『図解 葉隠 勤め人としての心意気』 by 齋藤孝

図解 葉隠 勤め人としての心意気
齋藤孝
ウエッジ
2017年1月31日 第一刷発行

図書館の棚で目についたので借りてみた。

 

葉隠』とは、江戸時代中期の佐賀の鍋島藩で、後に出家した山本常朝が武士としての心得を語ったもの。 

「武士道と言うふは 死ぬことと見付けたり」の一文が有名。

それは、戦って死ぬという意味ではなく、死ぬ気になって考え抜き、死ぬ気になって挑戦するということ。武士にあっては、死ぬ気で戦うということだったのだろう。齋藤さんは、その『葉隠』を現代の環境に置き換えて、「勤め人としての心意気」として読めると言っている。

 

葉隠』は、三島由紀夫が酔心していたことでも知られ、その入門書『葉隠入門』を記している。ウィキペディアによれば、三島自身の人生論、道徳観、死生観、文学的思想的自伝としても、種々な読み方のできる書でもある、とのこと。ま、でも、結局、割腹自殺だもんなぁ、、、、。

 

葉隠』を処世術として読んでみる、というのがこの本。脱サラして、二度と会社の勤め人をする気のない私には、「勤め人としての心意気」と言われても、関係なーい、って気もするけど、ひやかし半分、社会人として参考になることもありや、なしや、、、と思って、読んでみた。


図解、となっているのは、それぞれのポイントに、図が入っているから。その分、文字数が少ない本、、、ともいえる。文章を端的に表現するイラストが挿入されているのだけれど、それが、的を射ているような、いないような、、、。ちょっと、微妙なイラストもあったりして、、、。ま、でも、わかりやすいんだろうな。イラストというより、まさに、図・・・。

 

目次
第1章 心地よく生きる術
 ぼんやり 生きるな
 何にでもチャレンジする
 直感を信じろ  
 孤独力ことを成し遂げる力
 先のことを心配しすぎるな
 強く生きるための無我夢中
 後悔と不安を防ぐ 生き方
 悲しみも喜びも 心にとどめるな 
 誰もが死ぬ運命
 淡々と役割を演じる
 生き方の美学

 第2章 大人としてのたしなみ
 智・仁・勇を持て!
 お金も気持ちも体験も 出し惜しみしない 
 「忙しい」と口にしない 
 年齢と体力に合わせる 
 悟りのレッスン 
 心を落ち着けるお茶 
 自分を見つめる時間を取り戻す 
 あくび もくしゃみも コントロールできる
 病気への対処法 

第3章 勝つための仕事術 
 トップを目指せ 
 仕事は断るな 
 早い決断が仕事を制す 
 他人を巻き込む「勢い」 
 「調べて確認」を習慣に
 大事なことは必ず相談する 
 言いづらいことこそ、早めに正直に
 上司とのコミュニケーション
 トラブルこそ仕事の醍醐味 
 まず、どうしたらいいかを考える 
 他人のためにどこまで動けるか
 やめるのは次を決めてから 

第4章 リーダーの条件 
 上司の心得 
 指示は明確に、そして 繰り返し伝える 
 ほめて育てる 
 やる気が出るほめ方 
 チームの士気を上げる 
 部下にこそ親切に、丁寧に
 意見する時こそ慎重に 
 正しい評価の仕方 
 トラブルなくクビにする方法 
 落ち着きは自分のため、周りのため 
 人が集まるのはリーダー 次第 

第5章 人付き合いの極意 
 相手に関心を持って知ろうとする 
 「知らない」とは言わない 
 会ったときはなごやかに
 発信は慎重に 
 知らないことは平和である 
 大変な時こそ力になる 
 年長者の言うことには耳を傾けよう 
 ちょっとしたことでも声を掛け合う 
 口論の心得


いきない、「ぼんやり生きるな」とくるのだから、お!と思う。でも読み進むと、とまぁ、、、随分と古くさいなぁ、、、という印象の言葉がならぶ。昭和の根性論に近いなぁ、という気もする。でも、なかには、普遍的にそうだな、、と思うものもある。社会人一年生にいいかもしれない。とりあえず、上司には昭和世代が多いだろうし、こういう価値観を教えられてきた人たちだということを知っていても悪くない。もちろん、今に通じるものもあるけど、ね。

