『さいはての彼女』 by  原田マハ

さいはての彼女
原田マハ
角川文庫
平成25年1月25日 初版発行
(本書は、2008年9月に刊行された単行本を文庫化したものです)

 

原田マハさんの短編。原田マハにはまっている私に、姉が貸してくれた。
4つの短篇が一冊になっている。

 

裏表紙の説明には、
”25歳で起業した敏腕若手女性社長の鈴木涼香。猛烈に頑張ったおかげで会社は順調に成長したものの結婚とは縁遠く、絶大な信頼を寄せていた秘書の高見沢さえも会社を去るという。失意のまま出かけた一人旅のチケットは、行き先違いで沖縄で優雅なバカンスと決め込んだつもりがなぜか女満別!? だが予想外の出会いが、こわばった涼香の心をほぐしていく。人は何度でも立ち上がれる再生をテーマにした言霊の短編集。”

 

感想。
いいね。
いつも頑張っている女性が、時にくじけつつ、逃げ出しつつ、見知らぬ誰か、あるいは古くからの友人に助けられ、再び歩き出す勇気を思い出す物語。 
主人公の女性は、みんなそう若くはない設定。社長をやっていたり、部下をもっていたり。
その設定が、女性読者を惹きつけるんだろうと思う。
どの短編も、良かった。
逃げ出す先は、色々だけど、また、旅にでもでたくなる。そんな物語たち。
ちょっと、現実逃避したくなったときに読むと、さて、もういっちょ頑張るか、と言う気持ちになれる。
そんな、エールを感じる物語たち。

 

目次
さいはての彼女
旅をあきらめた友とその母への手紙
冬空のクレーン
風を止めないで


以下、ネタバレあり。

 

本のタイトルでもある「さいはての彼女」は、25歳で起業した35歳の女社長・鈴木涼香が、傷心の旅先で、人を許すことの大切さに気が付く話。
信頼していた秘書は寿退社するし、彼は「おれ、涼香がコワイ」と言ってさっていくし、、、で、傷心の旅に出る涼香。秘書は辞める理由を「一身上の都合」といって「結婚するので」とも言ってくれない。しかも、デキ婚であることに嫉妬する涼香。腹立ちまぎれに、最後の仕事として、「私の沖縄でのラグジュアリーな旅手配」を言いつける。
そして、沖縄へ向かう涼香。ぷりぷり、イライラしたまま空港へむかい、憂さ晴らしだ!とおもって那覇便へ、、のはずだったのだが、、、秘書が手配していたのは「女満別」行きのチケットだった。。。BMWで依頼していたはずのレンタカーは、オートウィンドーすらないポンコツ車。カーナビもついていない。。。
広大な草原の路肩に車をとめて、呆然と立ち尽くす涼香。腹立ちまぎれにポンコツを蹴っ飛ばすと、ぽきっとおれるハイヒール、、、、。ふんだりけったり・・・。
そこに、颯爽と現れたのはハーレーダビッドソンに乗った黒髪の美少女・凪(ナギ)だった。なんだか困っていそうな涼香の様子をみて、一度は走り去ったのに戻ってきたハーレー。
ナギに言われるままに、「サイハテ」に向かって走り出す涼香。「あなた、この車のこと嫌いですよね」とういうナギ。そして、ポンコツをおいて、ハーレーのタンデムシートに収まる涼香。風をきって走る凪。女満別から網走へ。
凪は、涼香の凝り固まっていた心を北海道の大地に解き放ってくれる。
沖縄のラグジュアリーホテルだった筈の宿泊は、ナギと一緒に6畳の和室に。ナギは、山梨からハーレーで北海道に旅している耳の聞こえない少女だった。ナギの不思議な魅力は、北海道の人々を魅了し、バイク屋さん、宿屋、お寿司屋さん、どこもすっかりナギの馴染みであり、ナギを大切に守ってくれている人々だった。
秘書がどんなつもりで、女満別の旅を手配したのかはわからないけれど、涼香がナギに出会うことは想定していなかっただろう。みじめな旅になればいいという最後の反撃だったのかもしれない。でも、涼香は、秘書の手配した女満別行の旅でとんでもない宝物、ナギとの出会いを手にしたのだ。

