『#9 ナンバーナイン』 by  原田マハ

#9 ナンバーナイン
原田マハ
宝島社
2009年12月19日 第1刷発行

 

図書館で見つけたので借りてみた。原田マハさん。不思議なタイトル。

裏の説明には、
”東京でインテリアアートの販売員をする OL 深紅。 仕事に挫折し、母親の待つ故郷に帰るべきではないかと悩んでいたある日。ふと 立ち寄った宝石店で出会った見知らぬ 中国人紳士に運命的な恋をする。 深紅はまた会いたいという 一心で、紳士に渡された 電話番号を頼りに上海に渡る。 まるで見えない糸に導かれるように再会する二人。 未来は幸せなものかと思われたがーーー。 上海を舞台に繰り広げられる大人の恋愛物語。”
とある。

 

感想。へぇ、原田さんって、こういう話も書くんだ、って感じ。面白かった。時空を超えてお話がつながるのは、よくあるパターン。そこに、アートと恋愛が絡んでくるのも。ただ、本作品は、 過去にさかのぼった時空での物語はハッピーエンドではない。でも、だからこそ、今に戻ってきたときに、あの過去があったから今のハッピーがあり、これから先のハッピーにワクワクできる、ってそんな感じかな。やはり、アートの審美眼をもった一人の女性をめぐる物語。夢のような恋愛ストーリーと、その破滅と。。。
読みだすと止まらない。347ページの文庫本。ちょっと、上海の街でも歩いてみたくなるような、そんなお話。

 

ま、2008年刊行『#9(ナンバーナイン)』を加筆・改訂して2009年に文庫化したとのこと。今の上海は、また全然違う世界になっているのかもしれない、けどね。

 

目次
東京、2013年
東京 、2001年
上海、 2002年
釧路 ー上海 2002年
上海、緑葉西路 13弄9号、 2002年
貴陽、 2007年
上海、 2015年

 

以下、ネタバレあり。

 

最初の、2013年と2015年が今の話。間の2001年~2007年までが過去の話。

 

過去のメインストーリーは、2001年から始まる、深澤真紅(ふかざわしんく)が東京で出会った中国人紳士に恋して上海まで追いかけ、そこで彼のために中国美術品の収集に奔走する物語。凄腕ディベロッパーの彼は、上海の上流階級ビジネスマン。金に物を言わせる彼の行動に時に疑問を持ちつつも、彼のために中国語を学び、彼に愛されるために、、っと頑張る一人の女性、真紅。でも、彼は彼女の審美眼を利用しただけだった。集めた美術品は、放火による火事ですべて失う。全てを失って、日本に戻る真紅だったけれど、上海での3か月は、彼女に中国アートにまつわる知識と人脈を残した。そして、それは、真紅の新たな成功へをつながる。

と、そんなお話が、2013年のお話と交差する。


物語の始まりは、2013年の東京。南駿は、日本の大手都市開発企業である森山地所に就職して15年。突然、森山勇一社長の避暑として秘書室に異動し、森山から上海に建てる高層ビル99階に美術館をつくるので、中国現代美術のコレクションを手伝うように言われる。森山社長は、美術品のコレクターとしても有名で、南の叔父は森山と親しい洋画家だった。そして、森山に連れていかれたのが、深澤真紅が経営する「GALLERY KURENAI」で、南はそこで初めて真紅に出会う。真紅は、南の中国美術収集をサポートする人として、森山が選んだ人だった。
南は、「GALLERY KURENAI」で、様々な美術品を目にするが、一つだけハッとするほど引き付けられる作品があった。作者も、タイトルも書かれていない。スタッフにきくと、「何があっても、絶対に深澤は手放そうとしない」作品で、裏に「#9」と書いてあるだけだという。森山もその作品に心を奪われている一人だった。

 

舞台は、2001年、東京へ。
真紅は、東京のアートギャラリーで、安物のコピー品を高値で売る売り子をしている。しかし、同僚に比べると営業成績は悪く、いつも店長にどやされているのだった。真紅は釧路出身。父親は芸術家だったが若くして亡くなり、母子家庭で育っていた。美術を愛する真紅は、芸術作品の販売ができると思って就職したのだが、実際には、キャッチセールスで安ものを売りつけるセールスマンのような仕事にうんざりしていた。成績優秀な同僚は、ブランド品に目がないが、真紅はお金もなければ、ブランド品に興味もなかった。
真紅は、そんなある日、高級宝石店のショーケースに飾ってある美しい指輪に見とれて、ふらりと店内にはいってしまう。そこで、見知らぬ中国人に、「あなたの指を貸してほしい」といわれて、誰かへのプレゼントを選ぶための手モデルにされる。魚の形をした2粒のダイヤモンドリングだった。彼がそのリングを買うのをみて、さりげなくその場を離れた真紅は、店の奥へと入り込んでしまった。そして、背後から「お客様」と声を掛けられ、「先ほどのお客様からです」といって、宝石店の紙袋を渡される。恐る恐る受けとった真紅は、店を飛び出す。彼の姿はもうなかった。

