『石橋湛山評論集』 by 松尾尊兊編

石橋湛山評論集
松尾尊兊編
岩波文庫
1984年8月16日 第1刷発行
2023年9月25日 第43刷発行

 

とある勉強会での課題本になったので、読んでみた。石橋湛山のことは、この機会がなければ、一生知らないままだったろう、と思う。でも、どうやら最近、世間で湛山ブームが起きているらしい。

 

2023年12月7日には日経新聞で「石橋湛山現代日本、2023年12月10日には朝日新聞で「対立より功利を、湛山が掲げた旗」という記事が掲載されている。どちらも、日本のあるべき姿とは、ということを論じている。
奇しくも、今年が湛山没後50年とのこと。勉強会で昔から話題になることは度々あったものの、この2023年の年末に本書を取り上げて懇話しあえたのは、すごい偶然。このタイミングだったからこそ、新聞で取り上げられたことにも気づけたと思う。

 

石橋湛山は、戦後7人目の首相を務めた人。でも、病気で倒れ、たったの2か月で辞任した人なのだ。では、なぜそのような人が、こんなに話題になるのか。それは、政治家としての業績だけでなく、それ以前のジャーナリストとしての活躍があったから。一貫して戦争を反対し続け、自由主義や合理主義を唱え続けた。勉強会では、本書の中でもとくに東洋経済新聞社時代の社説大日本主義の幻想」を中心に湛山の思想について、語り合った。でも、評論集となっている本書に掲載されているテーマは様々で、女性の社会的地位について、植民地化しようする愚かさについて、貿易について、などなど、いったい、この人は何の専門家なのか?!と驚く。そして、どの評論も、単なる感情や推論でかいているのではなく、具体的事例、数字をもって語っているので、説得力がある。そう、説得力がありすぎて、GHQからにらまれ、一時は公職追放というめにもあっている。

 

本書は、時代区分にわけて、湛山の評論が並んでいるので、歴史をなぞっているような感じもある。

目次
Ⅰ 急進的自由主義者の出発 (1912~1913)
Ⅱ 大正デモクラシーの陣頭で (1914~1923)
Ⅲ 政党政治への提言 (1924~1931)
Ⅳ 戦時下の抵抗 (1931~1945)
Ⅴ 戦後日本の進路 (1945~1968)
解説:松尾尊兊

 

途中まで読んで、一体この人は何者なんだ?!?!となって、先に最後の解説を読んでみた。石橋湛山の生涯についても解説されている。

このブレない、力強い、それでいて読みやすい文章。ジャーナリストだからこそかもしれないけれど、今でいうと誰みたいか、、、と頭を巡らしてもスッとは誰の顔も浮かばない。歴史的人物で似ていると思えるのは、高橋是清か。高橋是清は2.26事件で暗殺されてしまったけれど、それまでの活躍は、ちょっと石橋湛山と印象がかぶる。データに基づく鋭い洞察、そして実行力

 

う~~ん、こんなに腹の座った人、、、思い浮かばない、、、って感じ。
もちろん、既に故人であるし、多少自分の中で美化しているかもしれないけれど、正論をバンバン書きまくる感じ、尊敬してしまう。正論過ぎて、嫌われる面もあったのだろう。敵もいたのだろう。だから、GHQからにらまれたりもしているし。

 

でも、女性ももっと社会に出るべきだし、権利は男性となんらかわらないはずだ、とか、「白蓮婦人」の新聞ネタについて、当事者の夫(嫁に不倫された夫)のことも考えてみれば、そう、書き立てるのはいかがなものか、といった論調。関東大震災の後の、朝鮮人に対する根拠なき噂への憤り、どれをとっても、ごもっとも!!と拍手喝采したくなる感じなのだ。

 

でも、読んでいて、だんだんつらい気持ちになってきた・・・。
なぜならば、こうまで、どうどうと新聞の社説に意見していても、世間は戦争へ流れ、人のゴシップで盛り上がり、、、、大陸進出を後押ししたわけだ・・・。

 

時代の流れは、怖い・・・・。空気か・・・・。

 

石山湛山が、こうして自分の中での確固たる信念を後年まで発信しつづけた、その胆力は、日蓮宗のトップに上り詰めた父・杉田湛誓、そして、「自分の子は自分で厳しく育てるのは難しい」といって父が湛山を託した養父・望月日謙の影響が大きかったようだ。かつ、湛山は、クラーク博士に学んだ大島正健を尋常中学校での恩師としたことから、キリスト教にも理解があった。

やはり、宗教に裏付けされる強さって、否めない気がする。

 

この時代、正論を主張しつづければ、暗殺されるということも十分あり得た時代。高橋是清は、暗殺されてしまった・・・。今の常識で考えれば、正当化できる暗殺なんてあるわけがない。でも、当時は、時代が違った。そんな中でも、発信し続ける強さって、すごいことだと思う。

 

湛山は、第一次吉田内閣で、大蔵大臣として入閣している。吉田茂とは、経済を優先させること、武装は削減していくことで一致していた。そして、石橋財政をおしすすめるのだが、GHQのいうことをきかないので、GHQににらまれて、公職追放となってしまう。実は、吉田がだんだん湛山を疎ましく思うようになって、GHQに売った、っていう話もあるらしい。

 

1956年に、自民党総選挙で首相となるが、過労がたたって、脳血栓でたおれてしまう。執務執行ができないからには、とさっと辞任してしまうあたり。清廉潔癖というのか、すごい。

 

本書は、湛山の評論だけをまとめたものなので、その時の世間の動向を理解していないと、「世間と同調」の意見だったのか、「世論を否定する」意見だったのかが、わかりにくい。湛山に関する本は他にも、増田弘、姜克実の著書が紹介された。いつか、他も読んでみたいな、と思う。

 

湛山がとなえた「小日本主義」は、小さくまとまれ、って話ではない。ただやみくもに大陸に植民地をつくって身の丈に合わない大日本を目指すのではなく、日本国内で成長すべきことがまだまだある、ということ。中でも戦後とかわっていないのが、「女性活躍」かもしれない。

 

「国民として生きる前に、人として生きねばならぬ」、と。

「人は人して生きるためのみに存在する」、と。

「国家、宗教、哲学、文芸、それらが人が人として生きるのに反するならば、我々はそれを変革せねばならない」、と。

 

どのページにも、すごい言葉が並ぶので、抜粋のしようがない、、、という感じ。活字が小さくて、文字はちょっと読みづらいけれど、中身は読みやすい。文章が上手なんだなぁ。

 

こんな日本人がいたんだ、ってちょっと誇らしく思える一冊。同時代に生きた、菊池寛とはまた違うジャーナリストとしての人生。人格者なのは、石橋湛山のように思うけれど、一般人への知名度菊池寛のほうが高いのではなかろうか。やっぱり、メディアの影響って大きい。

 

megureca.hatenablog.com

 

う~~ん、岩波文庫。やっぱり、買う価値あるな、って思う。 

 

読書は、楽しい。