞いたハックは、川に残してきたジムがやばい!とおもって、急いでジムの元へ戻る。

そして、再び、二人は川は下る。

 

と、長くなっちゃったので今日はここまで。

続きはまた明日。