『成熟スイッチ』 by  林真理子

成熟スイッチ
林真理子
講談社現代新書
2022年11月20日 第1刷発行

 

先日、友人との待ち合わせ前に、ぽっかり2時間ばかり時間が空いてしまったので、図書館で手ごろな本を探して購入した。ちょっと気にはなっていたけれど、買うほどの本じゃないし、、、とおもっていたのだけれど、手持無沙汰な2時間のために購入。840円(税別)。
スターバックスで、あっという間に読めてしまった。2時間の時間つぶしにはちょうどよかった、かな。。。

表紙は、結構衝撃?!の林さん自身の写真。若かりし頃と、今の林さん。林さんが歯の矯正をして美人になった、といわれていたけれど、二枚並べてみると、、、、結構、インパクト大。強烈な個性の方だなぁ、、と思う。

 

本の帯には、
”「昨日とは少し違う自分」へ。日大理事長就任、「老い」との近づき方・・・
人気作家による9年ぶり待望の人生論新書!
四つの成熟スイッチはすぐそこにある”

と。

 

著者の林真理子さんは、言わずと知れたベストセラー作家、といっていいだろう。私も結構たくさん読んでいるけれど、ファン、というほどではないので、全てを読んでいるわけではない。

 

林真理子さん、1954年、山梨県生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、コピーライターとして活躍。1982年エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がベストセラーとなる。1986年に『最終便に間に合えば』『京都まで』で第94回直木賞を受賞。1995年『白蓮れんれん』で第八回柴田錬三郎賞。1998年『みんなの秘密』で第32回吉川英治文学賞。2013年『アスクレピオスの愛人』で第20回島清恋愛文学賞を受賞。2020年には週刊文春での連載エッセイが同一雑誌におけるエッセイの最多掲載回数としてギネス世界記録に認定。同年第68回菊池寛賞受賞。2022年7月に、日本大学理事長に就任。

 

『ルンルン…』が1982年なので、1968年生まれの私にとっては同世代というには、ちょっと世代が上過ぎるのだ。年上の派手で目立ちたがり屋のおねえさん、、、って感じ。当時は、そんなに美人さんでもなかったし、、、どちらかというと、私にとってはちょっと敬遠するようなタイプの人。でも、本は面白いし、叩かれてもたたかれてもタフで、すごいなぁ、、、という印象のひとだった。最近は、随分と普通?!になったかと思いきや、やっぱり、本書を読むと、すごいパワーの人だなぁ、と思う。一連の不祥事続きだった日本大学の理事長を務められている覚悟は、偉いというか、ほんと、まっすぐに頑張りたい人なんだな、と思う。ミーハーな好奇心は今でも廃れていないようで、読んでいて、ちょっと引いてしまうところが無きにしも非ずだけれど。こう、自分をさらけ出されると、ほんと、、、すごいわ、、、って感じ。

 

カバーの後ろに、まえがきからの抜粋がある。

”年をとって、後輩に成熟の素晴らしさを教えてくれる人と、老いの醜さを見せつける人がいます。若い頃にはそれほど違いがなかったかもしれない人たちが、歳月を経るとまるで別世界の住人のように振り分けられていきます。成熟にも格差が生じているのです。
成熟は1日にしてならず。しかし成熟への道は、成熟を目指したとたんに開けていきます。日常の小さな心がけの一つ一つ、世の中のいたるところに、成熟へと向かう小さなスイッチが散りばめられているのです。”と。

 

目次

序章 四つの成熟
第1章 人間関係の心得
1 愛は惜しみなく
2 人付き合いは変化していく
3 成熟を教えてくれた人
4 広がる人脈と後輩世代
5 女と男の距離
章間 私の成熟スイッチ① 未熟者が「長」になるまで

第2章 世間を渡る作法
1 感謝の流儀
2 品性が試されるとき
3 社交のタブー
4 話術のスパイス
5 時間を制する者、世を制す
章間 私の成熟スイッチ② 王道を行くか、センスで生きるか

第3章 面白がって生きる
1 お金を味方につける
2 仕事をどう面白がるか
3 読書の快楽
4 遊びの本気、出好きの好奇心
章間 私の成熟スイッチ③ 生き残るのは変化するもの

