『実力も運のうち 能力主義は正義か?』 by マイケル・サンデル (その2)

実力も運のうち 能力主義は正義か?
マイケル・サンデル
鬼澤忍 訳
早川書房
2021年4月25日 初版発行 
2021年5月25日 9版発行
THE TYRANNY OF MERIT   What’s Become of the Common Good?  (2021)

 

(その1)の続き。

megureca.hatenablog.com

目次
プロローグ
序論 入学すること
第1章  勝者と敗者
第2章 「 偉大なのは善良 だから」  能力の道徳の簡単な歴史
第3章 出自のレトリック
第4章 学歴偏重主義 容認されている最後の偏見
第5章  成功の倫理学
第6章  選別装置
第7章  労働を承認する
結論 能力と共通善

 

能力主義は、それを自分の力とおもうならば正義ではない」ということ、言葉では理解できても、忘れがち。

うん、これは、と思った言葉や人物について覚書。

 

・「自分のことは自分でできる」という考え方が強くなればなるほど、感謝の気持ちや謙虚さを身につけるのはますます難しくなる。

 

マイケル・ヤング:『The Rise of the Meritocracy』(1958)。邦訳『メリトクラシーの法則』で、能力主義がもたらす労働階級と特権階級の軋轢を予測した。
勝者は自分たちの成功を「自分自身の能力、 自分自身の努力、 自分自身の優れた業績への報酬に過ぎない」と考え、そうでない人々を見下すようになるだろう、といった。

 

ルターの教義は、神の恩恵は自力では得られない贈り物であり、反能力主義だった。しかし、後に、マックス・ヴェーバーが『 プロテスタントの倫理と資本主義の精神』で示したように、能力主義的な労働倫理をもたらした。

 

マックス・ヴェーバーが指摘した能力主義のおごり。「選ばれた聖人が抱く 神の恩寵の意識には、隣人の罪に対するある態度が伴っていた。それは自分自身の弱さに基づく共感的理解ではなく、永遠の地獄行きの印を帯びた、神の敵として嫌悪し、 軽蔑する態度だ。」
こわいけど、聖人でなくてもあると思う。自分は頑張った。あの人は頑張っていない。だから、安い給料の仕事でも仕方がない・・・・。

 

能力主義の勝利主義的側面のあやうさは、「成功を収める人々はその成功に値するという信念」であり、勝者におごりを、敗者に屈辱をうみだすこと。
敗者になりたくないから、努力する、、、ということもあるけれど、、、。勝者は、その成功は自分の努力のおかげと思い込みやすい。

 

アメリカの能力主義は、20世紀に始まった。ジョージ・ワシントンエイブラハム・リンカーンは大学の学位を持っていない。ハーバード大学の卒業生である フランクリン・D・ローズベルトは、幅広い人材からなるチームで政権を運用したが、そのメンバーの学歴は今の政権のメンバーより低かった。

 

・2016年、大学の学位をもたない白人の2/3がドナルド・トランプに投票した。エリートに見下されているという感覚をもった人々。

 

・大学を出ている人が、大学を出ていない人に、暮らしを上向かせたければ学位をとれと叱咤激励を繰り返すのは、激励どころか侮辱になりかねない。
しまも、これは、能力主義でもなく、学歴偏重主義でしかない・・・。

 

ジェームズ・コナント:1940年代、能力主義のクーデーターを起こした。世襲による入学、黒人差別、女性差別ユダヤ人差別、それらをなくすために、能力主義を導入した。ハーバード大学奨学金を創設し、だれもが受験できるようにした。まさに、アメリカンドリームの為に。そして、だれもが受験できるIQテスト、大学進学適性試験(SAT)を導入。しかし、これが後に、行き過ぎた能力主義、受験戦争、へとつながってしまう。新しい能力主義派、称賛に値するのは誰であり、 誰でないかを判定する新しい 厳格な基準となってしまった。

 

アメリカの大学生の5人に1人は、自殺を考えたことがある。心の健康に問題を抱えている学生がアイビーリーグに限らず、多くいる。そして、その数は2000年以降、増え続けている。
日本は、どうなのだろう。。。。

 

新自由主義のグローバリゼーションがもたらしたものは、拡大する一方の不平等

 

・金融業界の活動は、いかに好調であっても、それ自体は生産的ではない。その世界で活躍する多くは、大卒のエリート。イギリスの金融サービス機構元長官、アデア・ターナーは、「この20-30年 裕福な先進諸国で金融システムの規模と複雑さが増したことにより経済の成長や安定性が増したという明白な 証拠はない。金融活動は 経済価値をもたらすのではなく実体経済からレント(正当化されない超過利潤)を搾り取っている可能性がある」という。

まえに、野村証券顧問の方の講演を聞いたとき、経済は「プライマリーエコノミー」でなりたっていて、「セカンド」「サード」は幻想だ、とおっしゃっていたことを思い出す。だから、金融としては、「プライマリーエコノミー」を支えるための仕事に集中するべきだ、と。ごもっともだと思った。

 

本書のメッセージは、「もっと謙虚になれ」ということ。

 

報酬の高さが、成功ではない。

素晴らしい功績だから、報酬が高いわけではない。

報酬というのは、あくまでも市場での価格。社会価値とは違う。

 

アメリカの話ではあるけれど、行き過ぎた能力主義、学歴偏重がもたらす弊害は日本も共通だと思う。

謙虚さを忘れると、善は失われていく。

大人になればなる程、歳をとればとる程、謙虚さを忘れないことが大事。

 

本当にそう思う。