世界地図の中で考える
高坂正尭
新潮選書
2016年5月25日 発行
2017年2月5日 2刷
*本書は、1968年9月に刊行された新潮選書『世界地図の中で考える』と同内容です。
先日、タスマニアに旅行した。ワインを求めての旅だった。
でも、行く前に、ワイン以外にもタスマニアの事を少し知ってから行きたいな、と思って、探した本だった。最初は図書館で検索してみたんだけれど、 ほとんど何も出てこない。 もう、出発は明後日だし、、、と思って、丸善に行った。丸善の蔵書検索で、「タスマニア」と入れたら、でてくるでてくる、たくさんの本が出てきた。だがしかし、、、、ほとんど「へんな動物」とか、生き物の本ばかり。。。。オーストラリアですから、固有種が多い。タスマニアデビルとか、ね。
で、それでも、きっとな何かあるだろうと思って、延々とリストをスクロールしていると、本書がでてきた。ン?冒険の本かな?と思って、実際の棚を探してみた。新潮選書である。ただの冒険物語ではなかった。
タスマニアをキーワードでたどり着いた本だけど、すごい本だった。これは、、、1968年の本なのか?!?!まさに、今の世界を見ているかのような、、、、。よく見ると、本の帯や表紙の説明にも膨大な言葉が・・・・。
著者の高坂正尭(こうさかまさたか)さんは、1934年、京都府生まれ。 国際政治学者。 京都大学法学部卒。 1963年に発表した『現実主義者の平和論』で当時の論壇にを多大な衝撃を与える。1971年 京都大学教授に就任。 平和・安全保障研究 理事長、ロンドン国際戦略研究所理事等を歴任。 著書に『海洋国家日本の構想』『宰相吉田茂』『 古典外交の成熟と崩壊』(吉野作造賞)『 文明が衰亡するとき』『 世界史の中から考える』『現代史の中で考える』など。 1996年没。
う~~ん、知らなかった。たぶん、初めて読んだ。う~~ん、でも、名前は見たことある気がする、、、、。
佐藤優さんの本に出てきていた。
そうか、、、やはり、すごい政治学者の方だったんだ。タスマニア冒険物語ではなかった!!
本の帯には、
”稀代の国際政治学者が若き日に綴った洞察に満ちた文明論。
半世紀前になされた未来予測の的確さを検証してほしい。 藻谷浩介さん 推薦(日本総合研究調査部主席研究員)”
藻谷浩介さんが、毎日新聞(2016年7月17日)に掲載したというコメントがある。
”是非 本書を手に取り、半世紀前になされた未来予測の的確さを検証してほしい。著者はタスマニアの山火事に自然改造の限界を見、二酸化炭素の増加や長寿命化が未来に及ぼす影響を推測する。 インドネシアの共産ゲリラの蹉跌からイスラム教を知ることの重要性を導き、米国の力の源泉は「技術」ではなく「経営」にあるのだと喝破する。「コミュニケーションの分野において社会はますますひとつになる」とコンピューターの黎明期にあって 見通しつつ、「 20世紀の末は、闇と光に二分された明快な世界像を狂信する時代になるかもしれない」と懸念している。 今を生きる我々は、半世紀後の地球についてここまで本質をついた予測を成し得ているだろうか。”
裏の説明には、
”なぜ人間は悪徳を取り込む必要があるのか?
「悪」を取り込み 人間社会は強くなる。タスマニア人の悲劇から得た、洞察と真意とは。なぜイギリスは広大なインドを容易に征服する一方で、その統治には失敗したのか。なぜアメリカは物量でドイツや ソ連を圧倒でき、それにもかかわらずベトナムで敗北したのか。 狂信的な「原理主義」と暗い「懐疑主義」がはびこる世界を、したたかに生き抜くための珠玉の文明論。”とある。
本屋さんで見つけた時から、 ただものではない本かもしれない、とおもって買ったのだが、ほんとに、ただものではなかった・・・・。
タスマニアがきっかけだったけど、出会えてよかった一冊。 タスマニアについても、勉強になった。
目次
第Ⅰ部 タスマニアにて
第1章 タスマニアと私
第2章 タスマニア土人の滅亡
第3章 タスマニアの風景
第Ⅱ部 パックス・アメリカーナ
第1章 アメリカの優越
第2章 方法的制覇 システマティック・エイジ
第3章 2つのパラドックス
第Ⅲ部 文明の限界点
第1章 ベトナム戦争 アメリカ帝国の苦悩
第2章 インドのイギリス人
第Ⅳ部 さまざまな文明・ひとつの世界
第1章 人々の白地図
第2章 自由への愛 フランスの抵抗
第3章 アジア主義の心情 日本人の反発心
第Ⅴ部 世界の危機
第1章 食糧危機 〈南〉の苦境
第2章 狂言と会議主義 〈北〉の苦境
第Ⅰ部では、著者がタスマニア島の小さな大学で、五か月ばかり過ごしたエピソードから、タスマニアの悲劇の歴史について語られている。
タスマニアの存在が オランダ人のアペル・J・タスマンによって発見されたのは1642年だったが、その後すぐに入植は行われず、植民は、1803年に初めて行われた。 イギリスの植民地がオーストラリアに初めて作られたのは1788年 シドニーで、 それは囚人を送るためのものだった。 1803年にイギリスが タスマニア島に植民を決意したのは、島の価値を認めたわけではなく フランスが先に 領有することを恐れたからであった。当時 イギリスとフランスは新世界の覇権を巡って激烈な争いを展開していたのである。
