福島復興から生まれたもの  特定非営利活動法人 しんせい

福島復興から生まれたもの
特定非営利活動法人 しんせい

 

2019年に、とある会の会合で、特定非営利活動法人「しんせい」の富永美保さんにご講演いただいたことがある。
先日、2年ぶりにお会いし、お話を伺う機会があった。社会からの復興支援に依存するのはなく、自らの成長へと舵をきった「しんせい」に、勇気をもらった気がした。

特定非営利活動法人「しんせい」は、2011年3月11日の震災の後、福島復興支援として活動を開始した。被災した障がい者への支援活動である。

今、「しんせい」は、就労継続支援B型事業所。

*就労継続支援B型事業所: 通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して行う、就労の機会の提供、及び生産活動の機会の提供、その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、その他の必要な支援事業のこと。

shinsei28.org

 

富永さんは、もともとはボランティアとして活動に参加されていたのが、今では理事長。

 

わたしたちが講演を依頼した2019年頃には、すでに社会の東日本大震災復興支援への関心は薄れ始めていた。
2011年以降にも、

2014年8月:豪雨による広島市の土砂災害

2016年:熊本地震

2016年:台風第7号、第11号、第9号、第10号及び前線による大雨・暴風、、、、、。

きりがないほどたくさんの災害が発生してきたこともあり、社会は福島にだけ目を向けているわけではなくなった、という事もあっただろう。

 

当時、会合の幹事団として一年に一度のイベントのネタ探しをしていた私は、特に福島のことに大きな関心があったわけではなかった。私も、関心が薄れていた一人だった。ネタに困った私が、「100人規模のイベントのネタ、何かよいの無いかなぁ」とボヤいていたところ、復興支援を継続していた知人が、タイミングよくネタをくれた。

そう、それは確かにみんなの関心事ではあるはず。そして「福島復興」をテーマにし、福島県関係者の方々に講演をしていただいた。震災の後、福島の日本酒造りは、多くの酒蔵や大学の研究室で協力し合って、「全国新酒鑑評会」で金賞受賞数No.1になった話。多くの酒蔵は、「秘伝」を守るために他蔵との技術共有はしないものだが、震災が協働を促し、その成果が結果となって表れた話に感動した。みんなで福島の日本酒を堪能したのは言うまでもない。

そして、~leave no one behind (誰ひとりおきざりにしない)社会を目指して~という「しんせい」の活動の話。心から、応援したいと思える、押しつけではない共生、地道な活動だった。

当時の「しんせい」は、メンバーの手作りの工芸品を売っていた。刺繍のついた布の小物など。でも、震災から月日が経つにつれ、「復興支援のために何かを買おう」という興味は薄れつつあった時期でもあった。2018年以降、「「しんせい」の売り上げは右肩下がりだった。その内情は、今回、初めて聞いた。


そんなころに、富永さんは、復興支援にもっと力をいれてもらいたい、と政府にうったえに行った。知り合いを通じて、そこそこの立場のお偉い政治家さんに。すると、政治家に言われたのは、「もう、復興支援にたよるのではなく、自立する道をさがしなさい」ということ。支援を増やしてくれとお願いしに行ったのに。
それは、厳しい言葉だっただろう。
でも、それはそうかもしれないと思い、自立への模索を始めた。

そこから、「しんせい」の自立への挑戦が始まった。

 

今は、自らの農地でブルーベリーを育てている。数年後には、収穫したブルーベリーで6次産業ができるはず。

くわえて、農福連携事業をスタート。

彼らが取り組んでいる農福連携事業は、障がい者が直接農地で仕事をするのではなく、地域の農家が収穫した作物を、彼らが加工する、という連携だ。

どこの農家も抱えている課題として、”規格外作物”の廃棄がある。小さすぎたり、形が悪かったりして、市場に出回らない作物だ。
しんせいは、それらの規格外作物をレトルトカレーにすることで、農福連携事業を行っている。

みじん切りにしてしまえば、小ささも形のわるさも関係ない。
かれらが今つくっているのは、「山のにんじんカレー」。農園の野菜に、国産の大豆ミートと和牛・豚肉(国産)を加え、油や塩分を控えた身体に優しいカレー。
油分が少ないので、温めなくても美味しく食べられ、防災食にもなる。

震災のあと、毎日、おむずび、菓子パン、おむすび、菓子パン、、、の経験が防災食にもなるレトルトカレーへの発想につながった。

また、食事制限(カロリー制限)のある人のことも考えて、一食200カロリーというヘルシーさ。

実は、販売され始めてから、私はすっかりリピーターで購入している。

Yahooと連携されているので、「Yahoo しんせい」で検索すると、Yahoo!ショッピングから購入できる。


美味しい。
優しい味でいて、ちゃんとカレーの辛さもある。スパイスがいい仕事してる!って感じのヘルシーカレーなのだ。

だが、値段は、高い!
一食、180g、500円。
それでも、工賃としてメンバーのお給料になるのは、200円程度だそうだ。大量生産しているわけではなく、お鍋で手作り。手作り袋詰め。レトルトにするための高額なレトルト機のレンタル代。レトルト用の袋は、90円/袋。

 

レトルトカレーを100円で売っている企業の人に、「作る意味あるのですか?」と聞かれたそうだ。

富永さんの答えは明確だ。
障がい者がともに働く場の提供のために作っている。」

 

それでも、利益がなければ、事業としてはやっていけない。ただのボランティアではない。自立するために始めたのだから。だから、高くても売れるレトルトカレーを作り続ける。大量生産はできない。少量手作りだからこそ、価格は下げずに、それでも買ってくれる人に買ってもらえればいいという。

 

少しでも、働く彼らの工賃があげられるように、新しい事業にもこれから取り組んでいくとのこと。

コロナもあって、以前のように多くの人に「しんせい」(@郡山)に立ち寄っていただくことが難しくなってしまったが、2022年以降は、「ボラケーション」、ボランティアとワークとバケーションのミックス?!?のような事業を考えているそうだ。

 

障がい者雇用を、どうしたらいいのかわからない、という企業の方々に、障がい者と触れあっていただく機会をつくることで、その壁をなくせる可能性がある。実際に、これまでの活動で、「知らなかっただけで、一緒に過ごしてみれば、なにが必要なのかが少しわかるようになった」というご意見をいただいているそうだ。

 

小さな活動かもしれないけれど、私にできることで応援していきたいな、と思う。

応援しているという、自己満足かもしれないけれど、小さな一歩で世界が広がることがある。

福島復興支援は、やはり、私にとっては日常ではないけれど、たまには、日常でないことに時間を使うのは、アタマに新鮮な空気を運んできてくれる。

12月で、そこそこ忙しいなかではあったけれど、ふたたび「しんせい」の話を直接聞けて良かったな、って思う。

 

最近、目の前のことに追われていたかもな、なんて思ったりもした。

 

「しんせい」はこれからも、障がい者と社会との「橋」を架け続けている行くことを目標にしている。原発事故で孤立したときに、自分たちが自ら「橋」を無くしてしまっていたのかもしれない、と気が付いたから。

 

研修や講演というのは、聞いたその時には、うんうん、そうだそうだ、と思っても、その思いは長く続かなかったりするものだ。でも、忘れても、また、思い出せばいい。

 

目の前のことに必死で、足元ばかり見つめていると、誰かがかけてくれた「橋」も見つからず、いつまでも同じ岸を歩いているかもしれない。時には、視線をあげてみよう。

 

世界は、広がっている。

2022年に向けて、さらに世界を広げる準備をしておこうと思った。

 

自分の人生は、自分で考えて、自分で決める。

 

 

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