『マッキンゼー 世界を操る権力の正体』 by  ウォルト・ボグダニッチ、 マイケル・フォーサイス 

マッキンゼー 世界を操る権力の正体 
ウォルト・ボグダニッチ
マイケル・フォーサイス 
中山宥 訳
早川書房
2024年7月20日 初版印刷
2024年7月25日 初版発行
When McKinsey Comes to Town: The Hidden Influence of the Woorld’s Most Powerful Consulting Firm. (2022) 

 

日経新聞 2024年9月28日 の 書評 で紹介されていた本。記事には、

”・・・・・・マッキンゼーが重視する価値観は3分類18項目ある。そのトップは「会社よりクライアントの利益を優先させよ」である。また「高い倫理観の遵守」も3番目の価値観に位置づけている。しかし「クライアント利益の優先」と「高い倫理観」にはときにトレードオフの関係が生じる。それは顧客の事業が倫理基準に達しない場合だ。この場合、顧客の依頼を断るか、倫理観を棚上げするかのいずれかになる。本書はマッキンゼーが実際に手を染めてしまった後者の事例について、膨大な内部資料やインタビューから光を当てている。・・・・・”

とあった。

つまり、マッキンゼーの汚点の暴露本ってこと。

ちょっと、興味を持ったので 図書館で借りて 読んでみた。

 

著者のウォルトさんは、ニューヨーク・タイムズ紙の調査報道記者。ピュリッツァー賞を3度受賞。 ニューヨークやワシントンでテレビ番組でも調査報道を担当。マイケルさんも、ニューヨーク・タイムズ紙の調査報道記者。 2013年に フォーブズ誌でジョージ・ポーク賞を受賞したチームの1人。 米海軍の退役軍人。

 

表紙を開くと、
”「くさびのように食い込み、アメーバのように広がれ。 いったん中に入ったらその組織の中で自分の存在を広げ、 あらゆることをやるべきだ。つまり”トロイの木馬”のように行動する。」(本文より)
学生の憧れの的であり、たとえ短期間の在籍であっても、産業界や政府機関に顔がきく生涯有効のパスポートを得られるというコンサル界の王者、マッキンゼー・アンド・ カンパニー。 そのマッキンゼー で何が起きているのか?
「粛清」 と呼ばれる レイオフ の提案、 事故死を招いたコストカット推進、 独裁政府への支援・・・・。ピュリッツァ-賞を受賞した記者が、関係者への聞き取りと内部文書をもとに輝かしいパブリックイメージに隠された裏の顔を暴く、衝撃のルポタージュ。”

と、おどろおどろしい・・・。


目次
はじめに  マッキンゼー が街にやってきたら
第一章 罪悪感無き豊かさマッキンゼーの価値観
第二章 勝者と敗者 不平等マシン
第三章 両立  政府を助けて 自らの身も助く
第四章 マッキンゼー移民問題 「政策はやらない。 やるのは実行だ」
第五章  中国政府との仲睦まじさ
第六章 冥界の門番 タバコと電子タバコ
第七章 オピオイドの販売促進
第八章 炭鉱をダイヤモンドに変える
第九章 有毒な債務  ウォール街マッキンゼー
第十章 オールステートの秘密のスライド 「勝負はゼロサムゲーム」
第十一章  エンロンアストロズ
第十二章 アザラシを殴る  南アフリカにおける大失態
第十三章 サウジ国家への奉仕
第十四章 チャモクラシ― イギリス国民保険サービスの半世紀
エピローグ
情報源について
謝辞
訳者あとがき
原註

 

感想。
読むに堪えない・・・・。ひどい。ひどすぎる。。。。

もちろん、こういう本だから、徹底的にマッキンゼーの悪行だけが書かれているのであって、マッキンゼーにも良いところだってあるはずだ。私は好きではないけど・・・。

今、chatGPT に「有名コンサル 10社をあげて」といえば、筆頭は マッキンゼー だ。そして、ボスコン、デトロイト、、、などが続く。かつて、マッキンゼーに勤めていた有名人と言えば、勝間和代さんとか、瀧本哲史さんとか、、、。ちゃんとした人だっている。彼らは、マッキンゼーを途中退職しているわけだが。。。でも、コンサルが入ってきて現場がボロボロになるというのも、理解できる。

 

「はじめに」で紹介されるのは、マッキンゼーに薦められるコストカット戦略を実行したことで、死亡事故につながった工場やディズニーランドの話。予防保全の重要性を理解していない、PLしかみないコンサルが入れば容易に想像できる、品質低下や事故多発。絶対にやってはいけないコストカット。こりゃひどい、、、という話で始まる。
そして、第一章以降は、入り込んだ会社で重ねた間違った施策の数々・・・。

 

本当に、読むに堪えない。途中で読むのを辞めようかと思ったけれど、一応、この本は紹介しておいた方がいいと思ったので、半分くらいはななめ読みで読んだ。

 

