『海底二万里(下)』 by ジュール・ヴェルヌ

海底二万里(下)
ジュール・ヴェルヌ
朝比奈美知子 訳
岩波文庫
2007年9月14日 第1刷発行

 

ネモ船長が、海底での一つの社会をつくっていることがわかった上巻。その続き。

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表紙裏の説明には、
”人間社会に対して激しい不信の念を抱くネモ船長とは何者? その目的は? 謎の潜水艦ノーチラス号は、インド洋から地中海、さらに大西洋を南下して南極へ。凍結した海底に閉じ込められ、巨大なタコの大群や暴風雨に遭遇、と波乱万丈の航海は続く。”

 

上巻では、謎の潜水艦ノーチラス号に囚われの身となっていながら、自由にネモ船長と海底の旅を続けるアロナックス教授、コンセーユ、ネッド・ランドの三人。ネッドは、早く陸に帰りたくて仕方がないけれど、そもそも、ノーチラス号の目的が何で、ネモ船長が「ひとたびノーチラス号に乗った者は地上には帰れない」という意味もわからない。なんとか、三人で脱出のチャンスを狙うのだった。アロナックス教授は、陸に戻ってこれまでの海洋観察の数々を論文にして発表したい気持ちもやまやまだが、まだノーチラス号での冒険を続けたい気持ちもある。コンセーユはどこまでもアロナックス教授の仰せの通りに、と。そして、三人にとっては、どこへ向かっているのかは不明のまま、ノーチラス号の旅は続いていくのだった。

 

第二部
第一章 インド洋
第二章 ネモ船長の新たな提案
第三章 1000フランの真珠
第四章 紅海
第五章 アラビアン・トンネル
第六章 ギリシアの島
第七章 地中海を48時間で
第八章 ビゴ湾
第九章 消えた大陸
第十章 海底炭坑
第十一章 サルガッソー海
第十二章 マッコウクジラとクジラ
第十三章 棚氷
第十四章 南極
第十五章 事故かトラブルか
第十六章 空気の欠乏
第十七章 ホーン岬からアマゾンへ
第十八章 タコ
第十九章 メキシコ湾流
第二十章 北緯47度24分、西経17度28分
第二一章 大殺戮
第二二章 ネモ船長の最後のことば
第二三章 結末

 

以下、ネタバレあり。

 

インド洋から大西洋、そして、ノーチラス号は、スエズまでやってくるのだが、当時、まだスエズ運河は未完。建設中で通ることはできなかった。ノーチラス号は、ネモ船長がアラビアン・トンネルと呼ぶ、大陸の下の海を通って、紅海から地中海へぬけるのだった。そして、地中海にでるとギリシャの島々を巡り、海底火山の噴火を見学し、ジブラルタル海峡では、海の上と下とで流れの異なる海流にのって、ポルトガル沖まで航行する。

 

このあたりは、地図を片手に見ていると、地理の勉強になる感じ。そして、海底では、かつて多くの商船、海賊船が沈没したあたりで、ネモ船長は金銀財宝を回収する。そして、それらが、ノーチラス号の潤沢な財源となっていることをアロナックス教授は目の当たりにする。

 

地中海を西に抜けたノーチラス号がヨーロッパの西岸を航行するのなら、脱出してポルトガルなり、フランスなりに上陸のチャンスありとおもっていたネッドだったけれど、ノーチラス号は、南に進路をとった。一体どこへむかうのか、、、、。向かった先は南極だった。南極でノーチラス号は、海底で氷に閉ざされ、全員窒息死の危機に直面する。怪物ノーチラス号の運命もここまでか?!船の上に厚く張った氷を、みんなが交代でツルハシで切り崩そうとする。地道な作業。しかも、酸素の残りが限られている。物理的に氷を砕いても、氷は、再び海の中で他の空間へ移動するだけ。船の酸素はどんどん減る。船外にでて水中作業に出ている間は新鮮な空気をボンベで吸う事ができるので、船での休憩時間より、ツルハシをもって海中で作業しているほうが呼吸が楽なぐらいに船内空気環境は悪化した。そして、ツルハシ作戦だけでなく、船でつくる蒸気で周辺海温をあげることで、ノーチラス号はなんとか危機を脱出。全員、窒息死することなく、なんとか南極の海面に上昇。そして、曇り続きの天気の中、少しだけ顔をだした太陽をみつけ、六分儀をつかって自分たちの位置を確認。南極点達成を確認し合うネモ船長とアロナックス教授だった。前人未踏の南極点到達だった。

