『丘の上の賢人  旅屋おかえり』 by  原田マハ

丘の上の賢人
旅屋おかえり
原田マハ
集英社文庫
2021年12月25日 第一刷

 

原田マハさんの『旅屋おかえり』の続編。図書館の棚で見つけたので借りて読んだ。
本書には、「丘の上の賢人」という作品の他に、エッセイ、おかえりの島というマンガ、解説がついている。200ページ程の文庫本なので、あっという間に読める。

 

感想。
またまた、やられた!!原田マハさんに泣かされた!!
電車の中で読み始め、自宅のある駅についても自宅まで待てず、カフェでお昼ご飯を食べながら読み続け、、、泣いた、泣いた。。。あぁ、こういうの、弱い。。。むかしの恋人との再会、離れ離れになっていた姉妹の愛。。。。
あぁ~~、面白かった!!!

 

今回も、オカエリが、依頼人に代わって旅をするお話。今回は、旅の依頼先が北海道だったことから、最初はその依頼をうけるつもりのなかったオカエリだったけれど、依頼人に合って話を聞いているうちに、、、、受けてしまうのだ。自分にとっての禁断の地、北海道へ旅することとなる。

 

エッセイでは、原田マハさんと北海道のかかわりが紹介されていた。

”私は過去に何度も北海道を旅して、北海道各地を舞台に小説も書いてきた。それどころか人生において次に進むべき道を模索して悩んでいたとき、悩んで悩んで悩み抜いて、誰かに「どうしたらいい?」と訊いてみたくて、真冬の釧路・鶴居村までひとり旅して、雪原で舞い踊るタンチョウヅルに向かって「このまま進んでもいいかな?」と問いかけたところ、クアー!とリアルな鶴のひと声を得、よしじゃあ進んで行こうと決意し、結局作家になったという運命の土地なのである。”

と。
そうか、あの鶴居村のお話は、原田マハさんの実体験からのお話だったのだ。原田マハ 『さいはての彼女』(角川文庫)のなかであった、「冬空のクレーン」だ。

megureca.hatenablog.com

 

私は、このお話を読んで、どうしてもタンチョウヅルに会いたくなって、2023年1月に鶴居村に行ってきた。まさに、ツルの一声、「クアー!」を聞いてとてつもなく勇気をもらった。まさに、これぞ、ツルの一声!という、寒い雪原の中に響き渡るツルの声は、恐ろしいほどに印象的だ。そうか、原田さんは、この声を聴いて作家への道を決意したのか、と改めて納得。わかる気がする。ツルの一声は、背中を押してくれる一声だ・・・。

megureca.hatenablog.com

 

と、そんなエッセイも入っていて、なかなかお得感のある一冊だった。
主題の「丘の上の賢人」は、150ページほどのお話なので、さ~~っと読める。オカエリの行動パターンを既に知っている読者としては、きっと、すごい旅の成果物を持ち帰ってくれるはず、、、と期待しながら読むのだが、ほんとに、それはそれは、大きな成果物を持ち帰るのだ。こりゃ、おとぎ話だ。。。って世界だけれど、うん、いいんじゃない。こういうお話あってもいいんじゃない、って思わせてくれるところがすごい。
ただ素直に、よかったね、おめでとう!って云いたくなるハッピーエンドの物語。読み終わって、晴れやかな気持ちになれる。きっと、、、、この人たちには明るい未来が待っているって、ね。

 

以下、ネタバレあり。

 

オカエリこと「丘えりか」は、芸能プロダクション「「よろずやプロ」で、依頼人の旅を代行する「旅屋」をしている。アイドルを目指して上京したものの、芸人としては数々の失敗のために担当をおろされてしまったり、、、行かず飛ばず。成功するまでは故郷の北海道・礼文島には帰らないと誓っている。
そんなオカエリのところに、北海道への旅を代行してほしいという依頼人がやってくる。東京都在住古澤めぐみさん。アクセサリーデザイナーをしている会社の社長。 動画サイトで見かけた、北海道札幌市東区モエレ沼公園で若者たちにいじめられている男性がかつての自分の恋人だったような気がする。 北海道に行ってそれを確かめてきて欲しいというのが、 めぐみさんの依頼だった。めぐみさんとその彼は、高校生と大学生として知り合った。早くに両親を亡くしためぐみさんにとっては、親代わりだった姉のぞみがいた。恵さんが物心ついた時にはすでに父は他界していて、苦労して二人を育てた母も恵さんが中学生になる頃他界した。母は臨終の時、めぐみを頼むねと姉に伝えたこともあって、のぞみはめぐみさんを厳しく育てた。

彼、浜田純也さんと出会って、地味だっためぐみの生活はバラ色に変わった。でもそれを姉にはいえない。自分のために、結婚することも贅沢もあきらめて、めぐみが大学をでて就職するまでは、のぞみは人生の全てをめぐみに注いでいた。
彼の事は、お姉ちゃんには言えない・・・。

