『孤独の哲学 「生きる勇気」を持つために 』 by 岸見一郎(哲学者)

孤独の哲学 「生きる勇気」を持つために
岸見一郎(哲学者)
中公新書ラクレ
2022年5月10日 発行


先日、駅ビルの月末ポイントキャンペーンで、もうちょっと買い物したら「ボーナスポイント」につられて、つい、本屋さんで買った本。
ポイントのために買い物するって、間違っているよなぁ、、と思いつつも、本ならいいか、、と。。。最近、そうやって、ポイントキャンペーンの時期に、ついつい本を買ってしまい、積読が増えている気が、、、。
ま、いっか。

 

で、本書は、『嫌われる勇気』で有名にな岸見さんの最新刊。私は、もともと哲学とか心理学に興味があるので、アドラー心理学に詳しい岸見さんの本はよく読んでいた。けっして、私自身がアドラー心理学を妄信しているわけではないけれど、共感するところは多い。

 

本書の帯には、沢山の広告の文字が・・・。
三木清アドラーマルクス・アウレリウス
対人関係、病気や老い、死、、、哲人たちの思索に、自らの経験を重ねた人生論
自分の人生を生きるために

苦しみの最中にある読者のために

孤独感や孤独とどう向き合うべきか?
どうすればそれらを克服できるのか?
老いや死への恐れ、コロナ禍や SNS の誹謗中傷など、ますます生きづらい社会に「救い」はあるのか。著者はアドラー心理学を読み解く第一人者だが、 NHK の「100分de名著」で三木清の『人生論ノート』やマルクス・アウレリウスの『自省録』を取り上げるなど、古今東西の哲学にも詳しい。哲人たちの思索の上に、自らの育児、介護、教職経験を重ねて綴る人生論。”


いやぁ、別に、苦しみの最中ではないけど、、、読んでみた。

 

感想。
うん、悪くない。うん、いいと思う。私も、そう思って生きている。。。
だよね、って言いたくなる感じ。

 

全体的に、三木清の引用が多くて、私にとっては読みやすい。これまでにも慣れ親しんできた人生論に、著者の実生活の経験論が重ねられていて、そうか、岸見さんも大変な苦労をされているなかで人生を切り開いてこられたんだなぁ、、、と。岸見さんも普通に、誰かの息子であり、夫であり、親である、という感じが、岸見さんを身近に感じさせてくれる。

 

目次
はじめに  孤独を知る、人生を知る
第一章 コロナ禍のソーシャル・ディスタンス
第二章 対人関係の中での孤独  友人、職場、家族
第三章 SNSは人を孤独から救うか
第四章 長生きと孤独
第五章 死と孤独
第六章 あらためて孤独とは何か  三木清の人生論に学ぶ
第七章 孤独を克服する
おわりに  他者をどれだけ信じられるか


三木清の『人生論ノート』からの引用で始まる。


孤独が恐ろしいのは、孤独そのもののためでなく、むしろ孤独の条件によってである。恰(あたか)も、死が恐ろしいのは、死そのもののためではなく、むしろ死の条件によってであるのと同じである。

孤独と言うのは独居のことではない。独居は孤独の一つの条件に過ぎず、しかもその外的な条件である。むしろひとは孤独を逃れるために独居しさえするのである。

 

岸見さんが言っているのは、「孤独」と「孤独の条件」は違う、ということ。コロナで人と会えなくなるのは、「孤独の条件」であって、それが「孤独」なわけではない。
そして、一人でいると孤独を感じるのではなく、人の中にいる時にこそ孤独を感じる人もいる、と。

孤独は、強いられれば孤独と感じるかもしれない。コロナで外に出るな、人に会うな、と本当はそうしたくないのに、そう強いられると、「孤独の条件」が「孤独」になることもある、と。
でも、「孤独の条件」があっても「孤独」と感じない人もいる。多分、私はそっちの方だ。なぜそうなのかと問われても、自分でもわからないけれど、一人で過ごす時間が好きだ。これは、いいとか悪いとかの問題ではなく、単に人の趣味嗜好なのだと思う。
でも、一人で過ごすことを辛いと思う人にとっては、コロナ禍でのソーシャル・ディスタンスが生きづらさになってしまうのだろう。
それは、わかる。

 

そして、岸見さんはコロナ禍は、人付き合いを見直すきっかけになったのではないか、とも。実際、行きたくない会社の飲み会にいかなくてよくなって、ほっとしている人もいるだろう。なんとなく、付き合いで参加していた会食も、行きたくなければ「コロナ」を理由に断りやすい、、、。
たしかに。
そして、「人と会えなくなったからと言って、必ず孤独になるわけではありません」とも言っている。

 

ご自身が心筋梗塞で倒れた時、病気のことを話したら仕事を失うかもしれない、と思って、隠していたことがあったそうだ。岸見さんは、結局、1か月入院することになり、その間に学校の講師の職を解かれてしまった。岸見さんの命より、次の週を休講にしないことの方が優先された、これは不当だ、と感じたそうだ。でも、別の学校からは、必ず復帰してくださいと言われて、2か月後には教壇にたてたのだと。


