「オリーヴ・キタリッジ、ふたたび」 by エリザベス・ストラウト

「オリーヴ・キタリッジ、ふたたび」
エリザベス・ストラウト 著
小川高義 訳
早川書房
2020年12月20日 初版印刷
原書:「OLIVE, AGAIN」 2019

 

おいおい、なんなんだこの本は。
あっという間に読んでしまった。

 

アカデミーヒルズでおすすめの本だったので読んでみた。
前作の、「オリーヴ・キタリッジの生活」を読んで、即、本書を読んだ。


前作同様に、オリーヴを取り巻く様々な登場人物がでてくる短編集。

11年ぶりの続編。


逮捕
産みの苦しみ
清掃
母のない子
救われる

散歩
ペディキュア
故郷を離れる
詩人
南北戦争時代の終わり
心臓
友人

今回も、13の短編集。


以下、ネタばれあり。

 

前作の最後までに、オリーヴは夫のヘンリーを亡くしている。
そして、前作、最後の短編「川」で、ハーヴァード大学の出のいけすかない男、ジャック・ケニソンと出会っている。
そして、本作、最初の短編「逮捕」では、ジャック・ケニソンが、主人公。

本作の中で、

オリーヴは、ジャック・ケニソンと結婚する。

オリーヴは、二人目の夫を亡くす。

オリーヴは、周囲に一人暮らしは危ないと言われるほど年を取る。

オリーヴは、療養所に入所する。

オリーブは、色々不具合がでてくる。

それでもオリーヴは、息子クリストファーを、友人を、いつも心で思っている。

 

二作と通じて、オリーブは、40代から80代になっていると思われる。

二人の夫に先立たれる。

息子の二人目の妻に、自分と重なるものを見出す。

嫌悪。

人様の前で、息子のことを責める嫁。

あぁ、自分も、クリストファーが幼いころに人前で叱っていたかもしれない。

嫌なやつ。

そう、自分も、嫌なやつだったんだ。

でも、そんな自分と似た人間を嫁にした息子。

しずかに、そんなことを考えるオリーヴ。

 

 

一人目の夫、ヘンリーが卒中で倒れて目が見えなくなり、数年間の療養所生活をしている間、なんだかんだいって、ヘンリーを毎日のように見舞っていたオリーヴ。

「はやく逝ってくれたら楽なのに」と憎まれ口をたたきながらも、痴呆もはじまり、オリーヴに感謝の言葉も言えなくなっているヘンリーのもとへ、通っていたオリーヴ。

 

 ジャック・ケニソンと結婚しても、ときに

「ヘンリーに会いたい、ヘンリーに会いたい、ヘンリーに会いたい」

と、叫びたくなるオリーヴ。

 

ジャック・ケニソンがいやになったとか、そんなことではない。

 

もう、手に触れることのないものに、飢える気持ち。

 

2作を通じて、たくさんの人が死ぬ。

父を亡くした娘。

妻を亡くした夫。

夫を亡くした妻。

 

もう、触れることのできない人のことを思い続けてもいいのだ。

そんなことを、改めて思わせてくれる本だった気がする。

 

最後の短編「友人」では、老いていくオリーヴとその友人。

美しい老いでもない。

肉体的機能の衰え。

認知機能の衰え。

それでも、オリーヴは、オリーヴなのだ。

 

美しい友情物語でもない。

人の老いの物語かもしれない。

 

作者エリザベスは、1956年生まれというから、本作が出版された2019年で60代前半。

前作に比べて、本作のほうがさらに人間臭さが際立っている。

なんだかんだ言いながら、オリーヴのことも気になる息子クリストファーの成長ぶりも、なかなか、いい味わい。

 

面白い本だ。

若い人には、かったるいかもしれない。

50代の私には、じんわりと、心に響いてくるものがあった。

 

まぁ、いっか。

それでも、人生捨てたもんじゃない。

そんな感じ。

ぼちぼち、やっていくのも悪くない。

オリーヴなら、にこりともせずに、いいそうだ。

「まぁ、悪くないね」

 

なかなか、よい本でした。

10年後に読み返すと、また違った感想かもしれない。

そんな、長い時間をかけてじんわりとしみいる本のような気がする。

 

まったりとした本が続いたので、なにか、アグレッシブな本が読みたくなってきた。

読書って、楽しい。