『動物農場』 by ジョージ・オーウェル

動物農場
ジョージ・オーウェル
開高健 訳
ちくま文庫
2013年9月10日 第1刷発行 
2022年7月10日 第9刷発行

 

 ジョージ・オーウェルの『動物農場』は、いつか読んでみようと思っていたリストに入っていた。先日、図書館のなかの特設コーナーで、本書が目に入った。開高健の訳っていうのも面白そうだし、借りて読んでみた。

 

 ジョージ・オーウェル1903年、インド・ベンガル生まれ。イギリスを代表する作家。代表作は、なんといっても1984だろう。ビッグブラザーが支配するディストピアの物語。村上春樹が『1Q84』を書いたときに、この『1984』が頭になかったはずがない。『1984』は、読んでいて具合が悪くなりそうなくらいのディストピア。『動物農園』も、基本的には、ディストピアを描いている。でも、登場人物が、、動物と人間であるところに、、、これは現実ではないという救いが、、、あるかもしれない。

 

ジョージ・オーウェルは、インド高等文官である父のもとに生まれ、父は、アヘンの栽培と販売に従事していた。1歳の時にイギリスに戻っている。父がアヘンにかかわっていたということが、彼の人生観に何らかの影響を与えたのはまちがいないだろう。。。。人が人を、蝕む・・・。支配、反抗、従属、、、。厳しい現実の中でも人は生き続ける。悲惨ではあるけれど、なにかの救いがあるような気もする。ちょっと、読んでいて不思議な感覚になる作家だ。

 

本の裏には、
”のんだくれの 農場主を追い出して理想の共和国を築いた動物たちだが、 豚の独裁者に籠絡され、やがては恐怖政治に取り込まれていく。自らも スペイン内戦に参加し、 ファシズム共産主義にヨーロッパが圧巻される様を身近に 見聞した経験をもとに、 全体主義を生み出す人間の病理を鋭く描き出した、寓話小説の傑作。”
とある。

 

巻末には、開高健の文章もあるが、今回は、主に『動物農場』を読んだ。

 

感想。
あぁ、、、、怖い。目次には、「動物農場—―おとぎ話」とあるのだが、おとぎ話と思って読まないと読んでいられないくらい、えげつなく、怖い。ディストピア。でてくる動物たちを人間に置き換えれば、、、動物の種類をそれぞれどこかの国の人に置き換えれば、、、。今、世界のどこかで起きていることと変わらないかもしれない。

 

本書を読み終わった頃、PBS newで、ロシアで1人の役人が公式にプーチンによる戦争を批判して亡命することにしたというニュースがあった。彼は、インタビューの中で、 ジョージ・オーウェルですら、こんなひどい世界は予想していなかっただろう、、、といっている。。。

 

物語は、荘園農場を舞台にしておきる。農場主のジョーンズさんが、その日も飲みすぎて、鳥小屋の戸締りをきちんとせずに眠ってしまう。その間に、農場の動物たちが、尊敬するメージャー爺さん(りっぱな雄豚)の演説を聞こうと集まってくる。

メージャー爺さんは、「同志諸君」と語り始める。それは、私たち動物だって、自由を得る権利がある、人間どもに収奪され続けるのはやめにしよう!という決起集会だった。

そして、動物たちは、それぞれの役割をもってクーデターのようなことを起こす。そして、ジョーンズさんを農場から追い出すことに成功するのだ。

それから、動物たちは自由を手に入れるのだが、自治を続けていくためには、食べ物もエネルギーも必要で、それぞれに役割をもたせて畑を耕したり、収穫したり、、とし始める。そして、しだいにリーダーとなる豚が、独裁者へと変貌し、ついには、人間との汚職にまで手を染める・・・。リーダーとなったのは、雄豚のスノーボウルとナポレオンだった。

 

決起当初に掲げていたスローガンは、解釈が捻じ曲げられ、豚に都合よく書き換えられていく。そして、独裁者間の仲違いから、気が付けば、スノーボウルは裏切り者ということにされ、動物たちから敵視される。スノーボウルが裏切り者だと吹聴したのはもちろんナポレオン。。。

 

柔順にナポレオンの言葉にダマされる動物たち。。。お互いの密告・・・・。

最期は、人間チームに寝返ったナポレオンが、くだらない諍いから乱闘に巻き込まれていく・・・。

 

なんて、ディストピア。でも、『1984』よりは読みやすい・・・。柔順すぎて、ばかじゃないか!と突っ込みたくなるみじめな対象が、人間ではなく動物であることに、ちょっと安堵してしまっているかもしれない。

いやいや、、、これは、まさに、、、、人間たちの、、、、愚かな人間たちの姿だ、、。

 

これは、やはり、教養として読んでおくべき一冊だろう。。。比較的短いし、読みやすい。登場人物が、、登場動物なので、名前よりも姿をイメージして読むと実にわかりやすい。一応、おもな動物たちには、それぞれ名前があるのだが、その名前もそれなりに意味があるともいえる。最後に自滅するのは、ナポレオン、、、だし。

 

信じる心がつよいほど、疑うことをしなくなる。

気が付くと、洗脳されている。

そして、独裁者すらも洗脳されていく。

そして、自滅する。

ほんの、ほんの、ささいなくだらないことで・・・・・。

 

愚かさの象徴。

多分、なおらない。

人間は、自分たちが愚かであるということを忘れるほど愚かなのか・・・。

 

いやぁ、、、読むべき一冊といわれるわけがわかる気がした。

政治家のみなさんに熟読していただきたい一冊、、、って感じ。

 

全体主義」とはなにかを理解するにもお薦めの一冊。