「海の怪」 by 鈴木光司

「海の怪」
鈴木光司 著
2010年9月10日 第一刷発行
集英社

 

海の岩場の白い波のモノクロっぽい表紙。

図書館図書館の特設棚に並んでいたが目についた。
夏の怪談シリーズみたいな感じの棚だった。お化けとか、幽霊とか、、、。
その中に、 「鈴木光司」の名前を見つけたので思わず手に取ってみた。

 

鈴木さんといえば、あのおどろおどろしい貞子が井戸から這い出してくる「リング」の原作者。
ホラーものとか怪談とかあまり私の好みではないのだけど、「海」というタイトルと表紙の写真が気になってつい手に取ってしまった。


私も、かつて、学生時代はディンギーヨットで一年中海の上にいたので、海の上でのうっかりで、簡単に命を落とすかもしれない危うさや、沈(ヨットがひっくり返ること)して水に沈み、水上の景色を水の中から見た記憶があるので、「海」というものに、憧れと畏敬の念との両方を持っている。


自分の経験で命の危機として一番怖かったのは、完沈(ヨットが完全に真っ逆さまになって、マストが下になってしまう状態)して一緒に乗っていた仲間が、ロープが絡まって海面に顔を出せずにもがいている姿を、舟のへりにつかまりながら、見つめてしまったこと・・・。結果的に、いったん、ひっくり返った船体の下に戻って空間にできた空気をすって、でなおしてきて、事なきを得たのだが。。。あの時、とっさに船体下にたまっている空気を吸いに行くという機転がきいていなかったら、私は、溺れ行く人を何もできずに見ていたかもしれない。あぁ、今思い出しても、ぞっとする。
陸に上がってからも、そんなことがあったことは誰にも言わなかった私たち・・・・。

 

そう、海は広く、大きく、そして怖いところなのである。

 

鈴木さん自身の25年に及ぶ自身の航海経験を中心に、海の仲間や、知人友人から聞いた怖い話、不思議な話、おかしな話などがエピソードとしてここに書かれている。怖がらせるつもりはないと、鈴木さんは書いているれども、十分に怖かった。

 

硫黄島のように、戦争でたくさんの人が死んだ土地の物を持ち帰ってはいけない、とか。あるいはそこに自分の物を置き忘れてもいけないとか。たくさんの生贄の血が流された土地のものも持ち帰ってはいけないとか。
それにまつわる、こわーーーい、話がたくさん出てくる。
離島で、GPSが道から外れていることに気が付いて、マニュアルで訂正しても、どうも、別の地点に導かれる。興味本位でナビの言うとおりに行ってみると、そこには無数のうち捨てられたお墓が、、、。とか。

 

遠洋漁船で船の上での喧嘩から相手を殺してしまった。。。海では、腐敗防止というか船上の衛生管理のために、遺体を海に流してよいことになっているらしい。それでは、遺骨も持って帰れないので、近くの無人島に寄って、みんなで亡骸を火葬した。いつも人のことを蹴っていたその人の右足首だけが、いつまでも燃えずに残ってしまい、、。

思わず、つかんで海に放り投げた・・・・。ぞぞっ。。

もちろん、彼は殺されたのではなく、事故死だったと陸で報告された。。。

 

図書館で借りて、近くのカフェでランチかたがた、本をペラペラめくっていたのだが、思わず本にすいこまれて、コーヒーをおかわりしつつ、あっという間に一気読みしてしまった。


ぞくぞくって、冷房のせいだけではない鳥肌がたった。。。

 

怖いもの好きな方は、どうぞ、手に取ってお読みください・・・。

 

ちなみに、エピソードの一つに、海に梅干しの種を捨ててはいけない、というのがでてくる。


鈴木さんは、室戸岬の沖合をヨットで航行している時、「梅干しの種を捨てると海が荒れるから、梅干しの種を海に捨てちゃダメですよ!」という仲間の忠告に耳を貸さずに、面白がって梅干しの種と次から次へと海に投棄した。
そして、天気が急変する。突風に見舞われて、とっさにロープも持たずに立ち上がろうとして、、、あわや大惨事。。。。船の上では、必ず体を何かとつないでおかないといけないのに、とっさのことで、、、。仲間にぐっとつかまれて冷静さをを取り戻し、
無事に帰港できたのだが、一歩間違えば、、、という状態だったという。

海には、魔物がいる。。。

 

私は、初めて聞いた。
海に、梅干しの種を捨てちゃいけないそうだ。
今度、釣りに行くときは梅干しの種をとったおむすびをもっていこう。。。

 

ちなみに、この梅干しの種と海の話を、ちょうど電話をかけてきた80歳を過ぎている母に知っているかと聞いてみた。
母方の祖母の実家は、水産関係の仕事だったので、祖母から海にまつわる話を時々きいていた。
母曰く、
「しらない。でも、梅干しの種の中を食べると馬鹿になるから食べちゃダメっていわれた。子供の時よく食べたけど。」といっていた。
「そっか、だから、こんなんなっちゃったんだね。」と、もともと天然ボケな母に返しておいた。
親不孝な娘です。
加えて母は、「そんな怖い本を読むとお化けがでるからよしなさい」とも言っていた。
さて、それは賢者のアドバイスか?!
まぁ、元気でいてくれるのが一番。

 

海の怖い話を読みつつ、陸でのんびりできるありがたさにちょっと感謝。。。

 

夏の暑い日に怪談って、なんか昭和な夏だな、、、と思った午後でした。