『人間はどこまで耐えられるのか 』 by F・アッシュクロフト

人間はどこまで耐えられるのか
F・アッシュクロフト
矢羽野薫 訳
河出書房新社
2008年5月30日 初版発行
(単行本 2002年)
原書:LIFE AT THE EXTREMES

 

何の話で話題なったのかわすれてしまったのだが、ちょっと気になったことが頭に残っていて、図書館で借りてみた。

 

裏表紙には、
「生きるか死ぬかの極限状態で、肉体的な『人間の限界』を著者自身も体を張って果敢に調べ抜いた驚異の生理学。人間はどのくらい高く登れるのか、どのくらい深く潜れるのか、暑さと寒さ、速さの限界は?果ては宇宙まで、生命の生存限界まで徹底的に極限世界を科学したベストセラー !」
と。

 

著者のF・アッシュクロフトは、1952年、イギリス生まれ。オックスフォード大学の生理学部教授で、インシュリンの分泌に関する第一人者。1999年よりロイヤル・ソサイエティのフェロー。細胞膜のイオンチャネルをモチーフに、 芸術家と美術展を開催するなど研究室の外でも精力的に活躍。

 

感想。
ひゃ~~~。そんな極限環境、行きたくないわぁぁぁ。
けど、ちょっと、興味深い。
生理学の点から、ちゃんと説明されている。
この知識があれば、極限状態でも生きのびるすべを考えられるかもしれない!なんて、、。
極限状態にさらされないのが一番だ・・・。

ふざけているようでいて、ちゃんと、サイエンスに基づいている。
なかなか、面白かった。

 

目次
第1章 どれくらい高く登れるのか
第2章 どれくらい深く潜れるのか
第3章 どれくらいの暑さに耐えられるのか
第4章 どれくらいの寒さに耐えられるのか
第5章 どれくらい速く走れるのか
第6章 宇宙では生きていけるのか
第7章 命はどこまで耐えられるのか 

 

どれも、ちゃんと生理学に基づいたはなしなのだけれど、ちょっと、おどろおどろしい・・・。

高さは、キリマンジャロ、エベレストなど、高い山に登る人々を襲う高山病の症状についての生理学的解説。
標高8848mのエベレストは世界最高峰の山。海抜ゼロから一気に8848mに移動すれば、酸素が薄すぎて数秒で意識を失う。でも、登山家は無酸素登頂に成功している。なぜか?
少しずつ、気圧の低下、酸素の低さに身体を順化させてのぼるから。順化させるのは血中の酸素や二酸化炭素濃度のコントールについて。
気圧が下がると、酸素分圧も下がる。すると、血液中の酸素濃度も下がる。かつ、血液の酸度が下がることも、高山病(頭痛やはきけ)の原因となる。血液の酸度が下がるのは、酸素が薄くなると呼吸の量が増えて、二酸化炭素の排出が増え、血液中の二酸化炭素濃度も下がるから。人間の呼吸は、基本的に酸素ではなく、二酸化炭素によって調整される。だから、呼吸のペースは二酸化炭素濃度にあわせる必要がある。徐々に高度を上げることによって、呼吸のペースを順化していくことで、高山病をふせぐのだ。
ちなみに、血液の酸度を回復させるのは呼吸が主だが、腎臓も血液の循環で補っているという。腎臓、すごい。他にも血液の酸度を回復させる機能があると推定されているが、まだ解明されていないそうだ。


気圧がさがると、血液が沸騰するとか、泡が発生して破裂するとか、、、恐ろしげなことが書いてある。でも、事実だ。


高山のリスクは、酸素だけではない。100メートル上昇するごとに、気温は1度下がる。空気が薄くなって、大気の断熱効果が低くなるから。故に、登山家は凍傷で手足の指先を失うことが少なくない。。。

 

そんなに恐ろしいところへ、なぜ登るのだろう。。。
「そこに山があるから、、、」か。

 

深さは、どれくらいの深さまで素潜り可能か、という話。これも、水圧の話で、急激に潜ったり、急激に浮上すると肺が圧の変化に耐えられずに破裂しちゃう、、とか。。恐ろしい話が。。。
日本の海女さんは、命がけですごい、、というようなことが出てくる。

暑さ、寒さも、読んでいるだけで、逃げ出したくなるような環境の話。
でも、事実、赤道直下にもアラスカにも人は住んでいる。。。
暑いところの人は、手足が長くて、寒いところの人は手足が短い。からだの表面積を大きくする、小さくすることで、放熱あるいは放熱防止に適した体形になったのだと。

女性が寒さに強いのは、皮下脂肪が多いから。天然の保温材。大切にしよう。。。


宇宙は、もちろん、真空だから宇宙服なしに宇宙船の外に出れば、即破裂して死んでしまう。。こわいよぉぉ。
無重力に長くいると、筋肉、骨の衰えが著しいという。だから、宇宙ステーションにいった宇宙飛行士たちは、毎日筋トレをする。
アポロの話とか、ガガーリン、アームストロング、、、、みんな命がけ。
現在でも、宇宙飛行士は多くの危険がある中での冒険だ。
昨今、個人でもお金をだせばちょっとした宇宙旅行ができる時代になりつつあるけれど、やっぱり、からだの負荷は相当おおきいらしい。
前澤さん、宇宙に行って、宇宙酔いしなかったのかしら?

