『山縣有朋の挫折 誰がための地方自治改革』 by 松元崇

山縣有朋の挫折
誰がための地方自治改革
松元崇
日本経済新聞出版社
2011年11月22日  1版1刷

 

日本の民主主義に関する話題の中で、松元さんの著書として引用されていたので、図書館で借りて読んでみた。

 

表紙裏の袖には、
”「 東日本大震災と 世界的な経済危機の下で 国民生活をどう守っていくか、 民主党政権の対応が問われている。 しかし、 国民生活に関わる行政の多くは 地方自治によって担われている。 破局寸前の我が国財政を立て直し、 増大を続ける社会保障をどう 賄っていくか、 この課題を解く鍵は、 中央政府地方自治体の関係をどう再構築するかにかかっている。 本書は、 明治初期の揺籃期から戦後のシャウプ勧告に基づく新しい制度の発足までの地方自治制度の変遷と改正の経緯を記述しており、  地方行政に関わるものや地方行政を研究するものにとって必読の書 である。」
石原信雄(元内閣官房副長官自治事務次官)”
とある。

 

本書を検索していたら、2012年2月7日付 日経新聞の書評がでてきた。
”昨年末の大阪府知事大阪市長のダブル選挙以降、地方分権への関心が高まりつつある。地方分権改革が進まない背景には、利害対立のみならず、歴史的経緯もあるようだ。本書は、明治維新以降の我が国の地方自治の歴史を山縣有朋を通じて描いたものであり、様々な視点から楽しめる。

1つには、元帥陸軍大将として軍部を司(つかさど)り、政党政治を批判する元老として政局に影響を与えた人物として有名な山縣の、違った一面を明らかにした点である。普通選挙を激しく嫌った山縣は、国政選挙より資格制限が緩く多くの人が投票できる選挙に拠(よ)る市町村の議会に権限を与え、これを立憲制の学校として国民意識を育もうと当初腐心した。しかし、政党が台頭し、地方へ露骨に利益誘導したり地方人事に介入するようになると、地方自治確立への山縣の熱意は失われていった。

2つには、今日にも名残がある中央集権的な制度が、どんな契機で形成されていったかを深く理解できる点である。山縣に見放された地方自治制度は、大正期以降、地方の貧困克服を狙いとして、国の救貧行政の拡大を通じて集権化していった。政党が中央官僚OBを町村長に据えて地方行政の効率化を図ろうとしたが、これによりむしろ地方は国の末端行政機関と化した。高橋是清は「自力更生」を目指す地方対策を試みたが未完に終わり、その後国への財政依存を高める結果となった。今日、地方分権を求める声が高まっていながらいまだ不徹底なのは、こうした第2次大戦前に打ち込まれた楔(くさび)の呪縛からまだ逃れていないからだと、本書は教えてくれる。

3つには、「地方自治」の真意は何かを、本書を読むことで改めて深く考えさせられる点である。明治維新当時、明治政府の統治体制が未整備だったが各地には江戸時代からの自治組織があった。そこには、国に依存する発想はなく、自らの制約の範囲内で自律的に地方自治を全うする姿があった。今日はどうか。地方分権といいながら、何かにつけ国のせいにし責任転嫁していては改革は貫徹しない。自己決定だけでなく自己責任の発想が、今日の地方自治に欠けていることを痛感させられる。”
とあった。

 

目次
第1部 豊かだった明治日本の地方 ―山縣有朋地方自治制度への前史
 1 明治の地方自治とは何だったのか
 2 江戸の自治英米自治 
 3 地方からの財源の吸い上げ
 4 町村への干渉の時代
 5 大久保利通地方自治  内治重視
 6  民間主体の殖産興行政策 松方正義と前田正名
 7 「 区町村協議費無干渉時代」  江戸の自治への回帰
 8 市部と郡部の財政調整  三部経済制
 9  大久保利通暗殺後の混乱  府県会へ統制強化
 10  福島事件と町村会への統制強化  「区町村費費目限定の時代」