この話で岸見さんが言いたいのは、「必ず仲間はいる」ということ。
殺伐とした対応の人もいれば、親身になってくれる人もいる

あぁ、そうだなぁ。。。
と、だれでも思い当たることがあるのではないだろうか。


どう頑張ってもうまくいかない関係もあれば、なぜかしっくりくる関係もある。
仲間は必ずいる。
そう思えるって、一人でいることの勇気につながるんだろうと思う。


一人旅に出ていても、手紙を出したい人がいたり、お土産を買って帰りたいひとがいると孤独には思わない。そういうことだ。

一人でいることは、孤独ではない。
ほんと、そう思う。

 

育児のエピソードから興味深かったのは、岸見さんのお子さんが保育園で保育士の話をきかないといわれ、先生から「愛情不足だ」といわれた、と言う経験。

岸見さんは、
「子供の問題行動は愛情不足が原因であるというようなことは、保育園に子供を預けている親に言うべきことではありません」と。そうだそうだ!!!!
子供が先生の話を聞かないのは、保育園という場における子供と保育士の関係の問題であって、家庭での親と子供の関係とは無縁だと。
息子さんは、誰の話も聞かなかったわけではなく、ただ、保育園で先生の話を聞かなかっただけだったのだと。
どうすればいいのか?と先生に聞くと、「子供を抱きしめてください」と言われたそうだ。しかも、「お父さんではだめです。お母さんでなければ。」と。
今なら、とんでもない話だけれど、30年前ならありそうなことだ。

自分たちの問題を、誰かほかの人に原因があると考えることで解決したことにする、、、って、犯しがちな過ちだ


親子の関係については、もう一つ重要な事を言っている。
親が子供をどう育てるかによって、子供の人生が決定されるわけではない。」ということ。
子供は、自分で決定して生きていくのだ、と。
親に甘やかされて、自分で決定せずに生きてきた人は、大人になっても一人になることを恐れる。自分で決めないという選択を、自分で選択している、と。


結局、人と人との関係性というのは、その二人の間でしかわからないし、その二人の間でしか解決できない。
同様に、個人の問題は、その人自身にしか解決できない。
家族や友人、周りの仲間、カウンセラーにできるのは、その人が自分で解決することのサポートをするだけ。

人は、一人で生まれて一人で死んでいく。
こればかりは、どうしようもない。
人生の最も確かなことは、いつか、だれでも死ぬってことだ。
そんな当たり前のこと、怖れても仕方がない、、、。

 

だれも、誰かの人生を代わりに生きることはできない。

 

未来に向けて、怖れや不安があっても、それでも何もしないより、できることをしていけば、必ず人生は変わっていくのだ、と岸見さんは言う。
たとえ不幸な出来事に遭遇しても、ただ、悲しにうちひしがれているのではなく、悲しみを梃子にして人生を生き抜く勇気を持つのと持たないのとでは、大きな違いがある、と。

 

くり返し、三木清の『人生論ノート』からの引用が出てくる。
孤独は山になく、街にある。一人の人間にあるのでなく、大勢の人間の『間』にあるのである

まさに。『人生論ノート』の中でも特に共感した言葉の一つ。

megureca.hatenablog.com

 

「第七章 孤独を克服する」では、認知症のお父様の介護の時の経験が語られている。認知症がすすんで、岸見さんがお父さんのところにかよっても、寝てばかりいるようになったとき、そばにいてもできることがなくなってしまった。
そして、ある日、お父さんに、「そんなに寝てばかりだったらこなくていいね」と言ったのだと。
すると、お父さんは、真面目な顔で
「私はお前がきてくれているから、安心して眠れるのだ」と、おっしゃったそうだ。
誰かとの関係が、何もしなくても、すごい救済になることがあるのだ、、、と。

 

何かをして、認めてもらおうとしなくても、存在しているだけで救済になる。そんなこともあるのだと。

 

そして、アドラーの言葉を引用。
認められようと努力するが優勢となるや否や、精神生活の中で緊張が高まる。

誰かに認められるために何かをしようとすれば、それは、ありのままの自分ではなく、人から認められる自分に現実の自分を合わせようとするから、辛くなるのだ、と。

ありのままでいい。

 

岸見さんの言葉が、心にしみる。

自信を持つというのは、他者からの評価に一喜一憂するのではなく、自分で自分の価値を認めるということ。


他者から評価されたいと思うから、他の人と比べて嫉妬心を持つ。
嫉妬心をなくすには、自分に自信を持つしかない。
そして、だから、自信は自分でつくることしかできない。

「嫉妬からは何も作れない」
自分で物をつくることで、自信を持つ。 

 

岸見さんの経験談と様々な引用と、なかなか読みやすい一冊だった。

結局、「生きる勇気」も、自分で持つしかないのだ。

「孤独」も自分で克服するしかないのだ。

 

本書の最後には、参考文献が載っている。アドラー落合恵子須賀敦子三木清和辻哲郎、、、、岸見さんご自身の著書も含め、他にもたくさん。ほんと、参考になる。

 

エッセイ風に書かれていて読みやすいと思う。良本。

 

そう、やっぱり、

自分の人生は、自分で考えて、自分で決める。

 

何かに振り回されるのやめたいなら、やめると自分で決める。

 

自分が自分の人生の開拓者。

そして、仲間は必ずいる。

そう思えば、きっと前に進める。

 

コロナなんかに負けるな~~~!

 

『孤独の哲学 「生きる勇気」を持つために 』