『海底二万里(上)』 by ジュール・ヴェルヌ

海底二万里(上)
ジュール・ヴェルヌ
朝比奈美知子 訳
岩波文庫
2007年8月17日第1刷発行

 

森見登美彦さんの『熱帯』出てきた、『海底二万里』。

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『熱帯』の中では、ノーチラス号、ネモ船長をネタにしたキャラクターが出てきた。出典がわからなくても、楽しく読むことができたのだけれど、ネモ船長のキャラクターがわかれば、もっと面白いかと思って、本書を図書館で借りて読んでみた。

 

どの話なのか、ほとんど知らずに読み始めたのだけれど、読み始めてわかったのは、これは海の冒険物語であり、かつ海の生物の辞典のような1冊。なるほど子供の学習本として人気があったわけだ。私自身は読んだ記憶はないけれど。

 

著者のジュール・ヴェルヌは、1828年生まれ、数々の冒険小説を書いている。本作も含めて、《驚異の旅》と言うシリーズ名の下に書かれた本。『地底旅行』、『80日間世界一周』などなど。本書の続編としての性質を持つのが『神秘の島』。これらもいつか読んでみようと思う。子供のころ読んだとしても、記憶にない。

上下2冊の文庫本。これまでにもたくさんの出版社からたくさんの訳本が出ていると思われるが、今回は比較的新しめの岩波文庫、朝比奈さんの訳本で読んでみた。

 

本の表紙裏の説明には
”その年、いくつもの船が海で何か巨大なものに出くわしていた。それは長い紡錘形の物体で、時に燐光を発し、クジラよりもずっと大きく、ずっと速かった。アメリカ海軍から依頼され、追跡に加わった。アロナックス氏はついにその怪物に遭遇した。”
とある。

 

感想。
面白いけど、結構難しい。
難しいというか、生物図鑑と地図を片手に読みたくなる感じ。そして、子供時代に、この本を読んだら、世界一周してみたくなったり、生物学に興味を持ったりするのかもしれないと思った。あるいは言葉も何か国語も話せた方が楽しいと思ったりするかもしれない。
そして、ワクワクドキドキ、楽しい!という感じではないのが、ちょっと難しく思わせる理由の一つかもしれない。うふふ、と笑ってしまうようなシーンはあまりない。どちらかというとシリアス。なぜなら、ネモ船長自身が謎の人物だから。そして、海底の冒険シーンの描写は、真面目にうわ~!すごい~!本当にこんな冒険ができるならしてみたい!と思わせる。また、怖くてそんなことできないよ、って思ったり。

お話自体は読みやすく展開もわかりやすい。ただ、出てくる場所が地図で確認できると、なお楽しい。でてくる地名は、地図(紙の本)でみてわかるくらい有名な地名から、聞いたことのないものまで。知らない地名は、Googleマップでしらべてみたけれど、中には出てこないものも。名称が変わったケース、架空の地名のケース、両方あるのかもしれない。

 

目次
第一部
第一章 逃げる岩礁
第二章 賛否両論
第三章 旦那様のお気に召すまま
第四章 ネッド・ランド
第五章 行き当たりばったり!
第六章 全速力で
第七章 新種のクジラ
第八章 動中動あり
第九章 ネッド・ランドの怒り
第十章 海の男
第十一章 ノーチラス号
第十二章 すべて電気仕掛け
第十三章 いくつかの数字
第十四章 黒潮
第十五章 招待状
第十六章 平原の散歩
第十七章 海底の森
第十八章 大平洋海底での4000里
第十九章 ヴェニコロ
第二十章 トレス海峡
第二一章 陸地での数日
第二二章 ネモ船長の雷
第二三章 不快な眠り
第二四章 サンゴの王国


上巻が第1部。397ページの文庫本。目次を見直せば、お話の流れを簡単に振り返ることができる。

 

以下、ネタバレあり。

 

はじまりは、第1章 逃げる岩礁。舞台は、1866年の世界。ちなみに、本書が書かれたのは、1869年~1870年にかけて。ヴェルヌが40代前半の作品。

 

1866年、世界のあちこちの海で多くの船が謎の巨大物体と出くわした。多くの目撃情報があったが、物体は謎のままだった。そして、1867年、北緯27度30分、西経72度15分でカナダから乗客237名をのせたモラヴィアン号が、その謎の物体とぶつかり大損傷をうける。無事に帰港したものの、大事故だった。続いて、イギリスのスコティア号も西経15度12分、北緯45度37分で、巨大物体とぶつかり浸水事故を起こす。港にもどったスコティア号の船底を調べると、二等辺三角形の規則正しい穴が開いていることが判明した。厚さ4センチの鋼板に穴をあけられたのだ。