第4章 人生を俯瞰する
1 「俯瞰力」と「自己愛」の効用
2 老いとの近づき方
3 家族が教えてくれる成熟
4 レールに乗って 


林さんは、自分自身が若いころから変わった、と言っている。仕事をしても失敗ばかりで、ルーズでどうしようもなかったけれど、ベストセラー作家といわれるまでになり、今では時間を守ることを大事にするようになったと。
そして、若い時の成長とは別に、歳をとったらとったなりの「成熟」という過程があるのだと。

 

本書は、その「成熟」を4テーマで語った本。ざっくりまとめちゃうと、
①人間関係の心得 →第一章。仕事仲間を大切にすること。仕事以外の人とも付き合うこと。
②世間を渡る作法 →第二章。マナーを守る。時間厳守。感謝の気持ちを忘れない。
③面白がって生きる →第三章。瀬戸内寂聴さんがお手本。好奇心を持つ。読書は人生を面白くする。
④人生を俯瞰する →第四章。長い目で見れば、今の失敗もいつか笑い話になる。

って感じかな。

 

どの話も、ご自身の経験をもとに語られているので、ごもっとも、と思える。
第2章 世間を渡る作法 の「2 品性が試されるとき」ででてきた話しが、さすが人付き合いの多い林さん、と思った。

会食では、「支払うのは誰か」に敏感であれ
と。

これ、ちょっとわかる。
会社の同僚とか、もともと金銭感覚が同じメンバーだったり、同世代だったりすれば、だれかが支払う、という事はあまりないのだけれど、様々なバックグラウンドの人々が集まった会食では、たまにその中の誰かが多く支払う、という場面は結構ある。

今日は、御馳走になってしまうかもしれない、、、と思う場面では、あまり高級すぎるワインを頼むのは品性がない、、、といえる。
あるいは、若いメンバーと一緒で、自分が多く支払うつもりがあったとしても、他のメンバーにも過剰な負担をかけてしまうような注文の仕方はするべきではないだろう。みんなで合意した「贅沢」なら楽しいけど。

 

あと、笑ったのが、「口角上げ女」が嫌いだという話。男にくっついてきて、会食の場にきて、ただだまってニコニコしているだけの女のことだそうだ。たいしたネタもなく、人の話を聞いているだけの訳アリ女。内輪の会食で、好きなことを喋りたいと思っている林さんにとっては、よくわからない「口角上げ女」は、じゃまなのだそうだ。
ちょっと、笑っちゃうけど、わかる気がする。奥さんなら奥さんとして紹介があるのだけれど、その紹介もないから、なんだこの女、となる。。。
女の敵は、女だねぇ。

 

世俗的で、それは林さんの世界でしょ、って突っ込みたくなる話から、まともな社会的な話まで。引き出しの多い人だなぁ、と思う。

 

一番共感したのは、「読書の快楽」かな。林さんは、「どんな本を読めばいいか」と聞かれると、「自分が好きだと思う時代に関する本」を薦めているのだそうだ。歴史ということだけでなく、或る時代背景にそったものを複数読んでいると、そこからまた興味が広がるという。また、古典も薦めている。古典は、大人になって再読すると、必ず新たな発見がある、と。うんうん、これは、これこそ歳をとってからの愉しみ。再読して再発見って、何度でも何度でも。。。 

 

相変わらずのパワーに圧倒されつつ、あっという間に読んでしまった。林さんの様にはなれないし、ただ共感するだけの本ではないのだれど、何があってもへこたれないタフさというか、猪突猛進な感じが、そうあってもいいよね、って思わせてくれる。

 

自分のことも、人のことも大好きなんだろうな、って思う。だから、好きなぶんだけ、嫌いもたくさんあって、それがパワーの源って感じ。

日大理事長は、やはり大変な仕事のようだけれど、頑張ってほしいなって思う。

 

林さんのようになりたいとは思わない。でも、頑張っている林さんを応援したいな、って思える一冊だった。

 

人を素直に応援できる気持ちっていうのも、「成熟」かもしれない、なんてね。

 

それにしても、インパクトのある表紙の写真。なんだか、最近の林真理子さんが現職東京都知事に似て見えるのは、私だけだろうか・・・・。パワー満載の女性は、同じ顔つきになるのかもしれない、、、なんてね。

 

読書は、楽しい。

 

2023年も、たくさん読もう。