『グロースターの仕立て屋』 by ビアトリクス・ポター

グロースターの仕立て屋
ビアトリクス・ポター さく・え
いしいももこ やく
福音館書店
1974年2月28日 発行
2002年10月1日 新装版発行
2019年11月5日 新装版改版発行
2020年10月10日 新装版改版第2刷
ピーターラビットの絵本ー15

 

石井桃子さん翻訳の絵本をもとめて、ピーターラビット、シリーズ15。

これは!これまでのピーターラビットシリーズのなかで、一番おとぎばなしっぽいかもしれない。そして、最後に注釈までついている。出てくる言葉が、昔のイギリスの言葉なので、ムリに訳さずに、「注」としたってことだろう。

 

そして、登場人物に名前が無い!!これまで、ねずみでも、ふくろうでも、ねこでも、、、みんな名前があったのに。シリーズ15の主人公は、「仕たて屋」という名前でしか出てこない。 グロースターという町にすんでいる、一人の仕たて屋の物語。

 

仕たて屋は、
「 りっぱなふくをぬいはしたけれど、 じぶんはめがねをかけた ちいさな  ひんそうなおとこで しなびたゆびは まがり ふくはすりきれ  たいへん  まずしかった。」

そう、貧しい仕たて屋の物語なのだ。

 

仕たて屋は、クリスマス前の厳しい寒さの日、市長の立派な服を仕たてていた。それは、クリスマスの日に行われる婚礼のための服だった。上等な布を無駄なく裁断し、のこった端切れは、ねずみのケープや帽子のリボンにできるくらい少なかった。

まどから差し込む光がなくなると、仕たて屋は一日の仕事を終え、あとは縫うだけとなった服を机の上に並べて、店をでた。次の朝から縫い始めれば、クリスマスまでに間に合う。仕たて屋は、家に帰った。

 

仕たて屋は、シンプキンというねこと二人で住んでいた。(仕たて屋には名前が無いのに、ねこには名前がある・・・)。シンプキンは、仕たて屋が家を出ている間、家のことを切り盛りしていた。 シンプキンはねずみが大好きだった。といっても、上等な布をねずみにやるような親切をするわけではなかった。

家に帰ると、仕たて屋は、シンプキンに「4ペンス銀貨」をわたし、1ペンスずつ、ミルク、ソーセージ、パンをかって、残りの1ペンスで「べにいろのあな糸」を買ってきてくれるように頼む。「べにいろのあな糸」は、市長の服を仕上げるのに必須なのだ。

その4ペンスは、仕たて屋の最後の財産。

「その1ペンスをなくすなよ、シンプキン。さもないと、わたしはおしまいだ。くたくたにつかれて、あな糸を買う金は、もうないのだから。」

 

そして、シンプキンは、買い物に出かける。シンプキンが出かけている間、仕たて屋は明日の段取りを考えながら、炉の前にすわって独りごと。

「これで、金もできるだろう。わしは、市長どのから、上着とししゅうのついたチョッキのごちゅうもんをいただいた。」
むだなく裁断した布は、「あまりぎれで できるのは、ねずみのケープくらいなもの」

そのとき、仕たて屋は、はっとした。
とつぜん、うしろの食器棚から、カタカタと音がしてきた。カタコト、カタコト。
食器棚の紅茶茶碗をもちあげると、でてきたのは元気なご婦人ねずみ。腰をかがめて会釈すると、棚から飛び降りて、はめ板の穴の中に消えていった。
びっくりしたけれど、仕たて屋は、また、炉の前に座ると、明日の段取りをブツブツと独り言。

また、カタコト、カタコト、、、。
今度は、別の茶碗を持ちあげてやると、小さな紳士ねずみ。また、仕立て屋に腰をかがめて会釈すると穴の中にきえていく。

仕たて屋は、こうして、カタコト、カタコトいう茶碗から、ねずみたちを逃がしてやった。ねずみたちは、仕たて屋がブツブツと話す、仕立ての段取りをすっかりきいていた。

シンプキンが買い物から帰ってくると、ねずみは全部いなくなっていた。夕食に食べるつもりだったねずみがいない!シンプキンは、つばをはき、仕たて屋にむかって、うなった。シンプキンの態度はわるかった。かってきた穴糸は隠してしまい、仕たて屋に渡さなかった。

 

気の毒に、年をとった仕たて屋は、その晩から熱をだして、3日間寝込んでしまう。
「あな糸が、あな糸が足りない。」とうなされる仕たて屋。
町中、クリスマスムードでお祭りなのに、貧乏な仕たて屋のいえには、ご馳走もない。シンプキンのねずみもいない。

 

シンプキンは、つまらない気持ちになって、町をうろつく。そして、仕たて屋の店に明かりがついているのを見つける。なんと、店の中では、ねずみたちが歌をうたいながら、楽しそうにしている。

「ねずみが 3ぴき すぅわって
糸をつむいでおりました。
ねこが とおって、 のぞきこむ、
おまえさんたち、なにしてござる?
ぬっております、紳士の服を」
ってな具合に。

シンプキンは、にゃーおにゃーおと鳴いて、中に入ろうとするけれど、ねずみたちはシンプキンを中にはいれてくれない。

シンプキンは、家にもどりながら、考えた。ねずみたちにくらべて、じぶんのわるかったところを。シンプキンは、自分をはずかしくおもった

 

そして、家に帰ると、熱が下がって安らかに眠っている仕立て屋のふとんの上に、べにいろのあな糸をのせ、そのよこで、「くいあらためて」立っていた。

 

目が覚めた仕たて屋は、あな糸をみつけると、
「あ やれ わしは ぼろきれのように、 疲れ果てた。だが、あな糸は手に入った!」といって、服を着ると、外に出た。外は、陽が輝いていた。
でも、もう、クリスマスの朝。市長の婚礼は今日の昼前。
「市長どのの べにいろの上着は いったい どうなる?」
シンプキンは、仕たて屋を先導するように前を走る。そして、店につくと、何かを知っている様子で、中に飛び込んだ。

そこには、誰もいなかった!
でも、床は綺麗に掃除されて、 糸くずや 絹の断ちくずはきれいさっぱり 片付いていた。

けれども、仕事台の上には、ああ、なんていうことだろう!!
仕立て屋が、裁ったばかりの絹の布を並べておいたところには、美しい上着と、刺繍のついたサテンのチョッキがおいてあったのだ!!いままでグロースターのどの市長もきたことがなかったような、美しい上着とチョッキが!

 

べにいろのボタンホール一つだけが、かがられずに残っていた。そこには、とても小さな文字で、「あな糸が たりぬ」とかかれた紙がとめられていた。

 

この時から、仕立て屋の運は開けた。身体も丈夫になり、裕福にもなった。グロースターじゅうの金持ちの商人や、立派な紳士たちのために、みごとな上着をつくった。

仕立て屋のつくる服は、どれも見事であったが、どれにもましてみごとなのは、このひとがかがる ボタンホールであった。その篝目はこまかくて、こまかくて、、、。まるで、小さなねずみが刺したようにみえるのだった。

おわり。

 

きゃぁ。可愛い。
ねずみの恩返し。
くいあらためる、シンプキン。 

 

クリスマスの物語だったのね。

ねずみを逃がしてやった仕たて屋に、ねずみからのプレゼント。

態度の悪いシンプキンも、悔い改めた。

 

めずらしく?!普通にハッピーなお話だった。