 

ちなみに、本当の歴史上、人類初の南極点到達は1911年12月14日。ノルウェーのロアール・アムンセンが到達した。

 

南極点到達を達成したノーチラス号は、今度は北上する針路をとった。南アメリカ大陸の南先端ホーン岬をぬけて、アマゾンへ。そして、彼らは、タコの大群に襲われる。タコは、そのぶよぶよした体と吸盤で、ノーチラス号のエンジンに悪影響を与える。なんとか、タコを追い払わないと、と船外に出て勇敢に戦った船員のひとりは、タコにからめとられ、圧死。みんなで力をあわせてタコを退治して危機をのがれたものの、一人の船員の犠牲は、ネモ船長にとってはあまりにも大きい痛みだった。

 

前回(上巻)、脳挫傷で命を失った船員は、海の底の墓地に埋葬してやることができたが、今回の船員は、お墓に埋葬してやることもできなかったのだ。ネモ船長は、こうした事故が起こると、その悲しみを隠そうともせず、涙にくれるのだった。ネモ船長は、人を憎んでいるわけではない。でも、人間社会の何かを敵視しているのは確かだった。いったい、なにが、、、。

 

そして、ノーチラス号は、メキシコ湾にのって北上を続ける。そこで、航行中の船を沈没させるネモ船長を目撃してしまう三人。海には、多くの死体が漂う。いったい、何の恨みがあって、船を沈めるのか、、、。ネモ船長は、何を敵としているのか?ネモ船長の狙いがわからないまま、やはり、いつまでもノーチラス号にいるわけにはいかないと悟った3人は、ノルウェー沖で、ノーチラス号ごと渦潮に巻き込まれる最中、脱出を試みる。迷っている暇はなかった。とにかく脱出だ!と。


3人をのせたボートは、ノーチラス号から離れた後、どこをどう漂ったのか、どうやって大渦から逃れたのかわからない。でも、気が付いたとき、3人は、ロフォーテン島の漁師の小屋に寝かされていた。脱出に成功したのだった。

 

ノーチラス号がどうなったのかはわからない。ネモ船長の正体もわからない。でも、とにかく自分たちは助かった。アロナックス教授は、この驚くべき海底の世界一周について語ろうと決意する。そして、ノーチラス号の無事と、ネモ船長の心の安らぎを祈るのだった。

 

”わたしは、そう期待している。そして、彼の強力な船がこのうえなく怖ろしい深淵の中で海に打ち勝ったことを、たくさんの船が滅んだあの場所でノーチラス号が生き残ったことを望んでいる!もしそうだとしたら、もしネモ船長が彼の第二の祖国であるこの大洋にまだすんでいるのだとしたら、どうか、彼の猛々しい心の憎しみが静まるように!あれほどの驚異を見ることで彼の裡なる復讐心が消えるように!彼が裁断者としてでなく、学者として平穏な海の探検を続けるように!”
と。

 

海底二万里を旅した三人の旅は終わる。でも、ネモ船長の運命は不明のまま、、、。という形でお話は終わる。

 

う~~ん。あっけない終わりと言えば、あっけない終わり。大虐殺のシーンはおどろおどろしい。

 

ネモ船長は、謎の人。ラテン語で「だれでもない」という意味のネモ。暗い影をもった男というのが、ネモ船長のキャラだったのだ。そして、そのキャラは、『熱帯』のなかでも謎の男であり、主人公でもある。なるほど。。アナロジーのアナロジー

 

お魚好きには、様々な魚の分類学が楽しい一冊かもしれない。クジラの分類、サメの分類。。。楽しいというよりは、ふ~~む、なるほどぉ!という感じだった。海の生物をつかったお料理も、それなりに美味しそう。新鮮な空気が吸えるなら、私もノーチラス号で、世界の海底を旅してみたい。。。っておもっちゃう。博物館も図書館もあって、窓からは海の景色が見放題。ちょっと、そそられる。

 

トムソーヤの冒険のような、ワクワク楽しい物語かと思ったら、だいぶ違った。ネモ船長の言葉には、時々、社会批判のようなものもかくれている。ネモ船長の部屋に飾られた肖像画は、人類の偉大な理想に生涯をかけた歴史上の偉人たち。そのあたりの表現は、歴史の勉強にもなる。なかなか、渋い。

 

もしかしたら、子供の時に読んで、理解できなかったのかもしれない。なかなか、興味深い一冊だった。

やっぱり、100年以上読み継がれる本というのは、中身が濃い。