ナギの不思議な魅力、北海道の人々のナギを思う気持ち、そして、北海道が涼香の気持ちを溶かしていく。ナギのハーレーのうしろで一緒に風を感じているうちに、これまでのモヤモヤがはれて、新しくでなおそう、と言う気持ちになる涼香。
帰りの飛行機に乗るために、ナギに送られて女満別空港についたころには、涼香の秘書に対するとがった気持ちも、すっかり溶けていた。
そして、素直な気持ちを秘書にメールする。
「あなたは、最高に有能な秘書です。
 ママになったら、もう一度、一緒に、、走ってみない?」

THE END

 

自己中心に走ってきた35歳の女性社長が、人への思いやりを取り戻す物語
登場人物は、みんな魅力的な人で、最後は主人公の心も優しくなって、未来へ向かって歩いていこう、という物語。
読んでいて、すがすがしい。

 

二話目の「旅をあきらめた友と、その母への手紙」は、大学時代の親友と女二人旅をするようになった女性の物語。憧れの宿に一緒にいくはずが、友人の母が倒れてしまったことで、急遽、主人公は一人で旅することに。そして、旅先から友人とメールをしながら、友人への感謝、母親への感謝を噛みしめ、一人でいても相手を思う気持ちには変わりのないことにしみじみする。そんな物語。

 

三話目の「冬空のクレーン」は、職場で部下に指導したつもりが、いきなりメンタル疾患になったと言って会社にこなくなるし、訴えるといいだすし、、、と、職場トラブルに巻き込まれた大企業の女性管理職・志保の物語。私は、この作品が一番面白かった。
部下のメンタル休職宣言は、自分に非があるとは思えないのに、会社はいいから部下に謝れといってくる。腹立ちまぎれに、新規ビル建設プロジェクトの忙しい時期と分かっているけど休暇をとって冬の北海道へ来た志保。釧路空港に降り立った志保は、レンタカーで釧路湿原摩周湖~阿寒湖~網走~女満別とたどる予定だった。
釧路のホテルで、釧路湿原までいくつもりだと告げると、鶴居村には、「タンチョウヅルのサンクチュアリがあって、シーズンなのでタンチョウが沢山みられる」という。もともと、タンチョウをみるつもりはなかった志保だったけれど、あのめでたい鶴がみれるなら!と、鶴居村サンクチュアリに向かう。
そこで、出会った、タンチョウサンクチュアリで働く青年と対話していく中で、徐々に職場トラブルで意固地になっていたこころをとかしていく志保。
都会の建設現場にそびえる巨大なクレーンと、大自然のなかのクレーン:鶴とが重なる。
北海道の自然に、こころをとかされる物語。
最後は、やっぱり、仕事の肩書やら自分の価値やらをあれこれ考えず、大好きな建設プロジェクトを頑張ろう、と再び歩き出す志保の姿。素直になるって大切、と思える物語。
大自然は、人を素直にする力がある。
だって、自然にはどうしたって、叶わないもの。。。

 

最後の「風をとめないで」は、最初の「さいはての彼女」にでてきたナギの母親の物語。ナギの父親も、ハーレー乗りだったけれど、子供のナギをタンデムシートに乗せてハーレーでツーリングしている最中にトンネル事故に巻き込まれて亡くなっていた。そんな夫の乗るハーレー、ナギのハーレーをめぐる、別れと出会いの物語。夫の命を奪ったハーレーだけど、ハーレーがつないでくれた出会いと新しい人生への気配の物語。

 

どれも、女性が主人公。
みんな、であった人に救われていく。

人を救えるのは、大自然と人しかない。。。
そんな気がしてくる一冊だった。

 

北海道の自然のなかで、わぁぁぁぁ!!!!!!!って叫んでみたくなる。
そしたら、日常の些細なことなんて、全部どうでもよくなるかもなぁ、なんて思う。

タンチョウヅル、観に行くのは寒そうだけど、雪の中のタンチョウヅル、きっときれいなんだろうな。
いつか、冬の釧路湿原、いってみようかな。

 


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