同志少女よ、敵を撃て
逢坂冬馬 著
早川書房
2021年11月25日 発行
第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。選考委員が全員最高点を付けた、アガサ・クリスティー賞史上、初めての作品とのこと。
2022年2月24年に始まった、ロシアによるウクライナへの侵攻。本件の解説の話題の中で、本書が大戦中のソ連のありようを理解するのに、フィクションではあるけれども参考になるという話を聞いたので読んでみた。
まさに、ドイツと戦ったソ連の狙撃兵の話。同志少女、そう、18歳の少女が狙撃兵に育て上げられ、戦場を経験する話。。。。
表紙カバーの裏には、
「独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?」
著者の逢坂さんは、1985年埼玉県生まれ。2008年、明治学院大学国際学部国際学科卒業。
2021年『同志少女よ、敵を撃て』が、初めての作品。
なかなか、面白かった。面白いというか、充実しているというか、あっという間に読んでしまった。読みだしたら、止まらない。参考文献も含めて、483ページの大作。国際学部出の学びの中で、第二次世界大戦中のことを調べまくったのかもしれない。フィクションではあるけれど、戦争の時代背景は、史実に基づいていると思われる。
ロシア、ソ連にしてみると、自分たちはずっと西側諸国、ドイツから侵攻され続けてきた歴史がある。そのソ連の狙撃兵として戦った一人の少女の目を通して、戦争のむごさを伝えるストーリー。
読み応えがあった。
戦地は、まさに、今のウクライナのあたり。
以下、ネタバレあり。
ストーリーは、1940年5月、ロシアののどかな田舎、イワノフスカヤ村から始まる。主人公の16歳、セラフィマは、幼いころからお母さんと一緒に害獣駆除のために森に鹿狩りに行く。狙撃の名手。村人40人という小さな村。同級生のナイスガイ、ミハイルとは、村中の人がいつか二人が結婚するものと思っている。はにかみながらも、自分たちもそうなるかもしれないと思っている、16歳の少年少女。
ある日、いつものように村人に笑顔で見送られながら、山に鹿狩りに行く。見事にしとめるセラフィマ。お母さんと二人で、獲物を村まで運ぼうと、村を見渡せる丘にやってくると、村の様子がおかしい。
ドイツ軍が、無垢な村人を惨殺し、家に火を放っている。
とっさに、身を隠す二人。お母さんは、セラフィマのライフルを受け取ると、敵を狙撃しようと狙いを定める。お母さんが引き金を引くより早く、、、、お母さんは敵の弾にたおれた・・・。
目の前で、お母さん、村の人々が虐殺されるものを目にしたセラフィマ。セラフィマもドイツ兵に見つかり、家に引きずられる。自分は、殺されるんだと思ったとき、ソ連赤軍兵士たちが爆音を立ててやってきた。指揮していたのは女性指揮官、イリーナ。優しく助けるのではなく、彼女がセラフィマに放った言葉は、「お前は戦いたいか、死にたいか」。最初は「死にたい」と答えるセラフィマ。もちろん、イリーナはそんな言葉を期待して聞いたわけではない。
イリーナは、ドイツ軍が再来して村の物を奪取されないように、セラフィマの母親を含め、村人の遺体、家、すべてのものを焼き払う。。。。目の前で焼かれる母。
セラフィマの心は、「この女を殺す」の怒りに埋められていた。
そして、母を撃った、顔に傷のあるドイツ兵、あの男を殺す。
そのために、私は、今ここで死ねない、、、。
そして、セラフィマは、イリーナにつれられて、狙撃兵としての特殊訓練校の生徒となる。狙撃兵として、敵との距離を目測ではかる訓練、体力訓練、ライフル手入れのための訓練など、、、数々の訓練を通じて、セラフィマは狙撃の腕をあげていく。
そして、戦場へ、、、。
訓練に耐えられずに脱落する仲間。
仲間と思っていた少女が、NKVD、スターリン政権下の秘密警察だったという現実。
初めて人を撃った衝撃。殺人。。。
隣にいた仲間が、一発で殺されている現実。
本書の中で、いくつかの戦場の様子が描写されている。
子供までが殺されていく。
仲間が、殺されていく。
見世物に、市民を公開処刑する。。。。
自分たちを救ってくれた人々も、殺されていく。。。
やられたら、やりかえす。。。。
殺戮を繰り返していくうちに、なにが目的なのかが分からなくなっていく。
停戦で戦地から戻り、赤軍の他の師団と合同合宿をしていた時、なんと、かつてフィアンセとおもっていたミハイルと再会する。でも、ミハイルは、「ドイツ女を楽しんだ」と自慢するソ連兵のことを養護し、同類の男になり下がっているように思えた。セラフィマは、殺したドイツ兵の数を自慢する。変わってしまった二人だった。
