『ゆりかごになりたい、とヤナギは言った』
ベッテ・ウェステラ 文
ヘンリエッテ・ブーレンダンス 絵
塩崎香織 訳
化学同人
2023年2月15日 初版 第1刷発行
『世界をひらく60冊の絵本』(中川素子、平凡社新書)の 「第10章 自然の豊かさを味わう」からの紹介本。図書館で借りて読んでみた。
表紙の絵は、木の上で休んでいる白い鳥と、幹の穴から顔を覗かすリス?モスグリーンをベースにしたような色合いが、やさしい。
表紙を開くと、
” 大きくなったら
ナラはタンスになりたい
ブナはおもちゃがいい
カバノキは赤ちゃんのベッド。
ベッドじゃなければ子供のいす。
「 ヤナギはどう? なにになりたい?」
風にしなう自分の枝を
みつめていたヤナギは
そのまま そっとつぶやいた。
「ゆりかご」”
なんて、優し気な・・・・。
著者のベッテ・ ウェステラは、 オランダの児童書作家。 小学校の教師を経て、大学で心理学を学び、 物語や詩の創作、 作詞なども本格的に開始。 2015年と2020年には、 子供向けの詩集『doodgewood』『Uit elkaar』で オランダ語の優れた児童書に与えられる「金の石筆賞」と 児童文学評論家が選ぶ「ワウテルチェ・ピー テルセ賞」を受賞した。
絵のヘンリエッテ・ ブーレン ダンスは、 オランダの木版画作家。
訳の塩崎さんは、翻訳・通訳者。オランダ語、英語、 ドイツ語の翻訳を手掛ける。
そうか!版画なのか。この微妙な線・・・。
中表紙は、まっしろな紙の中央に、手書き風の本のタイトル。そして、右下の隅に、ホタルのような虫。なんだか不思議な存在感だと思ったのは、版画だ。かすれたような、彫り残した線の感じが、なんとも、、いい。
物語は、森のなかで「大きくなったら、なにになりたい?」と語り合う木々たちが主人公。
それぞれの木を、私は見た目では区別できないけれど、それぞれに異なる幹や葉のようすが、ちゃんと描き分けられている。
そして、森の中には、鳥や動物も。
ナラは、タンス。
ブナもタンスになりたいというと、ブナはブナだからダメだと言われちゃう。
そして、ブナがなれるのはテーブルだよ、ってさとされる。
でもブナは、
「みんなにべたべた触られるのはいやだな」って。
「それならブナの床はどう?」
「みんなにふまれるってこと? かんべんしてよ、ナラ」
そして、ブナは、積み木とか、汽車とか、子どものおもちゃになることに。
カバノキは、赤ちゃんのベッド。じゃなければ、子どもいす
そして、「ヤナギは?」ときかれたヤナギ。
風にしなうヤナギの枝では、テーブルにも、子供のおもちゃにも、いすにもなれそうにない。
そして、ヤナギは、
「ゆりかご」と。
ポプラは、スプーンやお椀に。
トウヒやカエデは、ヴァイオリンに。
「シダレヤナギは?」
・・・・・
「なんにもならない。シダレヤナギは朽ちる。」
そんなのごめんだとトネリコが叫ぶ。
トネリコは、伐採されて家の骨組みになるという。
「伐採?それ、なぁに?」
小さなトウヒは伐採を知らない。
そんなおしゃべりをしている森の木々たち。
やがて、きこりがやってくる。
年老いたシダレヤナギと小さなトウヒを残して、ナラやブナ、みんなを切っていく。
「さて、朽ちるか」シダレヤナギはつぶやくと、皮は剥がれ、枝は落ち、、、
そして、キノコが育ち始めた。
軟らかくなったところに虫が卵を産む。
アカハネムシやカマキリが幹をすこしずつかじりとっていく。
トウヒは、たべられているシダレヤナギをみてびっくり。
「朽ちるっていうのは、こういうこと」
「虫の美味しい餌になる」
それから何年も、シダレヤナギは朽ち続けた。
トウヒは、伸び続けた。
朽ちているシダレヤナギと大きくそだったトウヒの姿でおしまい。
なんとも、、、素敵な自然の中のおはなし。
そして、物語の後、木の図鑑のように、ナラ、ブナ、カバノキ、、、、木々の説明がついている。葉脈まで描かれた葉の絵は、生命力を感じる。
なんだか、木々が愛おしくなるような、そんな一冊だった。
さて、おうちにある木の家具たち。何の木でできているのだろう?
買うときには、XXXXの木なんだぁ!って思って買うのに、
使っているうちに、わすれちゃう。
でも、我が家の家具たちも、かつては大地に根をはって生きていた木なんだよな。
大事に使おう。
木の家具たち。
そんな、優しい気持ちになれる一冊。
自然の豊かさをいただいて、私たちは生活しているんだね。
感謝。