『ジキルとハイド』  by ロバート・L・スティーブンソン

ジキルとハイド
ロバート・L・スティーブンソン
田口俊樹 訳
新潮文庫
平成27年2月1日発行
The Stranger of Dr. Jekyll and Mr. Hyde

 

先日、友人との会話の中でスティーブンソンは、麻薬であるコカインを使用して、本作をたったの三日三晩でかきあげたんだよね、という話題になった。そういえば、ちゃんと読んだことはなかったような気がして、図書館で借りて読んでみた。

 

裏の説明には、
” ロンドンの高名な紳士、ジキル博士の家にある時からハイドという男が出入りし始めた。 彼は肌の青白い男で不愉快な笑みをたたえ、人にかつてない嫌悪、さらには恐怖を抱かせる うえ、ついに 殺人事件まで起こしてしまう。 しかし、実はジキルが薬物によって邪悪なハイドへと姿を変えていたのだった・・・・。人間の心に潜む、善と悪の葛藤を描き、二重人格の代名詞としても名高い 怪奇小説。”

 

著者のロバート・L・スティーブンソンは、イギリスの詩人・小説家。 エディンバラ大学で工学を学ぶが、後に弁護士の資格を取得する。1879年にアメリカに渡り、 翌年結婚式し帰国、『宝島』『ジキルとハイド』『誘拐されて』等を執筆する。生来健康が優れず、1890年より南太平洋 サモア島に移住するが、4年後に急死した。


感想。
面白い。今でも十分面白い。そして、実に、深いんだなぁ・・・・。

 

本作が刊行されたのは、1886年。今から、140年程昔。でも、今読んでみても、現代の物語として読んでも、何の違和感もない。

 

実際に本を読んだことが無くても、『ジキルとハイド』といえば、二重人格のはなしね、って誰もがわかるくらい、日本でもよく知られた作品だろう。

でも、読んでみて、唯の二重人格の話ではなかったということがわかった。たしかに、ジキルとハイドは、同一人物なのだけれど、そもそも、ジキル博士がつくった薬を飲むことによって人格が変わるというお話だった・・・。そして、この物語の主人公は、ジキル博士ではなく、弁護士のアタスンだ。(本書では、アタスンと訳されているけれど、原作ではUtterson、アトソンの方が近いかな・・・・)

 

そして、ジキル博士は、自分でつくった薬でハイドに変身するのだが、或る時を境に、薬を飲まなくても朝起きるとハイドになっている自分を発見する。薬で自分をコントロールすることができなくなってしまったのだ。おそろしい・・・・。

薬でコントロールして人格が変わるのも怖ろしいけれど、自分がかってに邪悪なハイドになってめざめるなんて、、、、普通の善人なら、怖ろしくてたまらないだろう。ハイドは、小さな子供にだって暴力をふるうし、著名な政治家であるカル―卿を杖で撲殺する。。。

 

ハイドは、背の高さや風貌までジキル博士と異なるので、だれもジキル博士と同一人物だなんて思わない。でも、どうやら、ハイドはジキル博士の家に出入りしているし、ハイドが起こした事件の後始末に、ジキル博士の小切手が弁償として使われている。

 

ジキル博士の古くからの友人であり、ジキル博士の遺言書管理をまかされていたアタスン弁護士は、ジキル博士がハイドに財産を譲るといっているのは、ハイドに脅されているに違いないと思う。しかし、アタスンに「友人なんだから本当のことをいってくれ」と言われても、かたくなにハイドについては語ろうとしないジキル博士・・。

 

だが、とうとう、ハイドからジキル博士に戻ることができなくなったジキル博士は、街中の薬屋から必要な薬剤を集めようとし、薬剤をまぜて必要な秘薬をつくるのに、友人のラニヨンに助けを求める。ジキル博士の秘密を知ってしまったラニヨンは、それを共通の友人であるアタスンに直接つげることはせず、手紙に託す。しかも、ラニヨンは、ジキルとは金輪際絶交したのだという。アタスンが受け取った封筒には、「ラニヨンが死んだら開封するように」、と書かれていた。

 

そして、そのラニヨンも病気で死んでしまう。ラニヨンから預かった手紙をあけたアタスンは、さらにその中に別の封筒が入っていることに気が付く。そして、その封筒は、ジキルが死んだら、あるいは3か月以上行方不明になったら開けるようにと書かれていた。

 

ある日、アタスンのもとに、ジキル博士の元で働く男がやってくる。しばしばジキル博士のもとを訪れていたアタスンには、なじみの男だった。

 

大変だ!どうも部屋からでてこないジキル博士の様子がおかしい。
このままでは、ジキル博士は、ハイドに殺されちゃうかもしれない。
いっしょにジキル博士の屋敷に来てくれないか。

と、アタスンに助けを求めに来た男。

 

アタスンは、男と一緒にジキル博士の家にいくが、そこではジキル博士の召使がみんな恐怖におののいていた。

 

そして、、、、。

返事のないジキル博士の部屋に押し入ったアタスンと召使がみたのは、、、毒薬で飲んで自殺を図ったと思われるハイドの姿だった。ジキル博士はどこに?!ハイドに殺されたのか???

その真相は、ジキル博士がアタスンに宛てた手紙の中で明かされる。

そう、自分がハイドであったことが、明かされたのだ・・・・。


物語は、ジキル博士の独白手紙で終わる。

”今こそ不幸なヘンリー・ジキルの人生に終止符を打つことにする”

 

THE END

 

善と悪の間で揺れたジキル博士。。。最後まで、アタスンを信じたジキル博士。また、ジキル博士を信じたアタスン・・・。アタスンは、何があってもジキル博士を見捨てないところが、また、素敵だ。

これは、19世紀のイギリスにおける男の友情物語でもある、、、と。

 

いやぁ、、、面白い。やっぱり、面白い。物語の展開の仕方も面白い。これが、コカインを飲んで、3日で書き上げた作品なのだ。すごい・・・・。薬についても、実は初回のように調合できなくなったのは、薬品中の不純物の影響だったのかもしれない、とか、なかなか、芸が細かい。

 

文庫本にして約150ページ。一気読み。まぁ、3日かけて書かれたものも、読むのは数時間・・・。面白かった。

 

ジキルとハイドを材料とした教訓めいた動画は、YouTubeにたくさん上がっている。そのなかでも、ストーリーが15分で説明されているこれは、なかなかよいサマリー。

youtu.be

 

すぐに動画に頼るのもどうかとはおもうけれど、やはり、この動画をみてからもう一度じっくり本を読むと、また、こまかな発見がある。

 

やっぱり、本がいいね。

読書は、楽しい。