それから、真紅は彼の姿を求めて東京の街をさまよっていた。そして、2週間後、なんと店のチラシを配っている真紅の目に、彼の姿が飛びこんできた。彼は、店にある作品を全部買うと言い出す。芸術品とはいいがたい作品に、1000万円以上の買物をしようとする彼。真紅は思わず、「これは芸術作品ではない。ただのポスターだ。」といってしまう。
「きっと、そう言ってくれると思っていました」といって真紅にお礼をいう紳士だった。そして、「またお会いしましょう」と。

真紅は、この事件で仕事をやめ、釧路に帰る。そして、ずっと開けずにいた彼からの宝石店の紙袋を開けてみる。そのリングケースに入っていたのは、リングではなく、「王剣。861367・・・・」と、彼の名前と電話番号だった。

そして、真紅は、上海に飛ぶ。ただ、一目彼に会えればいい、、と。上海についてメモに書かれていた番号に電話をしてみると、電話に出たのは女性だった。王剣は、黒塗りのベンツで真紅をホテルまで迎えに来ると、おかかえソムリエのいるレストランへ連れて行ってくれた。電話にでた女性は、王剣の秘書だった。ちょっとほっとする真紅。王剣は、31歳の実業家で、美術収集もしていた。森山地所とはビジネスだけでなく、美術品収集という点でもライバルなのだった。当時の真紅はもちろんそんなことは知らない。上海で王剣にいわれた美術品収集をしているうちに、森山と出会うのだった。

王剣は、真紅が観光に立ち寄った東台路(上海の雑貨市場)で10元で買ったという観音像をみて、驚く。真紅が、店の中で際立って美しかったから選んだものだったが、それは香木でできた最高級美術品だった。


真紅の審美眼を確信した王剣は、それをほめたたえる。そして、中国美術品を国外に持ち出すことは禁じられているので、持ち帰るときには、気を付けて、と真紅に伝える。そういわれた真紅は、帰国する前に、「これを持っていてください。つかまっちゃったら、もうこれなくなるから」とその観音像を王剣にわたして上海をさるのだった。

 

釧路にもどって、1週間。真紅のもとに手紙が届く。上海からの手紙に入っていたのは、「緑葉西路 13弄(ロン)#9」と書かれたメモと鍵だった。

そして、真紅は上海に飛ぶ。3か月という最長のビザをとって。きっと、ここにいけば再び王剣に会えると確信して、緑葉西路 13弄(ロン)#9を訪れる。
空港から乗ったタクシーに行き先を告げた中国語が通じたことで、希望でいっぱいの気持ちになった真紅だったが、タクシーで降ろされたのは、古びた家が軒を並べ、通りに面した店はシャッターを下ろしている閉された村のような場所だった。でも、そこに、確かに、13弄(ロン)#9の黒い扉があった。扉を開くと、そこにいたのは王剣ではなく、少年。チャイナ服をきた少年は、真紅を歓迎する。中に入ると、そこは、まさに美術館のような館だった。。
ケン(王剣)に会えると思った真紅は、がっかりするが、客間のドアがあいてだれかが入ってくる。ケン?と思ったが、現れたのはまた見知らぬ長身のチャイナ服の男性。男性は、「ようこそ#9へ」と日本語で話しかけるのだった。

男性は、ケンの美術品収集を手伝っているデイヴィド・ホァンで、少年は小間使い、小李(シャオリー)だった。真紅は、二人のサポートをうけて、上海での生活を始める。この館をどう使おうと真紅の自由だという。でも、いつになったらケンに会えるのか・・・。
夜になると、デイヴィッドもシャオリーも館から帰ってしまう。一人寂しく館で夜をすごしていたある日、だんだん不安になってきた。不安を紛らわすかのように、館内の美術品を眺めていた時、ケンがやってくる。ケンの腕が真紅を優しく包み込んだ。
「真紅。あなたはもう、私のものだ」
そういわれて、ケンの腕の中に落ちていく真紅だった。

