『異邦人 いりびと』 by  原田マハ

異邦人 いりびと
原田マハ
 PHP 文芸文庫
2018年3月22日 第1版第1刷
(本書は2015年3月に PHP 研究所より刊行された作品に加筆修正をしたものです。 )

 

図書館で原田マハの本をさがしていて見つけた本。
2018年というから、比較的新しい。

 

表紙は、〈月光〉エドヴァルド・ムンク 1893年の作品。
なんとも、怪しげな、、雰囲気漂う装丁だ。
表紙裏に、原田さんの解説がついている。
「月光に照らされ、蠱惑的な眼差しを投げかけて佇むヒロインは、古い因習にとらわれることなく自らの「性」を享受し、したたかに「生」を楽しむという女性が持つ二面性を表現している。喪服のような黒服・黒い影法師と月光に浮かび上がる白い柵・窓が強いコントラストを作り、彼女が内面に隠し持った秘密を暗示するかのようだ。」

裏の説明には、
「『美』は魔物ー。たかむら画廊の青年専務・篁(たかむら)一輝と結婚した有吉美術館の副館長・菜穂は、出産を控えて東京を離れ、京都に長逗留していた。妊婦としての生活に鬱々とする菜穂だったが、気分転換に出かけた老舗画廊で一枚の絵に心を奪われる。強い磁力を放つその絵の作者は、まだ無名の若手女性画家だったのだが…。彼女の才能と「美」に翻弄される人々の隆盛と凋落を艶やかに描く、著者新境地の衝撃作。」

 

感想。
面白かった。
わー-、こういうお話も書くんだ、と。
確かに新境地なのかもしれない。
親子、男女、業界のしきたり、京都のしきたり、色々なドロドロした世界のなかでの、女性の強さ、はかなさ、美しさの物語、という感じだろうか。

うん、面白かった。
推理小説ではないけれど、最後は、なんとまぁ!!!そういうこと?!?!
という、驚きの展開。
主人公の菜穂の一輝もしらなかった秘密が明らかになる。

表紙の絵の意味が、なるほど!となる。

タイトルの意味も、なるほど!となる。

 

以下、最後のネタバレなしの、ちょっとストーリーのネタバレあり。

 

主人公は、東京の私設有吉美術館の娘、菜穂。画廊の息子、一輝と結婚している。二人ともお金の苦労を知らない、お嬢様とぼんぼんのカップル。わがまま娘のような菜穂は、結婚後、苦労することなく妊娠する。2011年3月11日の震災で、日本中が放射能におびえている中での妊娠の発覚だった。胎児に影響があるといけないからということで、菜穂の両親の勧めでしばらく一人で京都に行くことにする。 
一輝は仕事が忙しくて週に1度ぐらいしか京都にはいけない。妊娠中で、手持ち無沙汰な菜穂は、京都の町を散歩していた。そして、以前、志村照山(京都の著名画家)の絵を一目ぼれで購入した画廊で、また、菜穂の心に刺さる一枚を発見する。
美術館の創設者である祖父から受けついだ鋭い審美眼を持つ菜穂は、その絵に強く惹かれる。
無名の作家、白根樹の作品だった。

白根樹は、照山の弟子ということになっていたが、実は、照山のライバルでもあった夭折した画家の娘で、その妻も早くに亡くなったため、照山が養子にしていた。
樹は、耳はきこえるけれど、話すことができなかった。
菜穂は、樹の出生の秘密は知らなかったが、照山の監視下に置かれているような異様な空気をかぎ取る。そして、樹を照山のもとから解放してやるのだと、自分に誓う。

素晴らしい才能を、何が何でも自分の力で開花させて、世に見せつけるのだ、と。

 

そして、東京の両親や一輝とのつながりよりも、樹とのつながりに夢中になっていく。


一輝と菜穂は、なかなか会えないこと、そして一輝の画廊が経営難に陥っていることなどもあって、すれ違いが続く。一輝は、画廊の危機を救うために、菜穂が大のお気に入りだった有吉美術館所蔵のモネの「睡蓮」を売ってしまう。しかも、菜穂の母親の誘惑に応えることで、有吉美術館の協力を得ていた。もちろん、菜穂に相談なしに。

事後報告で「睡蓮」のことを聞かされた菜穂は、大きく落胆する。そして、ますます東京との距離を感じ、もう、東京へ戻らず、一人で子供を産んでもいいとさえ思うようになる。

そして、菜穂の実家の美術館も経営は厳しく、とうとう閉館を決める。副館長であるはずの菜穂への相談もなしに。菜穂の両親は、美術館の作品を一輝の画廊で売ってもらう事を依頼する。そして、一輝がその目録を確認していると、美術館の所有だとおもっていた数々の名品は、菜穂の名義になっていることが判明する。創設者であった祖父が、菜穂の将来のために、ひそかに名義を菜穂に移していたのだった。生前、祖父は、自分の息子に審美眼がないことをみぬいて、菜穂に将来を託したいと考えていたのだった。

 

一輝や、母は、なんとか、菜穂を東京に連れ戻そうとするが、菜穂の心は、もう京都で樹を支援することにしかなかった。
菜穂は、東京の両親、そして一輝との別離を決心する。

祖父と親交のあった京都の美術会の大物の後ろ盾もあって、樹の美術界デビューは、照山のしらないところで粛々と進められていく。

そして、照山の突然の死。
菜穂の出産。
樹と菜穂に、明るい未来への光が差す。
菜穂は、生まれた子供に、「菜樹」と名づける。
なぜなら、、、、。


と、ここのネタはしまっておこう。

 

物語は、照山の葬儀に参列するために京都にきたものの、菜穂に会うこともなく、自分の子供にあうこともなく、京都駅から去ろうとする一輝の姿で終わる。

 

京都言葉がでてきたり、夏の京都の暑さ、涼の取り方など、着物、お茶、書道、、、京都らしさを感じられる一冊でもある。

菜穂の中にある、強い意志、樹の中にある描くことへのほとばしる情熱。

あぁ、こういう、ハッピーエンドもあるよな。
というのと、
あぁ、こういう、しょうもない男もいるよな。
というのと。
色々な感情が湧いてくる一冊だった。

いやぁ、面白い。
すごいこと考えるなぁ。。。

 

そして、好きなことに素直に情熱をかたむけられるって幸せなことだな、と思う。

やっぱり、原田マハさんの作品は、元気をもらえる。
え~作品やなぁ、って感じ。

男の人が読むと、女って怖いな、って思うかもしれない。
そう、女というのは、たくましく、美しいのだ。
守るべきもののためには、今あるものを捨てる覚悟ももてちゃうのだ。 

 

原田マハさんは、きっと彼女自身が強い意志を持った方なのだろう。

可愛らしい雰囲気のお顔だけど、知性と想像力にあふれている。

素敵な人だな、って思う。

 

素敵な人の素敵な作品。

よかった。

 

読書は楽しい。

 

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『異邦人 いりびと』