『世界史の分岐点』 by  橋爪大三郎、佐藤優

世界史の分岐点  激変する新世界秩序の読み方
橋爪大三郎佐藤優
 SB 新書
2022年1月15日 初版第1刷発行

 

本屋さんの平積みで目に入ったので買ってみた。
表紙の帯には、
「経済・科学技術・軍事・文明、危機の時代に備える必須教養
100年に1度のターニングポイントが迫る」
とある。

ターニングポイント、つまり「世界史の分岐点」ということだ。 

橋爪さんは、1948年生まれ、社会学者。
佐藤さんは、1960年生まれ、作家元外務省主任分析官。

この二人は、『あぶない一神教』でも、共著。橋爪さんの社会学者としての宗教や地政学への迫り方と、佐藤さんの神学プロであり最高インテリジェンスとしての知識と、きっと、面白い本に違いない、と信じて、990円(税別)の投資。

 

感想。
面白かった。


トピックとして、経済・科学技術・軍事・文明の4つなのだが、それぞれをばらばらにしても一冊ずつ本にできると思う。
本書は、それをコンパクトにまとめてくれている感じ。SB新書らしい、かな。

 

目次
第1章 経済の分岐点  アメリカ一極集中が終わり、世界が多極化する
第2章 科学技術の分岐点 人類の叡智が、新しい世界を創造する
第3章 軍事の分岐点 米中衝突で、世界の勢力図が塗り変わる
第4章 文明の分岐点 旧大陸の帝国が、覇権国の座を奪う


経済の話では、アメリカに代わって、中国やインドなども経済大国になりつつあり、グローバル化がすすむ中で、一極集中はもはやおしまいだろうと。

中国の経済グローバル化の流れの中で、台湾よりもウイグル地区の問題の方が、実は中国にとっては脅威だという。
台湾は、もともと台湾として独立していたものを中国が取り込もうとしているので、プラスの効果を狙っている。一方で、ウイグルはもともと中国なので、独立されると失ってしまうから、マイナスの効果になると。
日本のメディアでは、台湾問題ばかりがとりあげられているけれど、実は中国の急所はウイグルだと。

なるほど。そうなんだ。

 

東京一極集中については、コロナもあってやや分散の傾向があるけれど、佐藤さんは、やはり富裕層は東京から動かないだろう、という。その理由が面白い。
「皇居が東京にあるから」、と。
あぁ、、、、なるほど、確かに。皇居、バッキンガム宮殿、クレムリン、、、そういうところに政治、経済、軍事、国際、、、すべての情報が集まってくる。いくらインターネットがあっても、人と人の間で直接かつ即時に交わされる情報の価値というものがある、と佐藤さんはいう。
なるほど。
確かに。と思った。

人と人が直接って、やっぱり大事なんだって、コロナがあって気が付いたこともある気がする。私が参加しているとある会合では、こだわってリアル会場で勉強会を続けてきた。3密をさけて、なので、大きな会議室にポツンポツンと人がいる感じだけど。やっぱり、人の熱量みたいなものは、画面越しでは伝わりにくい。リアルに会って話した情報はカラーだけど、ネットの画面越しの情報は、白黒。。。そんな感じがする。

あと、発言がその時の空気感とか視覚情報といっしょに記憶されるので、ネット越しの発言よりも、色付きな感じで、記憶に残りやすい気がする。

 

そして、経済成長というのは付加価値をつけていくということで、やはり先端技術が必要というはなし。だから、大学教育が重要。教養を身に着けた人は、公共を支える気概、「ノブレス・オブリージュ」の意識が必要ということ。「ノブレス・オブリージュ」の意識を持たせるのも教育だという。「持てる者には、責任がある」、という教育。
共感。

日本では、どうなんだろう?

あんまり、ノブレス・オブリージュを教育するということは無いような気がする。。。

だいたい、ノブレス・オブリージュという言葉自体、ここ10年くらいで言われるようになったのではないだろうか。。。。私のアンテナが最近立っただけかもしれないけれど。

松下幸之助とか、渋沢栄一とか、特別の人がすることではなく、当たり前のことのはずなのに。

ノブレス・オブリージュに相当する日本語が単語としてすっとでてこないのだから、やはり、武士道みたいに従来からの日本の考えともちょっとちがうのだろう。

 

教育という話から、儒学の話に。

江戸時代、儒学は、貧しい身分でも学ぶことが出来た。そして、学んだ人は日本国の建国のために立ち上がった。
学ぶのは、自分の為ではなく、公共の為なのだ。
確かに、儒学って、そうだった。

ノブレス・オブリージュを実践していた時代もあったという事か?


経済と教育。切っても切り離せない。
国家のありようは、教育ってことなんだな。
だけど、文科省に任せていても、何も変わらない、、、とおもっちゃう。
私の身近で、寺子屋のような学びの場の提供を始める人が増えている。
学びの機会は、平等であるべきだ。

経済成長には教育、そして、経済と社会を支えるには哲学
やはり、哲学。
哲学のない経営者は持続可能な成長をもたらさないものね。

マーケットは、利益で動く。
家庭、教育、医療、行政は、利益ではなく哲学で動かす
皆で議論して、これが正しいのかと常に検証する。
そこには「反証主義の理解」が必要という。

反証主義とは、そのことが正しいか正しくないか、双方の視点から議論するということ。後半の議論の中で、日本は「反証主義」がやりにくいという話がでてくる。
誰かの発言について、反対意見をいうのは、失礼に当たる、、という雰囲気があるから。
それは、よくわかる。

意見を言った個人について、反対しているわけではないのに、なぜか個人が否定されているように感じる。自分の意見を否定されると、自分が否定されているような気がする。
これは、何故なんだろう??

