『熱帯』 by 森見登美彦

熱帯
森見登美彦
文藝春秋
2018年11月15日 第一刷発行
2018年12月15日 第二刷発行

 

先日、サラリーマン時代の同僚や先輩と久しぶりに会食をした。その時、読書の話題になり、一人が『熱帯』を「すっごい変、とにかくめちゃくちゃ。だけど、すっげー面白い」といっていたので、気になった。彼は私の元上司で、一緒に仕事をしたのはかれこれ15年くらい昔。既に還暦も越えているけれど、現役バリバリで仕事をしていて、遊びもバリバリに楽しむタイプ。二人でディスカッションしているとどんどん話しがふくらみ、まさに、企画&戦略のアイディア合戦のような仕事ができて、とても楽しい上司だった。その彼が、「面白い」というのだから、きっと面白い!どんな本なのかときいても、とにかくめちゃくちゃな内容なんだ、、と。これは、読まねば!

 

図書館で「森見登美彦」を検索すると、たくさんの本がでてきた。まずは、彼のお薦めだった『熱帯』を借りてみた。

 

著者の森見さんは、1979年奈良県生まれ。京都大学農学部卒。同大学院農学研究科修士課程終了。2003年『太陽の塔』で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。著書多数。

 

私は、森見さんの本は、多分これが初めて。デビューされた2003年には私は日本にいなかったので、日本の情報が色々と抜け落ちているのだ。でも、今回、読んでみてよかった。そうか、こんな複雑怪奇な物語を書く人がいたのか。これは、面白いって感じ。

 

表紙をめくると、
「あらゆることが『熱帯』に関係している。この世界のすべてが伏線なんです」と、本文からの抜粋。
厚さ、3cm以上ある単行本。

 

感想。
読み応えたっぷり。読みだしたら止まらない。
ほんと、なんだこれは!!!面白い!めちゃくちゃだけれど、面白い。
どうめちゃくちゃかって、お話がマトリョーシカなのだ。会話から会話へ、物語から物語へ、どんどん語っているうちに、どんどん迷宮のように話しが奥へ奥へと、、、。夢の話をしていたかと思えば、現実にもどったり、今の話かと思えば過去の話だったり、、、。読みながら、「これは、大人の『不思議の国のアリス』だな」っておもっていたら、本文中に「不思議の国のアリスのように」、、、という表現がでてきた。やったね!だとおもったよ!って感じ。読み終わって、いったい何冊の本を読んだんだろう?!とおもうくらい、話しが多岐に及ぶ。でも、最後に眠りから覚めましたって話ではない。ぐるっと回って、あれ?振出しに戻った??なんて感じ。

これは、ネタバレアリで要約するには大変すぎる。とても一言では覚書できない・・・。

でも、以下ちょっとネタバレあり。

 

物語の中に既存の物語が出てくるので、それらの本を読んだことがあるかどうかで、本書の深みは大きく変わってくると思われる。

 

中心となるのは、『熱帯』という一冊の謎の本。最初に物語をかたりだす「私」は、執筆がなかなか進まずに悶々としている「森見」なのだ。うん?著者の私小説?!いやいや、そんなものではない。モリミンこと森見が学生時代にであった不思議な本『熱帯』について友人に語るシーンから、『熱帯』にまつわる物語に移行していく。

モリミンが学生時代に読んでいた『熱帯』は、ある日読みかけのまま寝てしまい、起きた時には忽然と消えていた・・・。そして、そんな不思議な『熱帯』を途中まで読んだ人があつまる謎の読書会が存在した。集まった5人に共通しているのは、『熱帯』を読んだことがあるけれど、最後まで読んだことが無い、ということ。『熱帯』は、最後まで読み終わる前に、姿を消してしまう不思議な本なのだ。そして、『熱帯』の結末をしりたい参加者は、それぞれに記憶のなかのストーリーを持ち寄るのだ。まるで、『千一夜物語』のように、物語が物語をよんで、、、。時空を超えて、つながり、気が付けば、夢か現か・・・・。

