『武器よさらば(上)』 by アーネスト・ヘミングウェイ

武器よさらば(上)
アーネスト・ヘミングウェイ
金原瑞人 訳
光文社古典新訳
2007年8月20日 初版第1刷
2016年12月25日 2刷
Title: A FAREWELL TO ARMS (1929)
 

ティム・オブライエン『戦争に行った父から、愛する息子たちへ』を読んで、本書ヘミングウェイの『武器よさらば』が何度も引用されていたので気になった。

megureca.hatenablog.com

 

オブライエンは、『戦争に行った父から、愛する息子たちへ』のなかで、ベトナム戦争の前線を経験した自分と、赤十字軍で前線で敵と対峙することのなかったヘミングウェイとでは、戦争のとらえ方そのものが違う、ということを書いていた。
 『武器よさらば』は、読んだことがなかったので、気になった。図書館で借りてみた。1929年の作品なので、当然、たくさんの出版社から出版されているのだろうが、あえて、ここは光文社古典新訳文庫を選択。やっぱり、読みやすいから・・・・。

そう分厚い本ではないけれど、上下に分かれている。

 

本の裏の説明には
” 第1次世界大戦の北イタリア戦線。 負傷兵運搬の任務に志願したアメリカの青年フレデリック・ヘンリーは看護婦のキャサリン・バークと出会う。初めは遊びのつもりだったフレデリック。しかし 負傷して送られた病院で彼女と再会。 2人は次第に深く愛し合っていくのだった・・・・・。”

 

感想。
およよ。これは、恋愛小説なのか?戦争小説なのか?
武器よさらば、というタイトルの意味は、結末までよまないとわからないのかな、、、と思いながら、(上)を読んだ。 
でも、オブライエンがいうように、これは戦争中の物語であって、戦争が主題ではない、、、かな?

 

以下、ネタバレあり。

 舞台は 第一次世界大戦中のイタリア軍オーストリア軍がせめぎ合っている国境近く。主人公のフレデリック ・ヘンリーはアメリカ人。だけど 志願してイタリア戦線に来ている。 正規の兵士ではなく、 任務は傷兵運搬車数台を指揮すること。 イタリア軍の中では「中尉」扱いになっている。つまり、部下を持った立場。

舞台がイタリアとオーストリアの国境付近なので、そのあたりの小さな町の名前がたくさん出てくる。 フレデリックが キャサリンと出会ったのが ゴリツィアという町。現在はスロベニアとの国境にあたるヴェネト州の街だ。ワインの勉強では、コッリオ・ゴリツィアーノ地区として、甘口ワインの街として学んだ記憶が・・・。小説の中では、どこの土地に行ってもワインやブランデーが頻繁にでてくる。戦線で、病院で、、、飲まないとやってられない、、ってことなんだろう。ゴリツィアの街では、雪降る街中で、アスティ・スプマンテの瓶を囲んで、兵士と神父が一緒に食事をしている場面が出てくる。アスティ・スプマンテは甘口の微発泡酒。しかめっつらで飲むようなお酒ではない。ようするに、前線を離れているときは、兵士であっても普通に食事やワインを楽しむことを歓びにしていた、ということなんだろう。

小説は、雪の季節に始まり、春に移行していく。

 

”前線に戻ってきた。部隊は同じ町にいた。あたりに大砲が増えている。もう春だ。畑は緑で、ぶどうの小さな若芽がふき、道路沿いの木々にも小さな葉がついていて、海からのそよ風が吹いている。街の向こうに丘がみえ、その上に黒い城が見える。城は丘がくぼんだあたりに立っていて、彼方には山が連なっている。。。。 ”

 

と、普通に美しい季節、景色の描写。あぁ、ヘミングウェイの世界だなぁ、、という感じ。

フレデリックは、同僚のリナルディ中尉と部屋を共有している。リナルディ中尉は、フレデリックと同い年で、アマルフィの出身。二人は仲が良く、つるんで街に飲みに出かけたり、女の子をひっかけに行ったりする。そして、負傷兵を運んでいくさきの病院で、可愛い女の子をみつけて会いに行くようになる。それがキャサリン・バークリーとの出会いだった。

フレデリックとキャサリンのなかがうまくいくように、リナルディも応援する。とはいえ、フレデリックは、遊び相手の女がいればよくて、とくにキャサリンにぞっこん、、、というわけではなかった。優しい言葉で口説いてみたり、拒まれることを愉しんだり。キャサリンも、兵隊の一時の恋愛ごっこだろうとおもいつつ、フレデリックとの時間を愉しむようになる。キャサリンにあいに病院にかようフレデリック。仕事の隙間時間、二人の時間をたのしむのだった。戦争が終わったら、一緒にどこかを旅しよう、なんて話を愉しむ。