そして、反対意見を持っていても、だんまりになってしまう。
それでは、建設的な会話、議論は成り立たなくなってしまう。
ディベートの訓練に慣れていないからなのか、、、、。

そして、声の大きい人の意見に流される。。
そして、失敗。。。

そうならないようにしないと、と思う。

冷静に、意見を表明しよう。


自分自身のことをなにか判断するときも、両面から考えるって大事だ。
哲学なんだな、それが。

橋爪さんは、日本は日本語で哲学が語れる国、日本語で哲学が考えられる国。
だから、まだ「哲学の言葉」で、みんなが議論できる国になれる可能性はあるという。
たしかに、日本語に翻訳されている外国の図書もたくさんあって、母国語で色々学べるというのは、すごく恵まれたことなのだ。

 

本来、日本語に変換できるものをカタカナで済ませるのは、知的堕落、、、と、橋爪さんは言っている。
ちょっと、耳が痛い。

ちなみに、通訳でも英日通訳をしていて、意味が分からない専門用語はカタカナ出しをすればいいと言われる。でも、動詞をカタカナで出すのは怠慢、、、と言われる。

普通に日本語で会話しているのに、やたらとカタカナ動詞を使う人っていうのも、、、、スマートじゃないな、と感じてしまう。

「ステイホーム」も、いかがなものか、、、、と、個人的には思っている。

普通に、「お家で過ごしてください」、っていえばいいじゃない。

 

科学技術の話では、環境、再生可能エネルギーの話へ。環境問題は、本当に長期考えないと、、、。自分の時代だけを考えたら、今の石油をつかいきればいい。。。でも、そうじゃないことを、理性ではわかっている。東日本大震災の後は、みんな省エネにも気をつけた。でも、2022年の今、どれだけ省エネの意識があるだろうか。。。

 

民主主義は将来世代の利害を反映する方法がない、、っていうのは、重要な問題。

日本の選挙で、高齢者の投票率が高くて、若者の投票率が低いから、将来に向けた提言が通りにくい、、、ってういうジレンマは、その縮小版か?!

 

再生可能エネルギーとして、本当に有望なのは核融合だ、という話が出てくる。太陽光も風力も、安定供給には課題がある。核融合は、原子力発電とは全く異なる。

核融合は、核融合反応からエネルギーが生まれる。原子力発電は、核分裂のエネルギー。全然違うものなのだ。

核融合発電では、重水素をヘリウムに融合させる。分子量のちっちゃい原子を融合させるのだ。原子力発電は、分子量の大きな原子が分裂する反応。全然違う、真逆とも言っていい反応。三重水素(陽子2個と中性子3個)が融合してヘリウムになると、高エネルギーの中性子がでてくる。その中性子をキャッチして熱に変換して発電する。熱で蒸気をつくって、タービンを回して発電。プラズマを閉じ込めて、核融合を安定的に連続的に起こすことが出来るようになれば、夢の核融合発電技術ができあがる、はず。

いまは、まだ、基本設計段階らしい。

 

核融合のための資源は、海水中に豊富にある。放射能もでなければ、軍事転用もできない。なのに、「核」とついただけで、拒絶反応を示す人がいるという。。。

「ワクチン」というだけで、拒否反応をしめすのと、いっしょか?!?!

専門家というのは、こういうちょっとむずかしいことを、みんなが正しく理解できるように説明できるひとのことだよな、、、と、思う。

 

あと、量子コンピューターの話題が出てくる。私が生きている間に量子コンピューターは一般普及するだろうか?仕組みはともかく、べらぼうに速くなるはずだ。

私が子供のころ、技術者だった父がメモリーを3次元にできればいまよりずっと速いコンピューターができる、といっていた。ちょっとちがうけど、ちょっと近い。従来のコンピューターは、0と1の演算単位(ビット)。量子コンピューターは、0と1に加えて、0と1の重なり状態も演算単位(量子ビット)になる。具体的に量子を並べて操作する技術が開発のしどころらしい。

 

今は、中国が量子関係の研究が進んでいるらしい。ちょっと、怖い、、と思ってしまう。

中国が進んでいると言えば、宇宙開発も。ちょうど、2022年1月、NASAが宇宙ステーションの使用期間延期を2024年までの予定から2030年までの延期を発表したところ。中国は独自の宇宙ステーションを開発している。中国の優秀な研究者は、最終的にはすべて党中央に管理される。。。その技術使用方法がどうなるのか、ちょっと、怖い。。。

日本では、宇宙法の専門家は、青木節子さんとい方、一人しかいないそうだ。

宇宙法、国際関係論の法学だそうだ。そういうものがあること自体知らなかった。

 

と、ここまで、半分くらい要約していたら、4000字を越えてしまった。。。要約になってないな、、、、。

あとは、軍事と文明の話。そこから、地政学の話。東西冷戦の話は、今のロシアによるウクライナ侵攻の意味を理解するにも助けになる。

 

実に、多岐にわたる面白い本だ。

核融合量子コンピューター、宇宙法、ロシア、、もっと知りたいことがたくさんになってしまった。

 

これで、990円は、お買い得。

読書は楽しい。

 

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『世界史の分岐点』 橋爪大三郎 佐藤優