もうひとつの ”かなしい” 愛しい

先日、人生の大先輩に、「悲しい と 哀しい の違い」について、教えてもらったとき、もう一つの「かなしい」、も教えてもらった。

 

愛しい:かなしい:身にしみていとしい。かわいくてたまわらない。かなしい。

 

「愛しい(かなしい)」自分では使わないな、とおもったのと、使っているのもあまり見ることがないので聞き流していた。

 

そしたら、出合った。

なんとも、愛にあふれた「かなしい」だけど、その文字に出合ったのは、痛快、女の人生小説。

「すぐ死ぬんだから」 by 内館牧子  2018年8月21日 第一刷発行。

以下、ネタばれ、あります。

 

痛快。

小説の出だしは、コメディかと思うほど、あるある!!の高齢女性の心情表現、行動描写。読者を引き込むのがうまいな、とおもいながら読み進む。

主人公は、”お前は俺の自慢だよ”といつも夫にいってもらえる幸せな78歳の主婦。

たくましい、高齢女性の話かと思えば、、、夫の突然死。

なんと、まさかの遺言書発見。

なんと、まさかまさかの、隠し子発覚!

なにぃぃぃぃ!!

の展開。

 

嫁姑のけんかやら、実家の母親にずけずけ物言う娘のたくましさ、いかにも日常のありがちな風景の中に突然訪れた夫の急死。

 

旦那をなくした悲しみからセルフネグレクトに陥るかと思いきや、妾の存在をしったとたんに、生きることに目覚める、、とでもいうのか、自分を何十年も裏切り続けた夫の死を悲しんでいる場合ではない!となるから、女はたくましい・・・。

 

「人は他人の人生に無頓着なものだ」。

であれば、自分の好きなことをして生きればいい。

 

妾の息子、つまりは夫の隠し子にむかって、人類愛のような心持になりつつある主人公が発した言葉。

「後悔しないように生きるといっても、何をしてもいいということではない」

 

それはそうだ。

 

愛しい。

 

その言葉を発したのは、妾の息子。なぜか、自分がこれから母のものとを去って海外移住しようという相談を、自分の母が不倫という形で裏切り続けた女、つまり認知してもらっていない父親の本妻に相談する。そして、自分の母親に対する思いを、本妻へ語る場面。

 

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「僕、母が愛しいんです」

「なぜ悲しいの?いい仕事と息子をもって、悲しい人生じゃないじゃない?」

「いえ、その悲しいではなくて、愛情の愛という字です」

「愛?愛という字、かなしいって読むの?」

「はい」

「悲しい」でも「哀しい」でもなく、「愛しい」か、、、、。母一人子一人でお互いだけを見て生きてきた濃さがわかる。

私はすんでのところで、「お母様もあなたを愛しいとおもっているでしょう」という言葉を飲み込んだ。いったら、息子はさらに動けなくなる。

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そして、なぜか、夫の隠し子の人生相談にのって、背中を押すこととなる・・・。

 

さらに、主人公の次なる人生が始まることで小説は終わるのだが、高齢者の引き際とか、次世代との関係の在り方とか、なかなか面白く、最後は明るい気持ちにさせてくれる小説だった。

 

愛しい、とも思えるものも、悲しいも哀しいも、ぜんぶひっくるめて、ココロが動くということが人生の面白みでもある。

 

ココロが動かされた時、自分はどう行動するのか。

「人は、他人の人生には無頓着なもの」

そう。人の目を気にする暇があったら、自分のことを自分の目でちゃんと見よう。

外見も中身も。

 

ただの気分転換と思って手に取った本が、思わず、私の背中をポンと押してくれた。

そうね、後悔しないように、でも、品格をもって前に進もう。