第2部 山縣有朋地方自治 ―立憲制の学校
 1 自治元来是国基 条約改正と地方自治制度
 2 市町村財政への新たなコントロールの仕組みの導入
 3 立憲政の学校としての工夫  等級選挙と名誉職の原則
 4  山縣有朋の欧米調査  市の参事会制
 5  「待ち甲斐なきもの」とされた山縣有朋の府県制・郡制
 6  衛生行政と地方自治   日清戦争を契機とする近代的な自治体への変身
 7  臥薪嘗胆の時代

第3部 山縣有朋の挫折 ―見捨てられた地方自治
 1 山縣有朋原敬
 2 山縣有朋の人物像
 3 日露戦争後の地方財政   財政的な負け戦の中での苦悩
 4  地方改良運動   明治44年の市制・町村制改正

第4部 後継者たちの闘い
 1 後藤新平と都市の自治
 2 原敬の地方利益誘導型政治 ―第一次世界大戦後の大増税
 3 高橋是清の税源委譲案と関東大震災
 4 高橋是清の戦い   財源なき財政調整制度
 5 農山漁村経済更生運動  「自力更生」の重視
 6 国による地方の末端行政機関化   近代的な救貧行政の確率立

第5部 中央に吸収される地方
 1 馬場税制改革案
 2 昭和15年度税制改正
 3 太平洋戦争下の地方財政
 4 未完の地方自治

おわりに  明治維新を可能にしたもの

 

感想。
う~む。難しかった。
考えると読み進まないので、わからないままでも読み進めた。そしたら、結構、面白かった。というか、たくさん、目からウロコ。

 

私は、地方行政に関わっているわけではないし、研究者でもない。でも一人の国民であると同時に市民でもある。たしかに、普段の生活で役所にいくとすれば区役所だし、生活に近いのは地方行政。だけれど、正直言って、市議や県議への興味は薄い・・・・。自分が地方自治体に世話になっているという感覚が薄いのだ。全国紙は読むけど、地域版は読まないし、だから政治と距離感を感じるのかも?山縣は、地方自治あっての国政と考えていたらしい。たしかに、、、、。江戸時代は、そもそも国政なんかなかったので、日本は地方自治の基盤があったのだ。しかし、日清戦争日露戦争と国の財政が厳しくなると、いつのまにか中央集権が強くなっていった。戦後もその傾向は変わらず、令和の今でも、国からの助成金をたくさんとってくることが地方自治の一つのやり方になっていると言えるかもしれない。電車の線路をひっぱってくるとか、地方利益優先型の地方自治は、原敬の時代にさかのぼる。

 

山縣有朋とは、政敵であった原敬だけれど、山縣は、原敬の地方に注目する政策には共感していて、原敬が暗殺された時には深く残念がったということ。

山縣有朋というと、マンガ日本の歴史などの一般的書籍では、頑固者で最後はちょっとあつかいにくい人物、、、という印象をうけていた。でも、本書では、山縣有朋はただそれだけのひとではなかった、という評価。面白い。たしかに、、、。明治維新から順を追ってみていくと、たしかに、山縣がめざした地方自治がうまくいっていたら、日本人はもっと政治について成熟していたかもしれない。山縣が地方自治に重点をおく暇がないほど国政が忙しくなり、原敬に内閣を譲ったものの原は暗殺されてしまう。財政としては、軍事費の増大をおさえようとした高橋是清2・26事件で暗殺され、人々の血税は軍事拡大へ。そして、戦争へ。そして敗戦・・・・。

 

本書の中には、数字もたくさん出てくる。お金、人口、死者、、、。あんまり数字にこだわって読むと、なかなか読み進まないので、ちょっと読み飛ばしてしまったけれど、出来事や質的な内容を追っていくと、後藤新平東京市を立て直そうとしたときも、関東大震災で思惑は崩れているということ。

 

日本は、震災頻発国なのだから、計画には「災害対策・対応」も盛り込まなきゃいけないのだよなぁ、と思った。そして、それは国に頼ってばかりではなく、地方自治が主体にならないといけないのだろう、、という気がした。江戸時代の河川事業だって、みんな住んでいる人たちの合意で行われていたのだ。江戸時代、今でいう、クラウドファンディングのように、特別の支出が必要になったときには、みんなで出し合う、という仕組みが成立してた。江戸時代って、長く続いただけの仕組みがあったのかもしれない。

