『こんな生き方がしたい 同時通訳者 鳥飼玖美子』  by 大橋由香子 

こんな生き方がしたい 同時通訳者 鳥飼玖美子 
大橋由香子 
理論社 
2002年12月 初版 

 

図書館で、何か気晴らしになる本はないかな、と思ってフラフラさがしていたら、児童書のコーナーで見つけた本。

 

「こんな生き方がしたい」というシリーズで作られている本らしい。いわゆる、お仕事紹介本。

 

表紙の裏には
”自分らしく、いきいきと仕事を持っていきたい 
あなたに贈る新しい伝記シリーズ”とある。

 

 子供たちに、世の中にはこんな仕事があるよ と伝えるための本 なのだろう。 他にも、漫画家の里中真知子さんや、 科学者のレイチェル・カーソン、 ファッションデザイナーのココ・シャネルなども出ているらしい。 結構面白そう。 
 大人になってからも、こういう本を読むことで、世の中にはこういう仕事もあったのかと知るというのは、結構刺激的。  定年退職後などであれば、まさかこれからまったく新しいキャリアを積もうとは思わないだろうけれど、 世の中の仕事にはそれぞれこういう苦労があったり、活躍の道があるんだということを知るのは、結構楽しい。別に、自分が目指さないにしても、そういう仕事をしている人たちの苦労を知るというのは、その人たちへの尊敬の念につながる。たとえ、赤の他人だとしても、すごい!って思える人が増えるのは、人生にとって幸せなことだ。

 

  今回は、 同時通訳者の鳥飼玖美子さん。私にとって鳥飼さんは、同時通訳者としてというよりは、 NHK の英会話 ラジオの講師という印象の方が強い。だって、彼女の放送で私は英語を学んだと言ってもいい。 そして気がついたら、50を過ぎてから通訳者を目指そうとしている私。 鳥飼さんの著書は、私にとってとても刺激的。

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 本書は、 鳥飼さん自身が書いたわけではなく、  鳥飼さんに関する伝記。

 

著者の大橋さんは、1959年生まれ。「日本読書新聞」「翻訳の世界」編集部等を経て、フリーランスの編集者・ライター。著者も英語に関わるお仕事をされていた、ということなのだろう。

 

目次
第1章 夢見るようなのんびり屋さん
第2章 留学という目覚まし時計
第3章 あこがれのアメリカで
第4章 学生の同時通訳者誕生
第5章 日々チャレンジする喜び
第6章  新しい道、新しい世界へ

 

感想。
楽しい!
そうか、鳥飼さんは、そんな子供だったんだ!って。新鮮だった。

 子供の頃は、のんびり屋さん。でも、近くにアメリカ軍人の家庭があり、同世代のアメリカ人の子供がいた。鳥飼さんのお母様が子供の頃にシンガポールに住んでいたことがあって英語をしゃべれたことから、そのアメリカ人の子供たちとどうしたらお友達になれるのか、と考えていた鳥飼さんに、
what is your name?って聞いてごらん。と言って背中を押してくれた。。よくわからないまま、「わっちゃーねーむ?」でお友達を作っていく鳥飼さん。

それが、鳥飼さんが、よくわからないけれど、英語を話すようになったきっかけらしい。

そして、小学校の途中から東洋英和女学院、小学部3年生へ転向した鳥飼さん。授業中はぼーっとしているけれど、通信簿には「口数が多すぎる」と書かれたそうだ。

中学時代は、英語演劇部で活躍。そしてどんどん英語に目覚めていく。鳥飼さんが高校へ進学したのは1961年。そのころから、留学をめざして猛勉強を始めた。

 

 同時通訳として素晴らしい活躍をされていた鳥飼さんだけれど、若い時には、留学の試験に挫折したり、留学先のファミリーの早口にあっとうされたり、色々と苦労もされてきたのだということがよくわかる。でも、大好きな英語のために諦めずに、前に進み続けた鳥飼さんがすごい!素敵!って思う。

通訳の訓練学校では、「それでは誤訳だ」と叱られた時代もあったのだ。。。だれでも、下積み時代があるってことだ。

 

 本書の中で、通訳の訓練としてのシャドーイングが紹介されている。シャドーイングとは、流れてくる音に合わせて、そのまま声に出してリピーティングする訓練。世の中には、シャドーイングは役に立たないとかいう人もいるけれど、私も、シャドーイングはリスニング力をあげるのには、すごく良い訓練だと思う。私も、それでTOEICの点数をあげた。

 

1969年7月16日、日本時間午後10時32分。宇宙船アポロ11号が3人の宇宙飛行士をのせてフロリダ州ケネディ宇宙センターがとびたち、日本時間7月21日 午前11時17分、アームストロング船長が人類絵ではじめて月面を歩いた。

”This is one small step for a man, but a great leap for mankind.”

このアームストロング船長の言葉を、
「これは一人の人間にとっては小さな一歩ですが、人類にとっては大きな飛躍です」と同時通訳者が訳し、人々はそれに感動した。同時通訳というもの耳にして、一般の人たちは、驚いた。その同時通訳として活躍する男性陣のなかに、23歳の鳥飼さんが一緒にいたのだ。すご~~~い。その度胸がすごい!!

 

1969年7月。私はまだ、ゼロ歳。世の中が月面着陸に盛り上がったということは、リアルタイムではまったく知らないけれど、そのころから同時通訳というものが日本でも一般的に知られるようになったらしい。

その時代、女性が働く環境は、決して易しくはなかった。鳥飼さんは、結婚しても鳥飼として仕事をつづけた。子供が生まれれば、子供をつれて現場にいきながら仕事をつづけた。ほんと、すごいなぁ。それをサポートしてくれる人たちがいたということ。やっぱり、頑張っている人には、ちゃんと支えてくれる人も現れる。

 

なかなか、楽しい本だった。よくできている。

 

本書を読んで、同時通訳という仕事に興味を持って、英語を勉強しようと思う子供もいるのではないかと思う。

 

私は、たまたま脱サラした時に続けていた英語の先生に、「同時通訳めざしたら?」と言われて勉強を始めただけで、通訳になろうなんて思ったこともなかった。でも、実際、通訳として仕事をすると、サラリーマン時代には経験できなかった色々な事も経験できて、楽しくなってきた。ほんとに、自分がいかに小さな世界で生きてきたかを思い知らされた。

 

通訳は、英語が出来ればよいわけではない。鳥飼さんの声の質も、通訳者に向いていると思う。イヤホンで聞き続ける声が、聴き取りにくい声では、だめなのだ。それは、英語も、日本語も。通訳の訓練は、発声の訓練でもある。日本語の訓練でもある。そして、私のように、帰国子女でもなく、大人になって本格的に英語を勉強するなら、やっぱり、シャドーイングにつきると思う。

 

私は今年、TOEICのリスニングは、2回満点を取ることができた。これは、シャドーイング訓練のおかげだと思う。通訳としては、聞こえるだけではだめで、即座に日本語が出てこないといけない。頭で理解していても、口から言葉として発声するのは、また少しタイムラグができる。それをいかに素早く回転させるか、、、、。ひたすら訓練なのだ。


まだまだ、課題の多い私だけれど、この本をよんで、やっぱりもうちょっと通訳者として頑張ってみよう、という気になった。

 

なかなか、面白い一冊。ふと手にしただけだけど、私にとっては、当たり!の一冊だった。
気になったら読んでみるっていうのも、大事!