また、その合宿所で、イリーナの元同僚であり、伝説の女性狙撃手であるリュドラミの訓示を受ける機会があった。その講演の最後、何か質問は?というリュドラミに、セラフィマの少女狙撃手仲間がきいた。
「戦後、狙撃手はどのように生きるべき存在でしょうか」
リュドラミは、
「第一に、戦後のことを考えるのは早い。ドイツ降伏の日まで気を抜くな」といって、一息つき、
「私からアドバイスがあるとすれば、二つのものだ。誰か、愛する人でも見つけろ。それか趣味を持て。生きがいだ。私はそれを勧める。」
いかに戦うかの話を散々聞いた後、、、「愛」と言われて、セラフィマの頭の中は乱れる。。。そんなもの、、、、。。
そして、激しいドイツとの戦争は続く。。。。
仲間が、一人ずつ、死んでいく。
仲間を守るために、子供にですら銃口をむけるセラフィマ。
母や家を焼き払った、にっくき上官、イリーナには、いつの間にか信頼を寄せるようになっていた。彼女の指導があったから、自分はここまで生き延びてきた。
イリーナは、セラフィマの家を焼き払う前、自宅にあった両親の写真を大事に取っておいてくれた。。。。この女も、最後は殺すつもりだったのに、、、いつの間にか、その思いは消えていた。
戦闘の終盤、あとは、母を撃ち殺したドイツの狙撃兵を殺せば、セラフィマの復讐は一つの形を収める。でも、そんな時、セラフィマは、中尉に昇格し、中央女性狙撃兵訓練学校教官を任命される。
戦地に行くチャンスがなくなれば、母の敵討ちのチャンスはなくなってしまう。
ちょうど、とらえたドイツ兵捕虜から、討つべき相手の場所を聞きだし、セラフィマは、一人合宿所を抜け出し、敵討ちに向かう。
セラフィマは、最後には、母を撃ち殺したドイツの狙撃兵への復讐もやり遂げる。
そして、ドイツの白旗。
激しい銃撃戦の中、ようやく静けさがやってくる。
ふと街を見ると、ミハイルとその仲間のソ連兵士たちが、ドイツ人女性を取り囲んで、好きにしようとしている。ドイツ兵は、ソ連の女子供をなぶりものにした。だからといって、ソ連兵がドイツの女を、、、。許せなかった。
セラフィマは、ミハイルの頭をぶち抜いた。。。。
仲間を撃つことは、許されない。
その場に居合わせたイリーナは、自分を撃ち殺して、イリーナがやったことにしろ、という。でも、セラフィマの銃は、、、セラフィマ自身を撃ちぬいた・・・。
そして、崩れ落ちたセラフィマ・・・。
セラフィマが目を覚ますと、そこは船のベッド上。。
セラフィマの左手は、親指は付け根からなくなり、人差し指も欠損。。。
でも、生きていた。
仲間の看護師から、イリーナは極東へ行くのだと聞かされる。
ベットから飛び起きて、イリーナのいる場所へ走るセラフィマ。
「いかないで、イリーナ。私は、あなたの側にいます!」
セラフィマを優しく受け止めるイリーナ。そこには鬼教官の顔はなかった。
エピローグで、場面は1978年のイワノフスカヤ村に飛ぶ。イリーナとセラフィマは、村を復活させた。村には子供たちもいる。
山から村を見れば、そこには、必ず人がいる。
そういう村を取り戻したのだ。
セラフィマは、愛も生きがいも手に入れていた。
THE END
戦場の描写が、生生しく、、、ドイツ兵にしても、ソ連兵にしても、、残虐さ、卑怯さ、鬼畜といわれればそうだろう。でも、仲間を守るため。。。。
本当に、つくづく、戦争に勝者はいない、、、と思わされる一冊。
最後、セラフィマが平穏な生活を取り戻すところがこの本の救いかもしれない。
戦争って、いったい、なんなんだろう。。。
負けました。
勝ちました。
って、、、、戦争のない時代に生まれ育った世代には、やっぱり良くわかっていない気がする。
終戦、っていわれたって。
養老さんの『ヒトの壁』の中にも、終戦で教科書を黒塗りさせられた話が出てきたのだけれど、昨日まで信じなさいといわれていたことが、今日からは忘れなさいと言われる。。。
やっぱり、想像できないな、、、、私は、戦争を理解していないな、と思った。
フィクションの小説とはいえ、一つの歴史を垣間見ることが出来る。
どれだけの人が死んだのか。
大量殺戮の時代だったのだ。ほんとに。
繰り返してはいけない。
絶対に、繰り返してはいけない。
はやく、ウクライナからロシア軍が撤退しますように。
ちなみに、ゼレンスキー大統領は、元、コメディアンだそうだ。
少し前までは25%の支持率だったのが、今や91%だと。
がんばれ、ゼレンスキーさん!!
プーチンよ、目を覚ませ。
あなたのやっていることに正当化の余地はない。