 

地方の自治が奪われてしまったことの悪影響は大きかったけれど、中央集権的になってよかったこともあって、それは、衛生行政日清戦争後、コレラ赤痢、腸チフスなどの感染症が流行って、財政が苦しい中でも国が率先して衛生行政に力をいれた。東京では、外国人に対して見得をはりたいという思惑もあったようだけれど、それはポジティブ効果だったといえるのだろう。

 

読み終わった後に、目次を振り返ってみると、あぁ、そうか、そういうことか、とあとから理解がついてくるところもある。目次には、実はさらに細かな表題が付いている。論文としてもこまかいな?と思ったら、財務省の「ファイナンスに掲載してた文章がもとになっているそうだ。「ファイナンス」は月刊の政策広報誌で、実は、誰でもWebで読むことができる。財政だけではなく、幅広い分野の学術論文にちかい「読み物」を読むことができる。活字中毒で、読むものが足りないという人にはおすすめ。難しい話も、繰り返し出会っていると、ふと、理解が進むことがある。この本も、また読み直すと「あ、あれ!」ってなる気がする。明治から昭和にかけての歴史の復習にもなった。

 

広報誌「ファイナンス」11月号 特集 令和6年度の事例集から紹介 全国財務局の地域連携の取組 : 財務省

 

自分が納めている税金が、地方税なのか、国税なのか、それくらいは知っていなきゃいけないよね、って思う。所得税、消費税、酒税などは国税。住民税、固定資産税などは地方税


そして、その税金がどう使われているのか、もう少し興味を持った方がいいんだろうな、って思った。

 

気になったところ、ちょっと覚書。

地租改正は、土地所有者だけに納税義務を課し、 明治21年に 町村会の選挙権を与えられたのは地租の納税者だけだった。それは、小作人の発言権の否定。その後の普通選挙をもとめる運動は、この時に否定された発言権の回復を目指すという一面もあった。

 

・地租改正は、日米修好通商条約でおしつけられた関税5%によって、財政が制約されていたために必要な措置だった。岩倉遣欧使節団が、この条約改定に成功していたら地租改正はなかったかも??

 

農政の補助金制度:工業化と人口増加によって、明治30年にコメ輸出国から輸入国に転じたことから「コメ増産」を最優先する農政が展開された。

 

トクヴィルの予言: 文明社会において 地方自治を確立することの難しさ
「 地方共同体の独立を確立することの難しさは、国民の知識が開けるにつれて減ずるどころか、むしろ啓蒙とともに増大する。 文明の著しく進んだ社会は、地域共同体の自由の行使をなかなか許さない。 多くの逸脱を見ると我慢できず、 実験の最終結果に至る前に成功に絶望してしまう」

 

トクヴィルの言葉:
戦争は全ての人を指導し、 あらゆるものを使用する力をほとんど 強制的に政府の手に集中させる。 たとえ暴力によって一挙に専制に至らぬとしても、 戦争は習慣を通じて ゆっくりとそこへ導く。」

 

・ドイツやフランスの自治制度は、日本のように画一のものではない。

 

原敬は、祖父が盛岡藩の家老職にあった上級武士。上からの自治を理解しやすい立場にあった。

 

・東京は、明治維新期に財源が豊かで、増税の必要がなかった。そして、市民に増税を求める必要がなかったことが市会を堕落させ、賄賂が横行し、伏魔殿と呼ばれるようになってしまった。 

 

いろいろ、目からウロコ。

 

普通選挙が当たり前と思っているけれど、大学生の時に政治についてたいして学ぶ前に選挙がやってきて、あたふたしたことを思い出した。

一票の格差問題もあるけれど、それも国政のことだよね。その前に、地方行政への参画意識を持つことの方が重要なのでは?と感じてしまった。今の私には、ほとんどない・・・・。大学生の頃と、さして成長していない自分に気が付いてしまった。

 

民主主義とは、なんだろうか?

政治学部とか、経済学部って何を勉強するんだろうと思っていたけれど、こういうことを勉強するのかしら??

 

う~ん、松元さんの著書は、難しいけれども面白い。

読書は楽しい。