 

フレデリックアメリカ国籍なら、キャサリンはイギリス国籍だった。二人とも、遠い国からわざわざ戦争の現場までやってきているのだ・・。そのあたりに、どういう深い意味があるのかは私にはわからない。ただ、他にも登場人物としてキャサリンの同僚看護士にスコットランド出身のヘレンがでてきたり、兵士にも他国からの人もいるようで、当時の戦争は、参加したければ他国からでも参加可能だった、、、ということだろうか。そのあたりは、イタリアという国の特性があるのかもしれない。イタリアの独裁者ムッソリーニは、イタリアのために尽くす人ならだれでもイタリア人、という方針をとったことで知られているが、第一次世界大戦の時点でも、すでにそういう方針だったのかもしれない。

と、キャサリンとイチャイチャしてばかりいられないフレデリック。仕事で、部下のマネーラ、パッシーニ、ガヴィッツ、ゴルディーニを連れて、負傷兵運搬のために前線に行く。
そこで、フレデリックの隊は、トマトパスタで食事をとっている最中に迫撃砲の直撃をくらう。さっきまで「戦争が終わったら、家に帰れるのに」といっていたパッシーニは、フレデリックが振り返ったときには脚を吹き飛ばされ、「マンマ・ミーア」と泣き叫びながら死んでいった。フレデリック自身も、膝がしらを失う大けがを負う。歩くことどころか立ち上がることもできなかった。肩を砕かれたゴルディーニ。死んでしまったパッシーニを残して、フレデリックらは、マネーラに抱きかかえられながら撤収する。ゴルディーニとフレデリックを待機場所まで運ぶと、マネーラとガヴィッツは、負傷者を乗せた運搬車を運転していった。待機所ではイギリス兵が、二人に対応して、軍医を呼んできてくれた。軍医は、診察をしながら書類を書き進める。迫撃砲の砲弾の破片が肉片のなかから取り出された。そして、フレデリック野戦病院へ搬送された。

野戦病院に移ったフレデリックは、そこでリナルディの見舞いをうける。リナルディは、これは「勲章」をもらうに値するといいながら、戦況を説明する。リナルディは、他の病院で外科医としても活躍していた。

そして、その野戦病院に看護士としてキャサリンとヘレンが派遣されてくることになる。再び、キャサリンにあうことができたフレデリック

 

(上)の後半はほとんど病院でのキャサリンフレデリックの逢引きの話。フレデリックの膝の手術が成功して、少しずつ外に出かけることができるようになってからは、外でのデート。フレデリックは、リハビリのために半年の休暇を言い渡される。

そして、キャサリンに「子供ができた」と打ち明けらえるフレデリック。キャサリンは、「あなたに迷惑をかけないようにやってみるから」という。フレデリックは、嬉しいともおめでとうとも言わないけれど、キャサリンを責めたりもしない。気まずい空気が二人の間に流れつつも、前線から戻ってきてからの事を話しあうふたり。二人の会話が延々と数ページ続く。深刻な話しではなく、「戦争が終わったらどこに住もうか?」とか、「息子は陸軍大将になるかもしれない」とか。現実逃避のような、現実のような会話が続く。

そして、リハビリ休暇を言い渡されたフレデリックだったが、その後黄疸を発症する。その原因が病院に持ち込んで飲んでいたブランデーやらワインであることが頑固な看護士にばれると、休暇は取り消しになってしまい、再び、前線へ戻ることとなる。

前線に戻る前に、ホテルでゆっくりと特別な時間を過ごす二人。ホテルをでると馬車で駅に向かう二人。フレデリックは駅で降り、馬車にキャサリンを病院まで運ぶようにといい二人は別れる。フレデリックは、一人で列車に向かう。
そして、込み合った列車の床で寝て、前線に向かうフレデリックの様子で、(上)は、終了。

まるで、フレデリックとキャサリンのラブストーリー。なんちゃっての恋愛ごっこが、子供ができたことで、戦争よりは子供の方がいいか、と思い始めたかのようなフレデリック

自ら志願して戦争にやってきたフレデリック。キャサリンとの間に子供ができたことで、ちょっと心が揺れているような様子のフレデリック。さて、この先どうなることか。。。、

古い青春恋愛小説を読んでいるような気分になるストーリー。
続きは、また・・・。