1803年にイギリスが役人、兵士、 自由人、 囚人を相当数の家畜とともに送り込み、 1807年には植民者の数は さらに増大した。こうして植民が始まるとともに タスマニアの土着民族とイギリス人の侵入者との間に激しい戦いが展開されることになり タスマニア土着民は、どんどんその数を減らしていく。当初5000人ほどいた土着民は、1830年には、203人に減り、保護地に囲われることになった。しかし、その数はどんどん減り続け、1876年に最後に生き残った一人が76歳で亡くなり、タスマニア土人はこの世から完全に姿を消した。
そんな、悲しい歴史があったのだ・・・・。実際にタスマニア土着民が亡くなった理由は戦ばかりではなく、南アメリカ同様、イギリス人が持ち込んだ細菌だった。『悲しい熱帯』(レヴィ・ストロース)ならぬ、「悲しいタスマニア」、、、だったのだ。
実は、タスマニアを旅行中、立ち寄った町の公衆トイレの前に、「War Museum」と書かれた一軒家のような建物があり、え?タスマニアで戦争??もしかして、土着民と入植者の戦争??と思ったら、やはりそうだった。飾られていた旗は、アボリジニ民族旗だった。
また、第Ⅰ部では、タスマニアの植生についてや、山火事についても、説明されていた。ホバートなどの街でみられる広葉樹は、イギリス人が持ち込んだものだそうだ。人は、故郷の植物を植えることで、故郷を感じたいものなのだろう・・・・。ちょっと、セツナイ・・・。
第Ⅱ部以降は、いよいよ、政治、歴史の話になってくる。1968年の本だというのだが、まったく時を感じさせない。ベトナム戦争で何故アメリカが負けたのか、イギリスがなぜインドの開発を失敗したのか、、、、。
まとめて言うと、「現地の人たちがその気になっていないのに、無理やり技術や制度を導入しようとしてもうまくいかない」ということ。
GHQが日本の開発に成功したのは、日本人が西洋に追いつきたいという思いがあったから。GHQだけが、すごかったわけではない。同じやり方を他の国でやろうとしても、通用しなかった、という話。GHQは、日本の農地改革のうしろだてとなったけれど、実際に農地改革を実行したのは、日本人だったからこそ、うまくいったのだ、と。
アメリカがすごいのは、「技術」ではなく、その技術をつかった「経営」である、という意見も、当に的を得ている。技術開発だけでいえば、ヨーロッパがアメリカに劣っていたわけではないけれど、それを実際に「試してみる」決断がアメリカの方が早かった。だから、アメリカが覇権国家となりえたのだ、と。なるほど、なるほど、確かにそうだ。。。「技術格差」ではなく「経営格差」があったのだ、と著者は言っている。
アメリカは、やると決めたら分業というシステムを導入して、あっという間に生産性を高めることを得意とした。なるほど。
いまでこそ、工程を分けて、それぞれを管理するという大量生産方式が当たり前だけれど、第一世界大戦のころは、まだ一般的ではなかったそうだ。
そのころのアメリカの勢いは、こうした工程管理のシステム化と共に、輸送の効率化も大きく貢献したのだと。まさに、『コンテナ物語』が、経済を後押しした。
ベトナム戦争のアメリカの失敗については、アメリカのやり方の問題だけでなく、そもそもフランスが植民地時代に統治を失敗したことが背景にあるという。うん、それも確かにそうだ。歴史は繋がっている。本書を読んで、初めてベトナム戦争について少し理解できた気がした。
ヨーロッパ人がよく使うアメリカを表す言葉が紹介されている。
「骨董品店の象」
ちょっと、笑ってしまった。
要するに、アメリカは、骨董品店に入ってきて、手伝いをしようと思って動き回る象みたいなものだと。。。力もあり、善意なのだが、結果的には骨董品店を破壊してしまう・・・。
いやいや、、笑えない、ね。
アメリカがベトナム戦争で負けたのは、ベトナムで暴れる象になってしまったから、、、だと。
インドネシアで、回教という言葉が出てきて、一瞬、うん?っておもったけど、ようするに、イスラム教の事である。インドネシアが、国内の混乱で共産党関係者の大量の虐殺事件、9・30事件があったこと、回教信者と無関係ではないということ。
他にも覚書したらきりがない。
ほんとに、良い本に出合えた、と思う。
国と国との関係、まさに世界政治を理解するのに、良い本だと思う。グローバルに活躍するビジネスマンにもお薦め。私は世界を知らなすぎる、、、と、思い知らされた1冊だった。
いやいや、知らないことだらけなのだよ。
気になることの深堀から、思わぬ宝物が見つかることがある。まさにこの本がそうだった。気になることは放置せず、追求してみよう。
読書は楽しい。