 

ちなみに、本書からの情報ではないけれど、骨は物理的刺激をうけることで発達する。なので、骨に物理的刺激をうけない水泳選手は、骨粗しょう症になりやすいのだそうだ。意外。

筋肉は育つけれど、骨は育たない。

適度に、地上で運動するのは大事だということ。ラジオ体操の飛び跳ねる運動もバカにならないらしい。

 

もうひとつおまけに、先日、スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」で、アメリカやカナダなどの実業家らと元宇宙飛行士のあわせて4人の民間人が国際宇宙ステーションに到着した、というニュースがあった。1週間程度、滞在するらしい。素人が、、、、ひどい宇宙酔いにならないのかしら?無重力で、体調大丈夫なのかしら?雑菌を持ち込まなかったかしら???とか、色々と考えてしまった。

で、なんで、このニュースが記憶に残っているかというと、英語ニュースで、一人55m$支払った、と聞こえたのだ。。。

55ミリオンドル。え??民間人が55ミリオンドル??

55ミリオン、、、5500万、、、ドル。

1ドル=100円だって、55億円?!?!

日本のニュースで確かめたら、一人、68億円支払ったそうだ。

わからん。

世の中には、訳の分からないお金持ちがいるもんだ、、、と思ってしまった。

 

脱線した・・・。

 

最後は、極限環境でいきる生き物の話。
海底火山付近では、高温のなかでも生きるバクテリアがいる。海底火山だけではない。じつは、普通に、50~60℃くらいで生きるバクテリアは沢山いる。酸に強い生き物。
砂漠で生きる生き物。あるいは、酸素が無くても生きる生き物。

からしれんこん食中毒事件」、50歳前後の方なら記憶にあるのでは?嫌気性ボツリヌス菌による中毒だった。真空と長期保存の条件で、ボツリヌスが繁殖してしまったのだ。真空条件でも生きるバクテリアはいるのだ。

 

高温でもたんぱく質変性が起こらず、生きていける生物のなぜ?は、HSP(ヒートショックプロテイン)による分子シャペロニンで少し解明されている。1990年代、私も研究対象としてかなり興味をもって研究していた。シャペロニン、とは、社交界に初めて出る若い女性に付き添う介添え人のことで、タンパク質が立体構造を正しくとるのをサポートする分子なので、シャペロニンと呼ばれるようになった。

生物の世界は、まだまだ研究対象がたくさんある。やっぱり、今でも私にとっては最も興味深い分野だ。

 

どの話も、極限の話で、読んでいていついつい肩に力が入っちゃう感じ。
いやぁ、私は、そこまでの極限は遠慮申し上げます。
エクストリームスポーツとか、流行っているけれど、なんでそこに喜びを見出す人がいるのだろう。。。人の好きなので、決して否定するつもりはないけど。
わたしは、極限環境より、快適環境が好きだ。

養老孟司先生も、猛獣に追いかけられる時代でもあるまい、なんで全力疾走の速度を競わなきゃならんのだ、オリンピックとか興味ない、とおっしゃっている。

バンジージャンプだって、恐ろしい圧の変化で、場合によっては網膜剥離とか、あるそうだ。だれが、あんなもんやるもんか。

 

私は、快適環境至上主義でいこう。。。。と思う。
ちょっとくらいの山登り、ハイキングは好きだけど、本格的高山に登る気はしない。


ちなみに、2018年、人生ではじめて富士山に登った。
すごく、楽しかった。
綺麗だった。
達成感があって、大満足だった。
頂上では、ちょっと気持ち悪いくらいで、たいした高山病にはならなかった。
だがしかし、下山してから一週間くらい、からだのむくみと倦怠感が消えなかった。ただの疲労とはちがう倦怠感。きっと、気圧変化の後遺症だったのだろうと思う。
それがしんどかったので、富士山は一生に一度でいいかな、、、と思う。 

 

人はなぜ、極限状態に魅了されてしまうのだろう。

不思議な生き物だ。。

 

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『人間はどこまで耐えられるのか』