『 押絵と旅する男 』 by 江戸川乱歩 

押絵と旅する男
江戸川乱歩 
しきみ 
立東舎
2017年12月13日  第1版発行

 

『世界をひらく60冊の絵本』(中川素子、平凡社新書)の 「第三章 恋するとは」で紹介されていたのは、別の「乱歩えほん」という、2023年のあすなろ書房シリーズだった。でも、図書館にはなかった。といって、かってみるほどでもないし、、、とおもって、絵はことなるけれど、お話は同じだろうと、、別の『押絵と旅する男』を借りて読んでみた。

 

江戸川乱歩は、1894年(明治27年三重県生まれ。 早稲田大学卒業。雑誌編集、新聞記者 などを経て『二銭銅貨』でデビュー。 明智小五郎を主人公とする探偵小説など、数多くの作品を執筆。主な著書に『怪人20面相』『少年探偵団』などがある。

 

と、もちろん、「明智くん!」はしっているけれど、果たして本をよんだことがあるかというと、、、読んでいないかもしれない。今回、同時に江戸川乱歩全集第五巻 押絵と旅する男』(光文社文庫も借りてみたのだけれど、やっぱり、短編小説としても面白い。これを絵本にするか、、、というくらい、ちゃんとした長さ?!のある短編。

 

私が借りた絵本は、以前読んだ『檸檬』と同じ、乙女の本棚シリーズだった。

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しっかりと物語も書かれつつ、美しいイラストが挿入されている感じ。現代っぽい。

物語は、汽車で旅する私の話から始まり、汽車の中の二人の男の描写へ。

 

はじまりは、こうだ。

”この話が私の夢か私の一時的狂気の幻でなかったならば、 あの押絵と旅をしていた男こそ狂人であったに相違ない。だが夢が時として、どこかこの世界と食違った別の世界をチラリと覗かせてくれる様に、又狂人が、我々の全く感じ得ぬ 物事を見たり聞いたりすると同じに、これは私が、不可思議な大気のレンズ仕掛けを通して、一刹那、この世の視野の外にある、別の世界の一隅を、ふと隙見したのであったかもしれない。”

なんとも、劇的な?始まり。こういう文章、嫌いじゃない。

 

これは、1人の男が語っているのだが、その男が語っているのは、 汽車で乗り合わせた初老の男から聞いた話。。。

 

男は、魚津へ蜃気楼を観に行こうと、汽車に乗っていた。

 

蜃気楼を観に行くという設定がまた、夢か現か、、、という雰囲気とまっちしている。

 

そして、汽車に乗り込むまでの間に見た光景がしばし語られる。夕方の六時ころ二等車に乗った男(私)は、ガランとした車両のなかに、1人の先客をみつける。その初老の男は、額のようなものを窓にたてかけていた。額の表を窓にガラスに向けて、立てかけていた。あたかもその額の中の絵に、外の景色を見せてやっているかのように。

そして、その男は、額を窓からはずすと風呂敷に包んだ。

その男は、その所作も不思議なことながら、恰好も非常に古風で、私の父親の若い時分の色あせた写真の中でみかけるような姿だった。

私は、おもわずじっとその男を見ていたのだろう。男と視線が合う。男は、幽かに笑ってみせるので、思わず挨拶を返す。

そして、しばし、無言が続くのだが、私は意を決して男の方へ近づく。

 

男は、さも、そうするのが当たり前だったかのように、私に対して風呂敷の中身のことを語り始める。。。額の中は、美しい押絵だった。まるで、生きている人形のように美しい押絵だった。

そして、押絵の中にいるのは、自分の兄であり、ある時、絵のように美しい女に恋してしまい、その女を追いかけて押絵の世界に入り込んでしまった・・・・。というのであった。

 

男は、私に額の中の押絵を双眼鏡で見るようにという。古めかしい双眼鏡を受け取った私は、思わず、双眼鏡をさかさまに覗こうとしてしまう。


「いけません。いけません。それは、さかさです。さかさに覗いてはいけません。いけません」

男は、真っ青になって、目をまんまるに見開いて、しきりに手を振る。

 

私は、双眼鏡を正しい方向に持ち直して、押絵の人物を覗いてみた。

焦点があっていくに従って、だんだんはっきりみえてきたのは、娘の姿。そして娘をだく男の姿。。。二人は生々しく、、、まるで、そこで恋人同士が仲睦まじく語り合っているような、、、。

 

男が語ったのは、この押絵になかに愛しい人を見出し、兄は双眼鏡をさかさまに覗くと、みるみる小さくなって、絵の中に入ってしまった・・・・と。そのいきさつを事細かに私に語って聞かせるのだった。

 

そんな話を聞いているうちに、汽車は駅につく。初老のおとこは、「ではお先に」といってプラットホームの闇の中に消えていった。

 

おしまい。


お話として、面白い!


語りの中の語り、というのは、一つの小説の型だとはおもうけれど、本作の中が私が感じている不思議と、兄の不思議を体験した男と、、、。

 

恋したあまりに、双眼鏡の中の世界の小人になって、押絵の世界に入るとは、、、なんとも、日本的な。押絵って、日本の伝統的手芸と言われているが、日常使いする工芸品という感じではない。羽子板とか、、、それこそ飾り用の額縁とか、、、。ぷっくりとしているだけに、肉感があって、、、その世界に入り込んだ男の話。
日本っぽいなぁ、、、という気がした。

 

そして、その兄の押絵の中の幸せを守り、押絵とともに旅することで、兄に自分と同じ景色を見せてやる男。
なんとも、不思議ちゃん世界。

 

でも、とても日本らしい気がした。
絵本ということではなく、、、お話として面白い。

 

江戸川乱歩、偉大なるエドガー・アラン・ポーのもじり。ふざけた名前、、、とおもうけど、やっぱり面白い。他の作品も読んでみよう、という気になった。

絵本というには、十分に文字が多いけど、あっという間に読める。短編は短編の良さがある。

 

あぁ、また、読みたい本が増えてしまった・・・。

でも、それが、読書の幸せ。