そしてその後も、理由のわからない海難事故が続き、すべては怪物のせいとされた。

そして、アメリカは、怪物退治に乗り出す。ファラガット船長は、高速フリゲートエイブラハム・リンカーン号で遠征の準備を始めた。そして、その船に招待されたのが、この怪物を「巨大なイッカクだろう」という仮説を立てた、パリ博物館教授・アロナックス教授だった。アロナックス教授は、フランドル人召使・コンセーユを伴って船に乗る。そこには、銛打ちの王者・カナダ人のネッド・ランドも乗っていた。

エイブラハム・リンカーン号は、しばらくは怪物に出会うこともなく、ひたすら怪物を探す航海をつづける。そもそも、怪物の居場所は特定の範囲ではなく、地球全体だといううのに、居場所の手がかりもないのだ。そして、もうそろそろ港を戻ろうかとしていた矢先に、怪物に遭遇する。14ノットで走るフリゲート船より高速で船の周りを回ったり、自由に走る怪物は、この世の生き物とは思えなかった。リンカーン号と怪物のすさまじい競争は続いた。どんなに速度をあげても、怪物はリンカーン号を追い越しては突進してくる。夜になり、一度は静まった海だった。しかし、午後10時50分、再び怪物がリンカーン号の前に現れる。そして、ネッド・ランドが銛を放った。しかし、怪物は、打たれた銛をもろともせずにはね返し、リンカーン号は巨大な水柱に襲われた。人々はひっくり返り、固定ロープは引きちぎられ、怖ろしい衝撃がおこった。
そして、アロナックス教授、コンセーユ、ネッド・ランドは、海に投げ出され、漂流してしまう。

 

気を失っていたアロナックス教授が気が付いたときには、例の巨大イッカクの上にいた。コンセーユとネッド・ランドも一緒だった。でも、それは、巨大イッカクではなかったのだ。

それこそ、謎の怪物、ノーチラス号だったのだ。

 

3人は、謎の怪物の上にいたところを、船の内部から現れた男たちに捕えられる。そして、これまでの経緯を説明しようとするのだが、フランス語、ドイツ語、ラテン語、英語、何語をはなしても彼らには通じないのだった。

最初は、檻のような部屋に閉じ込められた3人だったが、食事はきちんと提供された。そして、或る時、ネモ船長が登場。ネモ船長は、いずれの言葉も理解する、普通の人間だった。どうやら、地球外生物でもなければ、海底人でもない。普通に人間だった。
そして、船の秘密を守らなければいけないときには、檻部屋に居ることを前提に、3人は船の中での自由を与えられる。

 

こうして、ノーチラス号での旅が始まる。ノーチラス号は、驚くべき科学の力(海水のナトリウムを利用)で発電し、水も食事も十分に豊かな生活ができた。空気だけは、数日に一度は海面にでて換気の必要があったが、それ以外は、海底奥深くまで潜ることもできた。温度も快適、食事も衣服もすべて海からの自然の恵みでできていたが快適だった。

 

そして、日本近海から、インド洋、太平洋、と3人には目的のわからないままノーチラス号の旅は続く。船には、貴重な海洋生物の博物館、すばらし蔵書の図書館も備えられ、アロナックス教授はノーチラス号での旅を愉しむ様になっていく。そして、どこまでも教授に柔順なコンセーユもまた、常に冷静沈着に、教授と共にたのしむのだった。生物分類に詳しいコンセーユは、船の窓から観察できる海中の生物たちを、分類して楽しむのだった。本書にでてくる生物の名前を並べたら、図鑑になりそうなくらい、さまざまな生物の名前がコンセーユの口からでてくる。一方で、銛打ち王者のネッドは、お酒もなければ、お肉も食べられない船の生活を早く脱出したいと願い続ける。三人は時にはネモ船長に誘われ、特殊スーツを着て海底散歩を楽しみ、時には誰もいない秘密の陸に上陸して狩りをたのしみ、ノーチラス号の旅は続く。ただ、かれら3人が檻部屋に閉じ込められている間には、なにかが起きていたらしい。或る時、ネモ船長が檻部屋にいたアロナックス教授に、ケガをした船員の治療を頼む。船員のけがは脳が見えるほどの重傷で、助けることはできなかった。そして、アロナックス教授は、海底で船員の埋葬が行われる現場も目撃することとなる。

 

一体、なにが起きて船員が瀕死の重体となったのかはわからないままだった。でも、ネモ船長は、現代社会(陸上生活)にもどる気はなく、海底で独自の独立した生活をしている人物だったということがわかることで、(上)は、おしまい。

 

ネモ船長の謎は深まる。 

 

そして、ノーチラス号の旅は続く、、、。

 

なんだ、なんだ??って感じ。続きは、(下)で。。。