『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』 by エリック・シュミットら

1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え
エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル
櫻井祐子 訳
ダイヤモンド社
2019年11月13日 第一刷発行

発売当時、だいぶ話題になった気がする。シリコンバレーかぁ、、、興味ないなぁ、、、と思って読んでいなかったのだけれど、図書館で見つけたので借りてみた。

 

感想。
うん、ほどほどに面白い。
アメリカ人っぽい。
アメリカンフットボールの世界から、ビジネスの世界で活躍した、最強のクロコ、って感じだろうか。
単行本で、300ページ。
かなりのボリュームだけれど、実際に彼、ビル・キャンベルに世話になったGoogleのメンバーが著者なので、思い出話の逸話が多い。そこをさーーっと読んでしまえば、重要な教えの部分は、本の数ページだろう。

櫻井さんの訳もいいのだと思う。読みやすい。


そして、ある時から人事部がやたらと「1on1」とか言いだしたのは、これだったのか、、、と納得。コーチングをよくわかっていない人同士が「1on1」をして、どういう効果があったのか、はなはだ怪しい。流行りだったんだね、と、納得。

 

著者の三人は、みんなGoogleのメンバー。CEO、副社長、エグゼクティブとして活躍した面々。そして、かれらがGoogleを成長させたのも、本書の主人公、ビル・キャンベルのコーチングによるものだった。

これは、コーチングの副読本って感じかな。


数々の逸話から、ビル・キャンベルの人たらしな性格が、目に浮かぶようだ。つねに、正直で、熱意にあふれていて、愛にあふれている。会えば、大げさにハグをし、良くないことは、これでもかとばかりに罵詈雑言をあびせる。口の悪さと愛情深さで、魅了されてしまう。そういうタイプのひと、時々いる。
そういう人だから、1on1が、良かったんだろうな。。。

正直、1on1だけでなく、コーチングというのは、コーチをする人間の器量もさることながら、一番重要なのは、コーチングを受ける側の人間は、本当にその気になっているのか?というこだと思う。

本書の中では、「コーチャブルであるか?」と表現されているのだけれど、まさに、それだ。誰の指摘であっても、素直に受け入れる気持ちがあるのか。なければ、どんな素晴らしいコーチでも、無意味。受ける側が、人の声を聴く姿勢を持たない限り、ただの時間の無駄になってしまう。

 

私が以前勤めていた会社では、役員に数百万円をかかえて、コーチを付けていた。でも、受けている人からコーチングがいい、という声はあまり聞かなかった。しぶしぶ、今日はコーチングがあるからしょうがないけどいってくる、、、という雰囲気。そして、コーチングを受けたからと言って、部下の私たちからみると、たいして効果があるとも思えなかった。。。みんな、大学~会社でも出世頭のエリートで、人の話を聴ける人は、、、ほんの一部だったような気がする。
一方で、私と同い年の別の会社の友人が、コーチングをうけて、ベタホメしていた。あれは、数百万円でもかける価値がある、と。その彼は、基本的にエリート意識が高いタイプではない。エリートのくせに。人の話を聴く姿勢が、いつでもある、と言うタイプ。年齢や学歴などを気にするタイプではない。コーチングを自分の糧にできるのは、こういうタイプだな、、と思わず納得しちゃうようなまっすぐなひと。

 

本書の中では、コーチャブルになるには、コーチングを受ける準備ができていること、自分の弱点を認められること、正直・謙虚であること、学ぼうという姿勢が必要、といっている。
まさに、そうだなぁ、と思う。

 

ビルの原則では、組織のマネジメントに必要なのはいわゆる伝統的マネジメントの「管理・監督・評価・賞罰」ではなく、「コミュニケーション・敬意・フィードバック・信頼」だそうだ。

ビルがそう考えるようになったのは、新米CEOの時に部下に言われた次の言葉から。
「ビル、肩書があれば誰でもマネージャーになれるけれど、リーダーをつくるのは部下よ」

お、いいね!いい言葉だ。まさに。


コミュニケーション・敬意・フィードバック・信頼」とは、ちょっと人間臭い、古臭い感じがする言葉だけど、やっぱり、人を動かすのは、制度のような仕組みではなく、人の心なんだよなぁ、と思う。
もちろん、制度も必要だけれど、人は、制度に評価されたいのではなく、人に評価されたい生き物なのではないだろうか。

