『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業 リクルートを作った男』
大西康之
東洋経済新聞社
2021年2月11日 第一刷発行
六本木アカデミーヒルズで、2021年3月に「今読むべき新刊図書」で紹介されていた本。買う気にはならなかったので、図書館で予約していた。ようやく、10か月かかって順番が回ってきた。
江副さんに関する本は、リクルートのOBである馬場マコトさん・土屋洋さんが書かれた「江副浩正」(日経 BP 社、2017年12月25日)というのを読んだことがある。
リクルートを作ったころの江副さんは、まさに起業家だったのだと思う。でも、どこかでタガが外れて、徳を失ってしまった、、、という事だろうか。『江副浩正』を読んだ時に思ったのは、なにより「謙虚であれ」ということだった。本書も、同様に起業してバブル期にすさまじい成長を続けるリクルートの快進撃とその後の江副さんの「ならず者」への変化が記されている。
引用文献や、江副さんとの比較で出てくる人物名、出来事は本書の方が新しい。また、著者もリクルートの内部を知っているわけではない。2021年における江副さんへの評価の本、という感じだ。
本書の「はじめに」で、瀧本哲史さんの江副さんに関するインタビューが掲載されている。瀧本さんは残念ながら2019年に47歳の若さで亡くなってしまった方だが、素晴らしい著書をいくつも残していて、わたしもファンだ。エンジェル投資家。その瀧本さんの江副さんに関するコメントは、興味深い。本書で、一番興味深かったところと言ってもいいかもしれない。
引用すると、
”江副さんは多少いかがわしい部分もありますが、非常に多面的な人でした。マイクロソフトのビル・ゲイツやアップルのスティーブ・ジョブズも人物としてはかなりいかがわしい。そもそも起業家とはいかがわしいものですから。江副さんが特別というわけではありません。
(中略)
そんな江副さんがダークサイドに堕ちてしまったのは、彼を乗りこなす騎手、つまりまともなエンジェル投資家が日本になかったからです。その状況は今も変わっていません。
(中略)
日本の企業会社はいまだに、武士の名残で組織に忠誠を尽くす同調性の強いサラリーマンで構成されており、江副さんのような純粋な「資本主義者」は異端として排除されてしまいます。
大企業で粉飾決算などの不祥事が絶えない今、江副さんが生きていたら、保身に汲々とする日本の経営者にこう尋ねることでしょう。
『経営者とはどういうものか経営者なら何をすべきか私は常に学び、考えその通りに行ってきました。あなたが自分が経営者であると考えたことがおありですか』”
著者の大西康之さんはジャーナリスト。1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社、欧州総局(ロンドン)、日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年に独立。経営者に関する多くの著書がある。 わたしは他の著書を読んだことは無い。。。。
序章には、
”ひとりの起業家を、社会全体で吊るし上げ、犯罪者の烙印をおした『リクルート事件』とは、一体何だったのか”
とある。
ジャーナリストの田原総一朗さんも、「リクルート事件は冤罪だ」という立場をとっている。
日本は、ちょっと人と違う事をする「ならず者」を嫌う。。。。一度は時代の寵児と盛り上げておいて、とびぬけた存在になってくるとルサンチマンの噴出。。。ホリエモンやカルロスゴーンもそうかもしれない。
巻末に、江副さんに関する年表、参考文献があって、全部で474ページの分厚い単行本。
「第1部 1960」は、起業から成長まで、「第2部 1984」が、バブル期の情報関係への拡大成長とリクルート事件まで、「第3部 1989」は、昭和の終焉、、、。
リクルートは、今でも起業家精神にあふれた会社だと思う。「社会への貢献」を経営三原則の一つとして、間違いなく社会に貢献した、していると思う。でも、江副さんはどこかで間違えた。贈収賄が本当に有罪だったのか冤罪だったのかは、わたしにはわからないし、そこにはあまり興味はない。わたしが興味深く思うのは、なぜ、昭和~バブル期、優れた経営者たちとも色々な付き合いもありながら、人としてどっか道をそれてしまったのか、、、。わたしが、江副さんがどこかで間違ったと思うのは、恩人への裏切りがあったり、妻を殴ったりするようになったところだ。周囲からの助言にも耳を傾けなくなる。リクルートの経営三原則は、「社会への貢献」「個人の尊重」「商業的合理性の追求」だ。どこかで、商業的合理性第一主義になり、徳をわすれてしまったのではないだろうか。
説教臭い言い方かもしれないけれど、やはり、「徳」をなくした人は経営者になれない。人は離れていく。。。「徳」をなくし始めた頃の江副さんを、社内では「江副2号」と言っていたそうだ。
第二電電(現KDDI)を創設する時、当初はリクルートから江副さんも創設検討会議に入っていた。でも、稲盛さん(当時、京セラ社長 稲盛和夫)は、最後にリクルートを大株主から外すことを決断した。稲盛さんは、江副さんの「野心を満足させるためなら手段を問わない『危うさ』を見抜いていたのではないか、、、と。
稲盛さんは、その後JALの再生などでも活躍され、哲学を重んじている経営者だ。稲盛さんは司馬光の言葉を引用し、
聖人:徳も才もある者
君子:徳が才に勝る者
小人:才が徳に勝る者
愚人:徳も才もない者
のなかで、
「組織を危うくするのは小人だ」と説いていた。
稲盛さんは、当時の江副さんに小人を見ていたのかもしれない。
あまり、後味のよい本ではない。でも、確かに江副さんはリクルートを作った。それは間違いなく、市場を変えた。モノではなくサービスビジネスの先駆けともいえる。
学ぶべきは、やはり、「謙虚であれ」かなぁ。
うん、読書は私塾である。
読書は楽しい