「太陽の棘」 by 原田マハ

太陽の棘

原田マハ
文春文庫 
初出 別冊文藝春秋 2012年11月号~2014年1月号
2014年4月単行本

 

図書館の文庫本の棚で、たまたま見つけたので借りてみた。
本が、私を見つけてくれたタイプの出会い。
裏表紙を見ると解説・佐藤優とある。
これは面白い本に違いない、そう思って借りた。

 

良い本だった。
電車の中で立ちながら読んでいて、 気がついたら涙が溢れていた。
わっと泣いたのではなく、気が付いたらぐっと涙がわいて、こぼれていた。

 

原田さんの書く小説は好きだ。
美術が関係する小説も多い。
本書も画家が登場する。
戦後の沖縄の物語。
アメリカ陸軍基地に務めるアメリカ人と沖縄人との物語。
そう、まだ沖縄がアメリカだった時代の話。


佐藤さんは解説の中で、
「私は日本人が書いた沖縄をテーマとする小説の中で『太陽の棘』が一番好きだ。」
と書いている。
戦後の沖縄を書くことは難しい。

 

以下、ネタばれあり。

 

本書は、実話を元にしたストーリー。
原田さんが、本書に出てくるモデルたちを取材してできた小説。
小説としては、巻末の主な参考文献・ホームページの記載数が 多いと思う。

 

物語はサンフランシスコでメンタルクリニックを開設するDr. エドワードの回想シーンから始まる。
舞台は終戦後、1948年の沖縄。
スタンフォード大学医科大学院を 卒業したエドは、京都での1年の臨床経験を終え沖縄へ赴任する。
琉球米軍医療局。 戦後まだ3年の頃である。


戦争は終わったとは言っても、アメリカ人による沖縄の人々への暴行事件等もあり、アメリカ陸軍としては、沖縄の人々と交流することを規則で禁止していた時代。
そんな時代に、たまたまエドが仲間のDr.たちとのドライブ中に迷い込んだのが、沖縄の画家たちがあつまる、NISHIMURA ART VILLAGE。

 

もともと絵を描くことの好きだったエド
VILLAGEの中心的人物、タイラと仲良くなる。
タイラは、アートのためにアメリカ留学をしていた日本人、そしてその奥さんはアメリカ育ちの日系人、メグミ。二人とも、英語が通じることから、エドたちと交流することもできた。

 

タイラやほかの画家たちは、他の沖縄人たちのようにエドたちを鬼畜のように扱う事もなく、”絵画”という共通言語を通じて、交流を深めていく。


でも、戦勝国と敗戦国。
そして、アメリカの占領下にある沖縄。
哀しい記憶の沖縄。


タイラは、戦争に行っていない若いアメリカ人であるエドには、沖縄の全てを理解することができないという事を理解しつつも、完全には分かり合えないという事実をみとめつつ、エドに最大級の友情をしめす。


エドも、友人であるタイラを、その妻であるメグミを、その友であるもう一人の画家ヒガを、彼らの尊厳を守るために、最大級の友情を示す。軍の規則に反して。

最終的には、エドは規則違反でアメリカへ送還されてしまい、彼らとの不本意な別れを迎える。
でも、タイラは、まるでそうなることをわかっていたかのように、最後まで、エドの友達だった。

 

ストーリーの中には、そうしなければ生きていけなかった沖縄の人々の悲しい現実も、うまく表現されている。

事実は事実。

その表現の仕方が、原田さんはうまいのだと思う。

 

エドは、沖縄にいある間、VILLAGEの画家たちの作品を買い、アメリカの実家に送っていた。
それらの作品は、2009年、沖縄県立博物館・美術館に里帰りしたそうだ。

 

いつか、観に行こうと思う。
いや、会いに行こうと思う。
タイラたちの作品に。

 

言葉は大切なコミュニケーションの手段だ。

でも、時にアートは言葉を超越したコミュニケーションの手段にもなる。

アートは、世界共通言語なのだ。

 

久しぶりに、絵を描きたくなった。

でも、今書いたら少し悲しい絵になりそうな気がする。