アメリカで大問題になっているオピオイド中毒も、マッキンゼーが製薬会社のコンサルに入っている。エンロンの破綻も。ゼネラルモーターズの品質問題も、アメリカでの移民排除も、ウォルマートの安売りも、アルツハイマー病治療薬アデユカヌマブ、、あらゆることにマッキンゼーは入り込む。

 

リストラをダウンサイジングと呼び、グローバルなアウトソーシングといってオフショアリング。それと同時に海外企業へ触手を伸ばす。海外での存在価値を得るために政府にも近寄る。中国では、新彊の人権問題を素知らぬ顔で、企業パーティ。腐敗した政府であろうと、握って儲かるなら入り込む。保険会社に入り込んでは、いかに、保険を払わずに済むかのコンサル。

 

コンサルタントたちは、企業に対して忠誠心などほとんどもっておらず・・・”とでてきた。

 

そうなのだ。コンサルの一番の問題は、

「近視眼的な戦略で、短期に成果がみえることしかやらない」

ということだ、というか「できない」といっていいと、思った。

 

もちろん、効果があって、親身になって素晴らしいコンサルをしてくれる人たちもいる。私も、コンサル会社にお世話になったことがある。人を支援する素晴らしい仕事のはず。だから、私自身経営コンサルの会社を経営もしていた。でも、やはり、、、現場の当事者ではないのだ。

 

私が、大企業でのサラリーマン時代にコンサルをつかったのは、社内的に対立する戦略があったとき、コンサルをいれて検討をしていると「XXコンサルのススメのA案」という言い方ができるから。結局、人間はその案ではなく、「その案を提案する人間」が気に入らないと、何を言っても反対なのだ。だいたい、年齢層の高い経営陣に対して、経営会議でYESといってもらうには、「コンサルが・・・」といった方がYESを勝ち取りやすい。まぁ、それくらい、判断力に課題のある経営陣だった、ともいうが・・・。

 

本書にでてくるどうみても倫理的に間違っている戦略を推進した担当者だって、「実行は顧客」なわけで、自分ですべての責任をとるわけでもなんでもない。それが、コンサルの立場。

時々、コンサルタントが実行までしてくれると考えている経営者がいるが、それは間違っている。たとえ、数年単位の契約でつながっていたとしても、所詮、コンサルは社外の人間だ。顧客の企業の成長を願っていたとしても、計画の実行責任は顧客側にある。

 

近視眼的にコスト削減をしようとすれば、日本であれば人件費カットが一番効果的。でも、日本企業の場合は、正社員をそう簡単には解雇できない。だから、コンサルが入っても、破壊的なダメージが起こることは少ない。でも、アメリカの場合、はい、今、解雇と言われれば、全ての荷物をもって即座に職場を後にする。。。工場でメンテナンス要員をリストラすれば何が起こるか、、、悲劇しかない。

日本の場合、派遣法改正によって非正規雇用が増えたという悲劇もあるけど・・・。コンサルの常套句は「パート、アルバイトの人員合理化」。

 

目次を見て、自分が関わる業界があれば、そのページを読んでみるといい。FDAや製薬企業だって、利益相反しそうな両社にマッキンゼーはコンサルを提供している。

まちがいなく、良い提案だってあるのだろう・・・でも、・・・どうかな・・・。

 

企業変革をおこそうとしたとき、顧客側にすればプロの変革者・マッキンゼーをたよりたくなることもあるだろう。マッキンゼーにすれば、短期的にでも効果が見えれば、報酬がたんまり入る。後からじわじわとそのつけが回ってくる頃には、もう、マッキンゼーからの担当者はいない。その戦略が本当に正しいのかは、コンサル会社より現場の方が正解をもっている。でも、経営に声が届くのは外部コンサル。悲しいかな、今の日本でもおきている。

本当に、社会のためになっているのか?

変革は、「世のため、人のため、平和目的」でなくてはならない。

痛みを伴う改革」だの、「破壊的創造」だの、言葉遊びに騙されちゃいけない。

 

その一線を越えるべきかどうかは、コンサルの一声ではなく、「自分が社長だったとしてもそうする」と思える判断力をもって、決断すべき。本書では、マッキンゼーを悪の根源であるかのように書かれているが、それも本質ではない。問題の本質は、自社の経営の判断を外部コンサルタントにゆだね過ぎた顧客の経営陣側にある、と思う。

 

コンサルに巨額の報酬を支払うと、その意見を採用しないと損になってしまうような、「保有効果」「損失回避」といった認知の歪みが生じているのではないだろうか。

 

人間の不合理さ。そういう行動経済学理論もわかったうえで、富を吸い取ろうとしているのであれば、やはり「善」とは言えない。マッキンゼーが腐敗した政府に加担するようであれば、「倫理感」は底辺だ。

 

コンサルタントにも問題はあるかもしれないけれど、外部コンサルの言葉に重きを置き過ぎる顧客側にも問題がある。

 

これは、個人の人生に当てはめてみても同じことがいえる。

キャリアコンサル、コーチング、占い、、、色々あるけれど、行動するのは自分しかない。

 

自分の人生は、自分で考えて、自分で決める。

結局は、それが大事。