そして、無事に北海道大学に合格しためぐみだったが、大学院への進学に失敗した純也は地元の小樽に戻らなくてはならなくなり、ふたりは、かけおちを決行しようとする。でも、姉を裏切ることもできない・・・。結局、のぞみに全てを打ち明けためぐみだったが、のぞみは無言でめぐみの頬をうった。
あんたのために、すべてを我慢してきたのに。おしゃれも、恋も、結婚も。。。。
さんざん、姉になかれためぐみは、結局、のぞみを裏切ることもできず、駆け落ちを約束した羊ケ丘展望台へは行かなかった。そして、それっきり純也とあうこともなかった。
大学卒業後、めぐみは北海道内での就職を蹴って、ひとり東京へと旅立った。純也さんは、あの後もずっと丘の上でめぐみを待っていたのだ。それをしっていたのに、のぞみは、めぐみにそれを言わなかった。姉妹の仲は、決定的に壊れた・・・・。

 

それから、、、何十年・・・。めぐみは、北海道へは帰っていない。姉にもあっていない。なんどか、姉に手紙はかいたけれど、返事が来ることはなかった。

純也と丘の上で約束をした日から22年。めぐみは、恋愛をしても、仕事をしても、どこか心に隙間風が吹いていた。そして、「フール・オン・ザ・ヒル」というタイトルの動画を偶然目にする。モエレ沼公園らしき場所で、丘の上に男性が座っている動画。その男性が、数人の若者たちに暴行され、再び丘の上に座りなおすまでの動画・・・。

その動画を見て、めぐみさんの話をきいたオカエリは、めぐみさんの依頼とおり、北海道にいって、「丘の上の人物」、姉、純也さんの母、に会ってくることを約束する。そして、もしも、丘の上の人物が純也だったら、、、いや、彼でなかったとしても、その人に「かえるところがあるのだったら、どうか、その場所へおかえりなさい、と伝えてくれ」というのがめぐみさんの依頼だった。

そして、オカエリは、ひとり小樽へ飛び立ったのだった。

そこからの展開は、速い。小樽で、ウニのお寿司をもとめて立ち寄ったお寿司屋で、純也の母が経営する居酒屋「はまだ」は、その寿司屋の大将と親戚づきあいをしているほどの店であることが判明。純也の母は、今でも「はまだ」を経営していて、息子は北大卒の秀才で、アメリカの大学に渡り、ニューヨークの大手金融ファンドで大成功をおさめたことなどを聞かされる。純也は一夜で数十億ドルを動かす金融界の怪物となっていた。そして、リーマンショックでなにもかもを失って、北海道に帰ってきたのだと。それでも、稼いだお金を母に渡したいと帰ってきた純也だった。でも、母は、そんな金うけとれるか!といって、「自分の人生でやりたいことに使え」と、純也の金は受け取らなかった。

と、その後、オカエリは、「はまだ」の女将さんに会うことに成功する。寿司屋の大将が、「グルメレポーター」と勘違いしてくれたので、純也の母も、オカエリはグルメレポーターだと思い込んで、色々な話をきかせてくれるのだった。
息子は、いまでは、フラッとどこかへ出かけては数日いなくなったり、小樽に戻ってきたりしているという。あの、モエレ沼公園の男性は、やはり、、、純也かもしれない、と思い始めるオカエリ。

そして、オカエリは、のぞみさんとの面会も果たす。めぐみさんの実家をおとずれたオカエリは、難なくのぞみさんに迎え入れてもらう。めぐみさんが、手紙で「丘えりか」さんが訪れるかもしれないことを伝えていたのだった。そして、「自分でかえってくればいいものを・・」と。

そして、オカエリとのぞみは、モエレ沼公園の丘の上に人物に会いに行く。そして、そこにいたのは、、、やはり、、、純也だったのだ。

オカエリは、無事に北海道二泊三日の旅で、めぐみさんの依頼であった三人に会う事ができた。そして、東京へもどる。手ぶらで。萬屋社長に「成果物は?」と聞かれても、ビデオカメラも初日にこわれちゃって、、、と、、、、手ぶらの成果物。

手ぶらだけど、語って伝えることはできる。
めぐみ社長の住む高級マンションへ、旅の話を伝えに行く。

そして、最後に、成果物が・・・・。ピンポンとなったドアの向こうにいたのは、純也さんだった。そして、「いいかげんかえってらっしゃい」というのぞみさんの手紙と。。。


22年、別れ別れだった二人は、とうとう、運命の再会。そして、姉との確執の融解。
最期は、涙涙の物語。

あぁ、、今回も、オカエリ、やってくれたね。 

 

そんなうまい話ないだろぉ、と突っ込みたくなるほどの強運の連続。でも、オカエリなら、ありえるかも、っておもっちゃう。

こういう、どこまでも善人で、誰かのためにどこまで一生懸命な人、好きになっちゃうなぁ。

 

あぁ、気持ちの良い一冊だった!

読書は楽しい。

 

ちなみに、モエレ沼公園は、彫刻家イサム・ノグチがデザインした札幌市のアートパーク。気持ちよい自然に抱かれて、まさに、アートの大地。ガラスのピラミッドもあって、ゆっくり、のんびりするのにお薦め。

 

モエレ沼公園のガラスのピラミッド(2016年撮影)