「アリになった数学者」 by  森田真生・文、脇阪克二・絵

アリになった数学者
森田真生・文、脇阪克二・絵
株式会社 福音館書店
2017年9月1日 発行
たくさんのふしぎ傑作集第一刷)

 

先日読んだ、森田さんの「数学する身体」が、面白かったので、もっと森田さんの本が読みたくなった。

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これも、図書館で見つけたもの。
児童書。
絵本。

 

絵本なので、読んでしまえば、あっという間。
図書館で読んでそのままでもよかったのだけど、もう一度読み返したくなって、借りて帰った。


ぼくが、アリになっちゃう話。
アリになって、地上二ミリの世界を体験する。

 

”アリになる前のぼくは、数学者だった。
数学者は、数や図形の世界を研究している。”

”「数」や「図形」は、からだや星とちがって、この宇宙のどこを探してもない。”


そうだ、そうだった。

”3本のペンとか、3匹の羊ならあっても、「3そのもの」はどこにもない。”

そうだ、そうだった。
「ほんものの3」なんてものは、ない。

 

”数学者は、存在しないものについて研究しているのだ。”

そして、ぼくは出会ったアリに数の話をしてみたりするのだけど、アリは数の話には興味をしめさない。
一つ目の実も、二つ目の実も、三つ目の実も、ただの実。
巣に運んだ実が、何個目なのか、アリは数えない。

ぼくは、伝えたいことが伝わらずにやりきれない気持ちになる。
アリには「数」なんて理解できないのだ。
「一歩」ずつ頑張るって、人間にしか通用しない言葉なのだ。


やりきれない気持ちのまま、うとうとと眠りにつく。


そして、雨。
目覚めた時、ぼくの目の前に、翅をはやしたあでやかな姿のアリがいた。
そのアリは、雨上がりのふりそそぐ光の中で、「朝の露」を数えていた。
”三万五千六百七十一の露”

アリに数など分からないと思っていたところだったのに。


”あなたは数がわかるんですか?!?”

あでやかなアリは言う。
”数はわたしたちにとって、とても大切よ。
露の数だけじゃない。鳥が鳴いた数、月の満ち欠けの比、川の流れる速さ。
それをいつもかぞえている。
でも、人間みたいに指を折ったり、そろばんを使ったりはしない。
地上にあるものはすべて、たがいをてらしあって存在している。
あそこの露には、百五十年まえ、オーストラリアの渓流の一部だった水が入っている。
露に移りこんでいるのは『いま』だけじゃない。

わたしたちにとっての数は、人間のしっている数とはちがう。
わたしたちにとっての数には、色や輝きや動きがあるの。
刻々と変化し続けている。
それが生きた数の世界よ”

 

森田さんの思う数の世界を、翅のはえたアリが代弁している絵本だ。

「うごいて生きている数」

アリにはわかっているけれど、人間がまだきがついていない数の世界。

ちょっと不思議な物語。

 

そんな風に数を考えたことはなかった。
「ほんとうの3」とかも、考えたことがなかった。
視点をかえると、数が研究対象になるのだ、ということが面白い。

 

本書の著者紹介には、森田さんの経歴が詳しく書かれていた。 


1985年東京に生まれる。2歳から10歳までアメリカのシカゴで育つ。小さい頃から数が好きで、怪我をしても、足し算の問題を出されるとすぐに泣き止んだ。中学、校高校とバスケットボールに夢中になった。大学では文系の学部に入学し、さらにロボット工学を学ぶ。その中で友人や先輩から数学の面白さを教えられ、幼い頃に抱いた数への関心が蘇る。数学科への転向を決意し、東京大学理学部数学科で学び卒業。現在は京都に拠点を構え、在野で数学の世界を探求する。

足し算の問題で泣き止むって、、、。

 

数学を研究するために生まれてきたような人なのだろう。
でも、数への関心をこうして文章にすることができる、文系の才能もある。

面白い。

 

絵もよかった。
シンプルな線と色。

 

面白いことに興味を持つ人だなぁ、と思う。
と、そういう興味をもつ森田さんに興味を持つ私。

 

私は、数学と言うのは正解がはっきりあるから好きだと思っていたけれど、答えのない世界がまだまだあるという事なのだろう。

だから、研究対象たりえる。

そして、それは数学に対するモヤっとした感じの正体だったのかもしれない。割り切れるはずなんだけど、割り切れない。

関数も、図形も、幾通りにも解釈の仕方や計算のプロセスはあって、高校の数学としては導かれる解は一つなのだけど、その色々な解き方を考えるのが好きだった。

数字は生きている。

 

視点を変えてみてみるって、面白い。

数学を突き詰めていくと、情緒につながる、というのが、なんとなくわかるような気がして、愉快なきもちになる。

私も、数学が情緒につながってほしい、と思っているからかもしれない。

 

無味乾燥と思っていた数字の世界が、色をもって輝いて見える。

そう思える楽しさ。

 

面白い。

 

と、森田さんに興味を持ったところで、まったく違うところから「この本面白いよ」と教えていただい本の帯が、森田さんのコメントだった。

面白い。

 

チューリングがつながり、森田さんがつながり。

紹介された本のタイトルは、「世界は『関係』でできている」。

 

そう、世界は関係でできていて、関係で広がる。

いとをかし。

 

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『アリになった数学者』 森田真生