『戦略がすべて』 by  瀧本哲史

戦略がすべて
瀧本哲史
新潮新書
2015年12月20日 発行
(初出:日経プレミアPULS、新潮45、2014年8月~2015年5月)


図書館で、目に入ったので借りてみた。瀧本さんは残念ながら2019年に47歳の若さで亡くなってしまったのだが、もと、エンジェル投資家。『ミライの授業』(講談社 2016)とか『僕は君たちに武器を配りたい』(講談社 2011)とか、私にとっては星5つ、と思える本を書かれている人。どちらも若者に薦めたい本。

 

Megurecaの中では、『起業の天才! 江副浩正』 by 大西康之、で、瀧本さんのコメントを紹介したことがある。
megureca.hatenablog.com

 

その瀧本さんの2015年の本。

 

表紙の裏には、
”ビジネス市場、芸能界、労働市場、教育現場、国家事業、ネット社会、、、どの世界にも各々の「ルール」と成功の「方程式」が存在する。ムダな努力を重ねる前に「戦略」を手に入れて世界を支配する側に立て。『僕は君たちに武器を配りたい』がベストセラーとなった稀代の戦術家が 、AKB 48からオリンピック、就職活動、地方創生まで、社会の諸問題を緻密に分析。我々が取るべき選択を示唆した現代社会の「勝者の書」。”
と。 

今の私には、”勝者になりたい”なんて野望もないので、ちょっと違うかな?とおもったけれど、2015年の本、瀧本さんの歴史を振り返るような気持で読んでみた。目次に書いてあることだけでも、結構なインパクト。

 

目次
Ⅰ ヒットコンテンツには「仕掛け」がある
Ⅱ 労働市場でバカは「評価」されない。
Ⅲ 「革新」なきプロジェクトは報われない
Ⅳ 情報に潜む「企み」を見抜け
Ⅴ 人間の「価値」は教育で決まる
Ⅵ 政治は社会を動かす「ゲーム」だ
Ⅶ 「戦略」を持てない日本人のために


感想。
うん、やっぱり、勝者をめざす若者に向けた本だ。
時代も、2015年なので、もちろんコロナもないし、この7年間で様々な変化もあったので、斬新さにはかけるけれど、「戦略」とは何かを考えるには、良い一冊。
そして、働くとはなにか、どう働くべきか、ということを考えるには、誰にとっても参考になる一冊だと思う。
やっぱり、瀧本さん、軸がしっかりしていて、思考にぶれがないって感じがいい。


労働市場でバカは「評価」されない、なんて、それを言っちゃおしまいよ、なんだけど、その通り。「バカ」というのは、学校の成績のことではない。社会の仕組み、現代で言えば資本主義のルール、技術革新の未来、などにアンテナをはっているかどうか。現状維持にしがみつき、蛸壷のなかでじっとしているのが、瀧本さんのいうバカ、かもしれない。つまり、変化を恐れるな、ってこと。

 

瀧本さんは、変化を担うのは若い世代、といってパラダイムシフトの話をする。パラダイムシフトは、素晴らしい発見があればおこるのではなく、世代交代なのだと。
世の中の常識が、「天動説」から「地動説」へとパラダイムシフトしたのは、ガリレオ・ガリレイをはじめとする科学者たちが地動説の正しさを証明したからではない。天動説を信じる人がほとんど死に絶え、地動説を信じる人たちへと、世代交代したからだ、と。

これは、まさにその通りであることを、社会だけでなく、会社という小さな組織の中での変革でも実感する。会社の仕組みを何か変えようと思っても、文化として変化するのは10年単位だ。古いやり方のマネージメント層が定年退職で去っていくことで、文化がちょっとずつ変わっていく。焦って変えようとすると、たいていろくなことにならない。不毛な勢力合戦になったり、、、そのしわ寄せは若い世代に降りかかりがち。

だからこそ、世代交代で次の主役になっていく若者が、将来は自分たちが主導してく!というおもいで、年長の責任ある役職の人をとりこんで、その人をたてつつも、実質は自分たちが主導していく「技」を身につけてほしい、と瀧本さんは書いている。

そうなのだ。
まさに、その「技」なのだ。
年寄りは引っ込んでろ、若者の私たちがやる、ではだめなのだ。
のけのけ、そこのけ、ではなく、若者であっても、関係者の協力を得て物事を進める「技」をもつと、ほんとに、強くなれると思う。
瀧本さんのいうところの、「勝者」になれるとおもう。

 

個人的感覚でいうと、年配者だけでなく、周りの人をたてるのがうまい人と言うのは、家族や両親を大事にする人が多い。あるいは、多様な世界を持っている人。
おべっかということではない。本当に、仲間を巻き込んで牽引していく人。
人の強みを見出す能力も「技」の一つかもしれない。

そして、若者よ、確実に世代交代はくるのだ。
だから、あせるな!
君たちの時代は、何をしても、しなくても、やってくる
だったら、自分の目指す社会にするために、今できることをすればいい。

 