 

まぁ、話しがマトリョーシカなので、とても説明しきれないのだけれど、『熱帯』と共に話しの軸となるのが千一夜物語。特定の作者はいないと言われるこの『千一夜物語』が、『熱帯』の物語のキーとなる。

 

本書から、『千一夜物語』の紹介を抜粋すると、
”『千一夜物語』は、次のように始まる。
その昔、ペルシアにシャハリヤールという王様がいた。あるきっかけで妻の不貞をしった王様はエゲツナイ女性不信に陥り、夜ごと一人の処女を連れてきては純潔を奪い、翌朝にはその首を刎ねるようになった。そんな怖ろしい所業を見かねて立ち上がったのが大臣の娘シャハラザードである。彼女は父親の反対を押し切って自ら王のもとに侍り、不思議な物語を語り始める。しかし夜が明けるとシャハラザードは物語を途中で止めてしまうので、その続きが知りたいシャハリヤール王は彼女の首を刎ねることができない。このようにして、シャハラザードは夜ごとの命をつなぎ、我が身と国民を救おうというのである。”

 

千一夜物語』こそ、物語のマトリョーシカなのだ。そして、本書『熱帯』も千夜一夜も登場しつつの物語のマトリョーシカ。登場人物も比較的多いのだけれど、キーとなる人物の一人は、本書の中で『熱帯』の作者となっている、佐山尚一。本書『熱帯』のなかに佐山の書いた『熱帯』の話が織り込まれている。

 

本書『熱帯』の出だしでモリミンは、執筆が進まず、
悲観的になると私は宇宙的立脚点から〆切の存在意義を否定しがちである。”とぐずぐずいいながら、傍らの妻に『千一夜物語』とはどんな話?と聞かれて、答えに窮しながらも、頭の中で様々な物語が再生されていく。読んでいると、あれ?モリミンのはなし?いや、話し手がバトンタッチしたはず、、、、と。

 

本書のなかでくり返しでてきて、内容を知っている方がずっと楽しめそうなのは、次のようなものがたりたち。

・『千一夜物語
・『ロビンソン・クルーソーダニエル・デフォー
・『宝島』スティーヴンソン
・『夜の翼』ロバート・シルヴァーバーグ
・『海底2万海里』ジュール・ヴェルヌ
・『神秘の島ジュール・ヴェルヌ
・『黒死館殺人事件小栗虫太郎
・『不思議の国のアリス
・『山月記

 

これらの本にでてくる登場人物や、そのセリフ、エピソードなどもろもろが織り交ぜられているのだ。出典をよく知っていれば、本書の面白さが俄然高まるだろう。佐山は、無人島にたどり着いて、夜には虎に変身してしまう。。。『山月記』のもじり。。。

知らなくてもおもしろいには面白いのだけれど、やっぱり、よく知らないものは気になる。ノーチラス号ネモ君といっても、私にはすぐにはわからなかった。『海底2万海里』にでてくる船や人物の名前。子供の時に漫画でよんだかもしれないけれど、よく覚えていない。
黒死館殺人事件』は、他でも度々引用されることがあり、やっぱりいつかは読んでみるか・・・。『ロビンソン・クルーソー』や『宝島』も、読んだのは昔過ぎてよく覚えていない。

 

また、謎の事件が起こる舞台として京都がでてきたり、比喩として「五山」がでてきたりするので、京都にいきたくなったり。

 

まぁ、最後まで読んでも、まだ夢の中にいるような、、、そんなむちゃくちゃなお話。でも面白かった。、森見さんの本、他も読んでみたいと思った。『千一夜物語』もいつか読んでみたいけど、、、老後の楽しみ、、か?!

 

まずは、『海底2万海里』が気になる。。。

読書が読書を呼ぶ。

本の連鎖は楽しい。