ケンとの幸せな夜を過ごした真紅は、左手に魚の形をしたダイアモンドをみつめて、幸せな気持ち一杯になっていた。ずっと一緒にいたいと思った真紅だったが、忙しいケンは、あっという間に館を去って行ってしまった。「ただ僕をまつのではなく、館のコレクションについて勉強するといい」といって。それは、ケンが新しくつくる美術の館の収集を手伝うように、ということだった。

そして、デイヴィッドは、真紅の中国美術に関する先生となる。真紅は、ケンに会えない寂しさもあって、どんどん中国美術に嵌っていく。そして、中国語の腕もあげていく。お抱えの運転手、シェフ、ソムリエ、、彼らとの中国語の会話もどんどん慣れていく。ケンの秘書で真紅に対してライバル心丸出しだった江梅は、最初は真紅に対して冷たかったけれど、一緒に美術品収集の商談を手伝ってくれることになり、真紅の美術品や中国語を学ぼうとする真摯な姿を認めてくれるようになる。

そして、3か月というビザの限られた時間内で、美術品収集をまかされた真紅は、ケンとの時間はほとんどないままに、夢中になって美術品の交渉に駆け巡る。上海に来て、真紅が得たのは、ケン以外の人からの温かいサポートだった。。。忙しい日々の中、江梅と真紅は、時々、町のマッサージ屋さんに行くようになる。真紅は、そこで手技のすぐれたマッサージ師、#9に出会う。彼らは、名前を持たなかった。そして、マッサージ師の#9は、或る時から13弄(ロン)#9の館に出向いて真紅の疲れを癒してくれるようになる。#9は、あまり自分の事は話さない人だったが、絵を描いている人のにおいがした。油絵のにおいが。

 

ケンの周囲の人々に加え、マッサージ師#9が真紅を支える人に加わった。孤立しがちなケンに対して、みんなはいつも一緒で優しかった。

 

ケンは、ビジネスだけでなく、美術品の交渉に関しても、頑固だった。時には、マナー違反を犯してでも自分の欲しいものを手に入れようとする。そのやり方は、人間に対してもおなじだった。ふと、ケンのことが空恐ろしくなる真紅だった。ケンは、王様だった。まさに、王剣だった・・・。
或る作品が、自分より早く日本人の森山が手にしたことをしったケンは、何が何でも自分のものにしようとする。そんなやり取りを通じて、真紅は森山とも知り合いとなる。森山は、真紅の美術を見る目、そして真面目な交渉に好意をいだくのだが、ケンは真紅が森山と親しくすることすら気に入らない。だんだんと、ケンに対する疑念が膨らむ真紅だった。

そして、或る時ケンは、#9が真紅のマッサージに来ていたことをしり、真紅と#9を罵り始める。しまいには、真紅に暴力をふるうケン。それをケンへの平手打ちでで止めたのは、デイヴィッドだった。。事件の翌日、デイヴィッドは館を去っていく・・・・。

何もかもが音をたてて崩れていくかのような、事件だった。そして、追い打ちをかけるように、館への放火事件が起こる。地区を買収して再開発しようとする王剣に対する、住民たちの仕返しと思われた。ケンと#9との一件で失意の底にあった真紅は、火事の巻き添えになり、大やけどを負い、意識がもうとうとする中、誰かに助け出され、一命をとりとめる。

真紅は、火傷した左手にケンからもらった魚の指輪をつけたまま、帰国することになる。館のすべては焼けてなくなってしまった。残ったのは、みんなとの思い出。館が亡くなってしまった今、シャオリーも、シェフも、運転手も、、みんな真紅に仕える使用人ではない。それでも、みんなが真紅を見送りにきてくれたのだった。その姿の中には、そっと1人でたたずむ、デイヴィッドの姿もあった。欠けているのは、ケンだった。「さようなら」のメモだけが真紅のもとに届いた。。 

 

そして、場面は、再び南が真紅に出会った時代に。二人がこれから、中国美術を通じて成功をしていくであろう、明るい未来の兆しで物語は終わる。火傷の痕と共に真紅の左手に残っていた魚のダイアモンドリングは、南と共に上海に訪れている間に、真紅の左手から消えていた・・・・。新しい幸運を求めて。

 

いやぁ、、、ちょっとネタバレのつもりが、長くなってしまった。結局、作者もタイトルもない真紅のお気に入りの作品は、だれの作品だったのか、、、のネタバレはやめておこう。そして、火事の中、真紅を救い出したのが誰だったのかも。

 

#9にまつわる長く、甘く、セツナク、愛しい物語。

読み応え、ばっちり。

しいて言えば、#9とのハッピーエンドの世界も見てみたかったかなぁ、、、なんて。宝島社らしい、夢物語。

 

うん、面白かった。

やっぱり、原田マハさん、好きだ。