『総理通訳の外国語勉強法』 by  中川浩一

総理通訳の外国語勉強法
中川浩一
講談社現代新書
2020年1月20日第1刷発行

 

図書館の新書コーナーで見つけて借りてみた本。
思いのほか良かった。

 

著者の中川浩一さんは、1969年京都府生まれ。慶応義塾大学卒業後、外務省入省。1998年から2001年対パレスチナ日本政府代表事務所勤務。2001年から2008年外務本省勤務。天皇陛下、総理大臣外務大臣などの通訳を務める。現在、外務本省勤務。

と、通訳の方なのだけれど、英語ではない。
なんと、アラビア語
しかも、外務省に入ってからアラビア語を初めて学んだという、大人になってアラビア語のプロになった方。 

 

英語学習法などの本はたくさんあるけれど、通訳を目指す人に向けて書かれた一般書はあまりない。本書は、母国語以外の外国語を、大人になってから習得したいにむけた応援書という感じ。

英日の通訳を目指している私にも、ちょっと、目からうろこ。
そうだよね、そうなんだよね、と共感することもたくさん。
私にとっては、とても良書だった。

 

目次

第1章 総理通訳への苦難の道のり
第2章 外国語習得のエッセンス
第3章 「ネイティブ脳」より「日本語脳」
第4章 「インプット」より「アウトプット」
第5章 外国語習得の具体的メソッド
第6章 通訳のすすめ

 

第1章では、中川さんが外務省に入って、いきなりアラビア語担当になってから、どうやって通訳できるほどにまでなったかの経験談アラビア語と言えば、あのミミズが這ったような文字。まさに、「あいうえお」の練習から初めて、3年で習得するまで。現地の人と実際に話すことの大切さが語られている。テキストでの勉強や、語学の先生との勉強ではなかなか気づけない、実際に使われている生きた言葉を知るのは、現地で毎日その言葉を使っている人と話すのが一番。それは、本当にそう思う。

私も、タイ赴任前に日本でタイ語を付け焼刃の3か月、学んだことがあるのだけれど、タイ人の先生ではあったけれど、彼女の言葉は古い言葉で、現地で使っても通じないものもあった。言葉というのは、進化、変化するものなのだ。現地で、現地の人と話す。たしかに、それは一番。ただ、話す相手を間違えると、言葉遣いが違ったりする、、、。女性言葉、男性言葉、若者言葉、、、どこの国にもちょっとづつ違いがある。

中川さんは、アラファト議長の通訳もされたそうだ。総理の通訳もそうだけれど、外交の通訳は、誤訳が絶対に許されない世界。すごいなぁ、と思う。

 

第2章が、ハウツー本的、ノウハウの部分
語学を学ぶのに大事なのは、
・素直さ
・目的、目標、期間
・集中力

・わからない単語は調べる

 

正しいやり方でやるのが、何より大事だという。そのためには、我流ではなく、素直に先生のいうことに従う心が大事だと。語学は、未知との遭遇。楽しみながら、子供になった気持ちで素直にやってみること。
そして、目的、目標、期間をしっかり定めること。
期間については、私も同時通訳の先生によく言われる。なんとなくいつか、、、なんて思っていたら、一生同時通訳なんてなれませんよ、と。

集中力というのもよくわかる。聞くだけで、語学が上達するわけがない、と。そりゃそうだ。
ながら勉強をだらだらと続けるより、短時間でも集中したほうが良いと。

 

単語は、憶測して考えるのではなく、ちゃんと調べる
意味を取りながら、集中して聞く。集中して話す。
Vocalizationが大事。

分からない単語が出てきても、辞書に頼らずに読んでみる、という勉強の仕方を勧める本もある。でも、それだと、概念としてはぼんやりつかめたとしても、通訳にはなれないのだ。通訳は、一語一語、特に重要な骨子になる言葉は、言葉にできないといけない。だから、わからない単語が出てきたら、ちゃんと調べる。

これって、意外と大事。

勉強ではなく、必要に迫られて英文を読んでいるときは、そんなじっくり調べている時間はないから、ついつい、全体把握で終わってしまう。そうすると、いつまでたってもクリアに言葉に変換できない。

かつ、目で見てわかってもダメで、音で聞いてわからないと通訳にはなれない

 

よくわかる。耳が痛い。。。

私は、なんとなく、、、期間目標を定められていないし、先生のいうことも素直に聞いていないかもしれない。ながら聞きも多い、、、だから、伸びるには伸びるけど、、、sluggish、、、。のろのろ。。。

ちょっと、心を入れ替えて、集中!してやってみようと思う。

 

第3章では、考えるのには得意な母国語を使った方がいいということ。同時通訳は、両言語を同時に扱うので、この考え方が大事だというのは私も実感する。
ただ英語で仕事をするのなら、英語だけで考えてもいいのだけれど、同時通訳は両言語を同時に発話出来なくてはいけない。それには、日本語で考えて、瞬時に英語に変換する瞬発力がもとめられるのだ。であれば、考えるのは日本語。