若者だけの世界も、ある意味蛸壷だ。だれもが年をとるのだ。若い時から年寄りと付き合っておくのも悪くない。年寄りは年寄りで、若者とも付き合った方がいい

 

心地のいい世界、意見の合う人としか付き合わないと、自分の世界は狭くなってしまう。「みんな同じ意見だ」という世界につかっていると、「私の意見は正しい」と勘違いしてしまう。

会社もそうだ。自社の常識は、他の会社の非常識。我が家の常識は、他の家族の非常識。

どっちが正しいとかいうことではなく、多様なのだということが当たり前と思える環境に普段からいれば、視野狭窄にはなりにくい。

アラン・ブルームの「教養の一つの機能は、他の考え方が成り立ちうることを知ること」という言葉が引用されている。
多様な人々と付き合う事。多様な情報に触れること。それが本当の教養を身に着けること。
インターネットの情報は、すでにアルゴリズムで私たちがクリックした情報関連に絞られている。だから、ネットだけに情報源を頼るのは危険だ、とも言っている。
つよく、共感。

視野を広げるには、旅、本、が本当は一番よいのだよなぁ、と、つくづく思う。
2022年こそ、自由に旅ができますように。


政治は社会を動かす「ゲーム」だ、では、資本主義の本質が語られる。資本主義は、資源配分の効率を高めることで「全体」のパイの拡大に最適化されているが、そのプロセスで「全員」がうまくいくわけではない。むしろ、優勝劣敗によってシステムを新陳代謝させて全体効率を高めているのだと。規制緩和によって、「勝ち組」と「負け組」の格差を拡大させる一方で、財政を通じて所得再配分を行う。
たしかに、そういうことだ。
そして、大事なことは、所得再配分を行う際、それは企業の敗者をすくうのではなく個人を救うべきだと。大賛成!!!
公的資金投入で、倒産を免れた会社は沢山あるけれど、本来、淘汰されるべき社会で、必要とされるものを生み出せなくなった会社を公的資金で守るのは、違うだろう、、と思う。
いわゆる、ゾンビ会社を生み出すことは、一時には失業者を出さずにすむかもしれないけれど、、、。
瀧本さんは、淘汰されるべき会社資金を投入するのではなく、その企業につとめていた「失業者」に対して、新しい雇用を提供できる「新規企業」が生まれるようにする、あるいは失業期間に生活費を給付するなどの形で支援をする必要はあるが、淘汰されるべき企業を支援するのは全体の効率を下げるので好ましくない、と言っている。

 

企業も、個人も、コモディティ化してしまうと、競争力がなくなり、淘汰されていく。テクノロジーの進化のスピードに合わせて、自分もスキルアップしていかないと、気が付くと自分がコモディティになってしまう。負け組になりたくなかったら、常に自分をブラッシュアップしていけ、っということなんだろう。
まぁ、それも、なんだか、しんどそうな世界だけれど、人間の本質として自己実現への歓びがあるのだから、楽しんでスキルアップすればよいのだよね、と思う。


そして、コモディティ化ということでは、政策のコモディティ化も進んでいるという。どの政党も同じようなことを言っているので、政党を差別化するためにはよりニッチな極端な政策を選ぶしかなくなってきている、と。
原発反対だけを訴える党とか、NHK批判だけを訴える党とか?!?!あ、この本のころには、NHK党は存在していなかったか。瀧本さんが生きていたら、何と言ったか。
そして、人々は、政党のかかげる政策よりも、イメージで選ぶようになっていく、、と。
たしかに、年々、選挙で悩むようになっている気がする。
どこに投票したいか、というより、どれがましか、、、、と。

 

最後に、”Ⅶ 「戦略」を持てない日本人のために”から、瀧本さんのまとめを覚書。

・「戦略で勝つ」とは横一列の競争をせず、他とは違うアプローチを模索すること。
・日本の組織の多くは、意思決定能力の低い人が上に立つ構造になっている。
・理論や手法を学ぶだけでなく、「実践」の場を何度も経験することが重要。
・ 日常的に身の回りのことを「戦略的思考」で分析する習慣を身につけよう。

 

ちょっと、最後にまとめに飛躍してしまったが、やっぱり、自分の頭で考えて、行動することだ。上の言っていることが正しいとは限らない。言われたこと、聞いたこと、読んだこと、なんでも一度はそのまま受け止めて、自分のあたまでちゃんと考えてみる。それが大事だと思う。

 

人生の戦略は、年単位で。
年単位の戦略は、月単位で。
月単位の戦略は、一日単位で。
そして、一日の戦略は時間単位で。

毎日ではなくても、時々、そうして考えてみれば、自分の時間は豊かになっていく。
戦略というと、難しそうだけど、
自分の時間を何に使うか、それを考えるのが一番大事

それこそが、人生の戦略。

人と比べる必要もなければ、競う必要もない。

自分の人生は、自分で考えて、自分で決める。
それが、戦略の一つだ。 

 

そう、やっぱり、

自分の人生は、自分で考えて、自分で決める。

 

『戦略がすべて』