実際、私自身の会社生活30年を振り返ると、何をしたか、より、誰と仕事をしたか、の方が自分に大きな影響を与えている。言い換えれば、私と一緒に仕事をした同僚や部下たちも、何をしたかよりも、私と一緒に働いて得たものはなにか?ということが大事な気がしていた。人と一緒に仕事することも好きだったので、とことん、メンバーとの面談に時間をとるのは、私には楽しみの一つだった。私は、彼等に何かを伝えることはできたのだろうか?

 

本書の中で、「コミュニケーション・敬意・フィードバック・信頼」を大切にしたビルが、様々な場面でどのように行動したのか、どうコーチングしたのか、という話が出てくるのだが、それをキーワードでまとめると、

心理的安全性の確保
・明瞭さをもって語る
・意味をもたせる
・信頼関係を築く
・影響力を発揮する

ということのように思う。

そして、心理的安全性や信頼関係のためには、実は一見「ムダ話」に見えるようなプライベートな会話が意外と重要なのだという。家族のことや、余暇の出来事など。なんか、昭和の日本っぽいなぁ、、、という感じがする。同僚を家族のように感じられるのは、それはそれで、心理的安全性が高まるし、悪くないと思う。でも、昔よりはその規模感が減った気がする。昔なら部の全員だたのが、今は課とかグループとか。。。限られた中での心理的安全性。それが組織の蛸壷化につながっていると、、、、言えなくもない。
心理的安全性と言うのは、「社会関係資本」を作る上での大事な要素の一つなのだろう。ここの組織なら、自分が自分らしく発言し、行動できる。そういう関係をもてる仲間。まさに、社会関係資本がつくれる組織。
部内旅行みたいなものも、そこに大いに役立っていた。実際、楽しかったし。今では、せいぜい、仕事の後のBBQくらいだろうか。会社の人と一緒に、なにかのリクリエーションをするって、へっちゃったな。ま、今の私には会社そのものがないけれど。


ビルは、スティーブ・ジョブズのコーチとしても有名だった。ジョブズが最初にアップルを追放された時にもビルは反対したそうだ。そして、戻ってきたときにジョブズに確固たるポジションをもたらしたのも、ビルだった。

ビルは、だれも口にしたがらないような大事なことを口にした。ジョブズ排斥に対する意見もそうだったのかもしれない。


「最大の問題」は、気が付いていても気まず過ぎて口に出せないことがある。ビルは、黙っていなかった。本書で、最大の問題を「部屋の中のゾウ」とよんでいるのだが、それをほっておくと、取り返しのつかないことになる。
問題を議論のテーブルに乗せるのは、「部屋の中のゾウ」をみつけ、それをみんなに知らせる事ができる人。ビルは、そういう人だった。問題を表に出す。それができないうちに、大惨事になること、、、ありがち。


その他、心に残った言葉を覚書。
・決定を下さないのは、誤った決定をくだすよりたちが悪い。
・フィードバックは徹底的に正直で率直に。そしてできるだけ早く。
・何をするかを指図するな。なぜそれをやるべきか物語を語れ。
・メンバーには、チームファーストを求めろ。
・大事なのは、過去でも未来でもなく、今、やっていることと向き合うこと。(シェリル・サンドバーグ
・女性も、男性と同じテーブルにつくべき。

 

コーチは大切だ。でも、もっと大切なのは、自分がコーチャブルになれているか、ということだ。どんなに素晴らしいコーチがいても、謙虚に素直にその言葉に耳を傾ける、コーチに率直に伝える準備がなければ、コーチングは成果をだせない。 

 

うん、なかなか、面白い本だった。

だれもが、ビルのようなコーチになれるわけではないし、ビルになる必要はない。でも、コーチングに大事な要素が語られている本なので、部下をもっている誰にでも参考になる本だと思う。

そして、意外と日本人にあうような気がする。

 

和をもって尊し。

 

なんか、そんな感じ。

 

『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビルキャンベルの成功の教え』