そして、意味の分からない外国語を聞くよりも、日本語の意味が分かったうえで、外国語を聞いた方が勉強効率が良いという。なるほど。そうかもしれない。

普段、英語のニュースを聞いているのだけれど、必ずしも100%理解できていないままに聞き流しているところがある。結局、聞き流したものは、聞き流しただけで、なにも自分の実力につながらない。日本語の意味が分かっている中で英語を聞けば、聞いたことのない単語が出てきたときに、あ、あの意味の単語なのかも、と思えるし、調べてみることができる。知らない人はいつまでたっても知らない人、、知らない単語はいつまでたっても知らない単語、、、では、語彙力も増えないということだ。

 

第4章では、アウトプットの大切さ、アウトプットというのは、話す、書く。通訳であれば、アウトプットしない限り、仕事にならない。聞いて自分が理解したところで通訳にはなれない。だから、口を動かして発話する訓練が大事なのだと。

 

第5章は、第2章に続き、ハウツー。
「自己発信ノート」(いいたいことを外国語にして書いておく)を作るすすめとか、「オリジナル単語帳」をつくる、など。
そして、「メモを取らない力」をつけるために、リピーティング、単純に繰り返して発話する訓練がよいということ。これは、シャドーイングとも重なる。

 

マジカルセブン、という言葉があるのだけれど、人は、7くらいまではさっと暗記できても、8,9、、となると暗記が困難になるということ。携帯番号は今どきは、7桁ってことはないから、覚えるのが難しい。そして、昨今、電話番号なんて暗記している人はほとんどいないだろう。自宅と自分の番号くらいだ。覚えようという気にもならない。

 

で、その、7よりも多くなった情報をどうやって、記憶にとどめるか。

リピーティング。
口に出していってみる、というやり方

自分の携帯電話の番号を、どうやって覚えているか?

口ずさんでいないだろうか。

文字ではなく、音で覚えていないだろうか?

そう、記憶するのは発話するのがいいということ。

 

日本語のニュースでもやってみるとわかる。日本語だって、意外と記憶に残らないものだ。概略はつかめても、でてきた数字、固有名詞など、気を付けていないと記憶にはのこらない。コロナの感染者数、ニュースの後に数字を一桁まで正確に覚えている人はあまりいないだろう。でも、通訳は、記憶に貼り付けることに全集中しないとできない。

 

これは、先生もよく言っている。
メモをとるのは、あくまでも補助。
数字、固有名詞はメモを取っても、他の単語は、音として頭に貼り付けなさい、とよく言われる。

貼り付けるにはどうするか。
不思議なことだけれど、本当に、自分で発話するしかないのだ。
口をもごもご動かす。
音読が頭に残りやすいのは、発話するから。

発話の不思議な力。
本書でも言われていて、改めて、もっとちゃんと発話しよう、、と思った。

 

第6章は、通訳のすすめ。たしかに、今ではGoogle翻訳をはじめ、人間の通訳が介在しなくても、ある程度のコミュニケーションは可能になっている。でも、通訳というのは、ただ、言葉を変換しているのではなく、情報を伝えている人なのだ。発言者が何を言いたいのかを理解して、言葉を変換する。国によって、直訳のない言葉もある。だから、情報伝達者なのだ。

 

米原万里さんも素晴らしいロシア語通訳者だったと言われているが、彼女もよく、「情報伝達」が大事、ということを言っていた。その時によって、表現を自在に操りつつも、正確に情報を伝える。それが、通訳のだいご味なのだと。

通訳って、確かに奥が深い。

 

最近、英語の記事を読んでいて、「香港の最高裁判所から2人の英国人判事が辞職した」という記事があり、そこに、

「citing the territory’s departure “from values of political freedom and freedom of expression.”」という英文があった。

 

departureという単語。

「出発」とか、「第一歩」、とかいう意味と取りがちだけど、ここでは、「逸脱」という意味。上記英文は、「政治的自由と表現の自由の価値から香港は逸脱していると非難して」という意味。

今のAI翻訳なら、ちゃんと「逸脱」と訳してくれるのだろうけれど、あれ?と思ったときに、辞書を引いてみることの大事さをおもった。


偶然、手に取った本だったけど、通訳勉強中の私には、とてもためになる本だった。

実は、先日、野口悠紀雄さんの『「超」英語独学法』という本も読んだのだが、それは、私にはちょっと違うな、、、だった。

野口さんがすすめているのは、サバイバル英語
中川さんがすすめているのは、プロフェッショナル英語

文法、冠詞を無視しても、コミュニケーションがとれればいいサバイバル英語と、プロフェッショナル英語は、めざすゴールが違う。
だからこそ、自分の語学学習の目標、目的、が大事なんだな、と改めて思った。

これまで、何年も英語で仕事をしてきた。
でも、サバイバル英語だった。
いまさら、プロフェッショナル英語をめざすのは、実は、へんな癖がついたゴルフスイングを直すぐらい、大変なことなのだと気づかされる。

素直に、言われたことを実直に、もうちょっと頑張ってみようと思う。

 

今日から、4月1日だしね!!

初心に戻って、頑張ろう。

 

f:id:Megureca:20220330111439j:plain

『総理通訳の外国語勉強法』