老後とピアノ
稲垣えみ子
ポプラ社
2022年1月17日 第1刷発行
2022年2月11日 第2刷
MY LIFE WITH PIANO
先日読んだ、『一人飲みで生きていく』が面白かったので、稲垣さんの本を他にも読んでみることに。
ちょっと、毛色の変わった、ピアノの話。
”この作品は『ショパン』18年1月号から21年12月号までの連載を大幅に加筆修正し 書籍化したものです。”とあり、ピアノの専門雑誌に掲載されていたもの。
表紙には、 アフロ姿でピアノを弾くえみ子さんのイラスト。
表紙裏には、
”私にとって ピアノとは、 老い方のレッスンなのかもしれない。
どれだけ衰えてダメになっても、 今この瞬間を楽しみながら努力することができるかどうか が試されているのだ。 登っていけるかどうかなんて関係なく、 ただ目の前のことを精一杯やることを幸せと思うことができるのか? もしそれができたならば、 これから先、長い人生の下り坂がどれほど続 こうと、 何を恐れることがあるのだろう。”
と、「はじめに」からの引用が。
そう、これは、稲垣さんが50を過ぎてから、子供の時に嫌でやめてしまったピアノを弾きたくなって、プロに習って再開したという「がんばったで賞」をあげたくなるようなお話。
そして、「今この瞬間を楽しみながら努力することができるかどうか」ということの重要さ、時間があるもんで頑張りすぎて腕を痛めてしまうまでのはまりよう、、、仕事の引退が見えてきて、さぁこれからどうしよう、、、と思っている人には必読?!の一冊。、、、とまではいわないけれど、そうそう、好きなこと、大人になったから好きなことに好きなだけ没頭できるって、あるよね!!って共感。
Contents
プロローグ
chapter 1 40年ぶりのピアノ
column 大人のピアノのはじめ方1
chapter 2 弾きたい曲を弾いてみる
column 大人のピアノのはじめ方2
chapter 3 動かぬ体、動かぬ脳
column 大人のピアノのはじめ方3
chapter 4 ああ発表会
column 私の密かな野望
chapter 5 老後とピアノ
エピローグ
感想。
面白かった。結構、一気読み。ちょっと、ピアノもいいな、、、なんて思っちゃう。
大人が夢中になれる趣味をもつって、結構大事。
子どものときの習い事は、好きだけれど、どこかヤラサレ感はあったり、中学、高校になってくると、部活もあるし、勉強もあるし、、、、別にプロになるつもりじゃないんだから、、、って辞め時をまよったあげく、、、なんとなくフェードアウト的に離れていく。
しかし、大人のお稽古は、ちょっと違う。稲垣さんもそうだけれど、別に、プロになろうっていうのではない。でも、発表会とかで人様の前で披露することに異常な緊張感を覚えたり、でもそれがあるから楽しめたり・・・。
いやぁ、わかるわぁ。そうやって、ハマる気持ちって。楽しく読んだ。
稲垣さんは、ピアノを習いたいとずっと思っていたそうだ。子供の時には つまらなくなってやめてしまった ピアノだったけれど、もしかすると、大人になった今ならば ちゃんとできるんじゃないのだろうか?と思うようになり、ピアノが心の中をしめ始めていた。そして、ひょんなきっかけから、雑誌「ショパン」に稲垣さんのピアノ再挑戦物語をコラム的に書くということが決まり、プロの先生に習うことに。
目標は、あこがれの「月の光」をひくこと。ドビュッシーの名曲。聞いたことが無い人はいないと思う。色々なTV CMで使われている。なんとも美しい曲だ。稲垣さんのアフロ頭とはそぐわないような・・・・。
そして、ご縁があった先生は、米須真浩(ただひろ)さん。東京音楽大学を主席卒業、日本音楽コンクールピアノ部門第二位、数々の有名オーケストラと共演、、、という方。
しかも、若きイケメン!!らしい。
これは、50過ぎのおばちゃんが、必死にならないわけがない!!
そして、練習と、月に一回のお稽古が続く。稲垣さんのすごいのは、なんと、お家にピアノが無い!!ということ。でも、「どのくらい練習すればいいですか?」と先生にきいたところ、「毎日」と言われたので、毎日練習した。
どうしたかというと、知り合いの喫茶店にあるピアノを、開店前の早朝に練習につかわせてもらったのだそうだ。それはすごい!!
ピアノに限らないけれど、楽器の練習って、結構なご近所迷惑になる・・・・。それを、早朝とはいえ、好きなだけ弾ける環境があるというのはうらやましぃぃぃ!!!
そして、自主練しまくって、筋肉痛になったり、腱鞘炎になったり、、、。ピアノで手を痛める人って多いのね。でも、専門家によれば、ピアノで身体のどこかを故障してしまうのは、不要な力がかかっているからだ、、と。
あぁ、、、なるほど。。。。まぁ、プロだと練習の時間も比較にならないのだろうけれど、素人が練習でどこかを痛めるのは、たいてい、身体の使い方が間違っているからだ。マラソンで膝をいためるのだって、筋トレで腰をいためるのだって、、どこかが間違っている。
そして、稲垣さんがたどり着いたのは、「必要以上に力まない」だった。
大切。
私は、三味線のお稽古をしているけれど、やはり、1時間も弾いていると、そのあとペンをもっても字が書けないくらい右手がくたびれてしまう。よく、「力が入りすぎ」といわれるけれど、力の抜き方が、、、難しいのよね・・・・。
そして、練習に練習をかさね、先生に的確に指摘され、、、譜面をしっかりと読むことの大切さ、右手と左手、それぞれを大事にすることを自覚し、稲垣さんは、発表会もちゃんと演奏する!
やっぱり、クラシック音楽は、永遠に不滅だ!!!と思う。
稲垣さんは、ピアノを練習するようになって、聞く音楽がすっかり、クラシックになったそうだ。最後の方ででてきた、78歳のピアニスト、ダニエル・バレンボイム氏は、私はしらなかった。稲垣さんにとっては、新聞記者時代から、興味の対象だったらしい。イスラエル国籍をもつユダヤ人で、イスラエルのパレスチナに対する軍事攻撃に公然と反対する発言を繰り返していたとのこと。そんなダニエル氏が2021年、赤坂のサントリーホールでのピアノリサイタルを行うことに。しかも、78歳!。その生きる伝説のステージは、登場しただけで最高の盛り上がりだったそうだ。そして、ベートーベンピアノソナタ30番第一楽章が始まる。
「氏が一音一音をとても大切に、驚きと悲しみをもって弾いていることが、最初からはっきりつたわってきた」って。
稲垣さんは、先生に言われた、「自分はどう弾きたいのかだけでなく、作曲家がどうしてこの譜面に落としたのかを考えて譜面通りに弾くことが大事」といわれた言葉を噛みしめた瞬間だったのかもしれない。
本書は、ピアノを通じて、老いとの向き合い方を語った一冊でもある。50代で、老いだなんて、、、て思うことなかれ。でも、老いるというのは、決して悪いことではないのだ。
自分の持てるリソースを客観的に自覚できるようになるのが50代。経済力、体力、気力。すべて、、、50代だからこそ、これからどう使うか、自分の好きなことに何をどれだけつぎ込めるか、、、。
あぁ、人生100年時代。
50代こそ、一番楽しめる時代ではないのか?
って、60になれば、60代が一番っていっているかもしれないけれど、
好きなことに、自分のリソースを惜しみなくつぎ込もう。
時間、金、、、、どちらも、墓場には持っていけない。