 

あんまり、付箋を貼ることもなく、ぱーーっと2時間弱でななめ読み。

 

ぼっとするな

図太く生きろ

ケチになるな

集中しろ

さっさと決断しろ

相手に関心をもて

聞け

って、そんな感じ。

 

ケチになるな、というのはお金の話だけでなく、気持ちの話もふくめてのこと。気持ちもお金も、しまり屋になりすぎると、人に対する義理を欠くことになるから気をつけなさいって。葉隠の中では、

「義理なき者は、すくれたなり。」と出てくる。義理にかける者は、卑劣な人間だ、と。

そんな感じで、葉隠の文章が引用され、現代語訳がついて、そこに齋藤さんの解釈が説明される、という形式で本書は綴られている。

 

原書の文章の現代語訳で、うん、そうだね、と思う。そして、齋藤さんの解釈で、なるほど、そう読み解くか、、、って。二重に楽しめる、ともいえる。江戸時代での解釈、現代での解釈、まぁ、ものの解釈は人それぞれだ。楽しく読めばいい。

 

 第1章にある、「淡々と役割を演じる」というのは、今の時代のほうが沿うような気もする。だれもが、その時、その場での役割を演じている。会社では口うるさいおばさんも、お家ではやさしいお母さんかもしれない。パワハラ親父も、自宅では両親の介護に追われているかもしれない優しい息子かもしれない。自分勝手だとおもう部下も、地域のサッカーチームのコーチで活躍しているかもしれない。みんな、それぞれ、その共同体の中での役割を演じている、ってことかな。その役割が、自分の使命と感じられるなら、そこに身を投じてがんばればいい。大事なのは、自分が望んでいることか、ってことの気がする。

 

第4章の「意見するときこそ慎重に」では、修辞学の大事さ。誰かの間違いに気づいても、いったん横に取り置いて「あとで検討することにしましょう」などといって、その場で恥を欠かせないようにできるのが、大人ということ。相手の立場や気持ちを考えず、相手の間違いをただ指摘するのは、いってみれば相手への「価値低減傾向」に走っているということ。岸見さんのアドラー心理学に通じる。

megureca.hatenablog.com

 

自分が正しいと主張するまえに、ほんとうにそうなのか??確認するのも大事。

それは、池田晶子さんにも通じるかな。


たとえ、自分が正しかったとしても、相手が誰かを傷付けるためにいっているのでなければ、まずは聞いて、受け止める。そういう、心の余裕を持ちたいものだ。

頭ではわかっていても、口が先に出てしまう私には、痛い言葉。何か言いたくなっても、5秒黙ってみる、って、傾聴の本とかにもよくでてくる。そうだ、5秒ルール。気をつけよう。

 

とても、簡単に、読みやすく書かれた本。あくまでも齋藤さんの『葉隠』の解釈だな、と思うところもある。「ほめて育てる」というのも、昨今ではうなくいかない、と言われている。

最近の解釈では、褒めることで自尊心が伸びると思われていたけれど、なんでもかんでも褒めていると、簡単なことで満足してしまい、自ら満足の水準をさげてしまう、ということの様だ。あるいは、肥大化したプライドのために、上手くいかないことを相手のせいにするようになったり、、、。

アウトプットの結果をほめるのではなく、インプットの「正しい行動」をほめる、というのが時流だそうだ。

 

葉隠』にどんなことが書かれているのかは、それぞれ引用されつつ解説されているので、参考になる。でも、これを鵜呑みにするのも違うかな、という気もする。

それでも、ケチになるな、「忙しい」と口にしない 、相手の話を聞け、っていう3つのことは、実行しよう!って自分自身をリマインダど。

 

最近、コロナの規制があけて、「忙しい」「忙しい」という言葉をよく耳にする。「忙しい」と人に言ったところで、何も問題は解決しない。「忙しい」と言っている暇があったら、今やるべきことをさっさとやろう。

 

ぼーっと生きない!!

ってね。

 

読書は、楽しい。