『京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ』 by  山極寿一

京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ
山極寿一
朝日文庫
2020年5月30日 第1刷発行

 

姉が貸してくれたので読んでみた。

 

著者の山極さんは、1952年東京生まれ。霊長類学者人類学者。京都大学理学部卒業。同大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学。理学博士。ゴリラを主たる研究対象として人類の起源を探る。ルワンダ、カリゾケ研究センター客員研究員、日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京大霊長類研究所助手・教授を経て、2014年10月から2020年9月まで京大総長。

 

本書は、2015年に刊行された朝日新書京大式おもしろい勉強法』を改題して加筆・修正したもの。『勉強法』という題で出版したために、受験勉強のために読んでみたら、中身が全然勉強法ではなかった、、という声もあったらしく、タイトルを変更しての発行。

 

帯には、
”グローバル時代に一番大事なものは、語学力よりも感動力だ。
それおもしろいやん

京大式人生を切り開く対人力の鍛え方
相手にあなたの話を聞きたいと感じさせるような魅力的な人物だと思われることですあなたに感動し協力してあげたいと思わせる人間になるその努力は怠らないこと。”

 

裏の説明文には、
”アフリカでゴリラ研究を重ね、総長の仕事は「猛獣使いだ」という人類学者の京都大学総長が、グローバル時代を生き抜く力の磨き方を語る「精神的な孤独が、自信につながる」「他人の目が〈自分〉を作る」「信頼は時間によって紡がれる」など、知的でちょっと泥臭い人生論”

 

確かに、ゴリラ研究の経験に基づいて、社会の中で必要な、人と共に歩むために大切にするべきことなどが語られてて、人生論だ。
なかなか、面白い一冊。
さら~~っと読める。

 

目次

第1章 「おもしろい」という発想
第2章 考えさせて「自信」を育てる
第3章 相手の立場に立って「信頼」が生まれる
第4章 「共にいる」関係を実らせてこそ幸福感
第5章 「分かち合って」食べる、飲む
第6章 やりたいことで「貫く」

 

感想。
面白い。
きれいごと過ぎない感じが面白い。
ただ、いい人でいることが人間力ではない。
時には、計算しつくして、相手を利用することで自分の身を守ることも必要だと。
相手を利用するというと耳障りが悪いけれど、相手にとってもそれが悪の道にすすまないことになるのだから、よいこともあるのだ、と。

 

私は、霊長類、ゴリラの研究に詳しいわけでも、興味があるわけでもないけれど、ゴリラの生息地に行って観察することで生態を研究する、ということは、きっと楽しいだろうと思う。
本書は、著者がアフリカの奥地でのゴリラ観察研究を進める中で見出した、大事な「対人力」について、その時々の経験にもとづいて書かれている。

 

誰かと対話するうえで大事なのは、
・相手の立場に立って物事を考える
・状況に即して結論を出せる
・自分が決定する
ということ。

 

研究だってそうだけれど、世の中で生きていくのには絶対に誰かとの対話は必要だ。 そして、その対話は一方的なものではいけない。と言うか、一方的なものは対話とは言えない。
建設的な対話こそが、どのような場面においても重要だ。 それは私自身も大切にしたいと思っていること。相手との意見が違ったとしても、建設的対話を成立させることは可能だ。
そこに、おなじ目標があれば、建設的対話で 一緒に目標に向かって歩いていける。
対話が成立しないのは、相手と目標を共有していないときだ。
そういう時は、、、ま、そういう考えの人もいるのだ、、、と、相手の考えを受け止めればいい。
違うな、と思っても、


”そうは思わない”なんて、言わなくていい場面もある。
ま、それは、人生長くやっていると、だんだん学んでいく。。。。

そして、著者が大事にしていることのひとつは、
「おもろい」と思えるかどうか、ということ。
おもろいから、なんとか頑張れる。
おもろくなければ、頑張る気もなくなる。
そうそう。
ほんと、そう思う。

 

勉強でも、なんでも、面白いと思えないと、挫折する。
面白がれるのって、一つの才能だと思う。
人生、おもしろがろう。

 

アフリカの人々の言葉が紹介されている。
There is no problem.
There is a solution.

いい言葉だね!!!
と思う。

 

解決に向かって歩み続けること。
それこそ、人生を楽しむことであり、ともに歩める人がいるというのは、とても幸せなことなのだ。


本書の中には、ゴリラとニホンザルの違いなども解説されている。それは、仲間との付き合い方の違い。ニホンザルは、 圧倒的に強いボスがいる。 誰もボスには逆らえない。ボスも常に偉そうにしている。 一方でゴリラは確かにボスはボスなのだが、周りのゴリラもボスにお願いをすることがあるという。美味しそうに食べてる餌を分けて欲しければちょっと顔を覗き込んでみたり。 するとボスの方も自分が食べていた場所をさっとゆずるのだそうだ。 ニホンザルなら、ボスの食べてる餌を欲しがるなんて、自殺行為?!かもしれない。

ゴリラって、面白い。

 

ゴリラの研究で有名な、女性研究者ダイアン・フォッシーとの交流についても書かれている。映画『愛は霧のかなたに』は、彼女のマウンテンゴリラ研究についての物語。アフリカの山に住むゴリラの研究をするには、現地の人々の協力が欠かせない。でも、彼女は現地の人を信じないし、山極さんにも現地の人との交流を禁じていたという。
でも、山極さんはダイアンの留守中は現地の人と食事をしたり親しく交流したという。山極さんにとっては、現地の人との交流は研究のためにも欠かせないと思えたし、現地の人を尊重したいとも思っていたから。
彼女は、あまり、人を尊重するということはなかったようだ。というか、信じていなかったのかもしれない。彼女は、最後、山小屋で他殺体で発見されて亡くなっている。恨みをかったのかもしれないが、犯人は見つかっておらず、真相は闇の中のまま。。。

でも、この、一件からも、山極さんは「対人力」の重要性を語っている。

信じてもらうには、まず、こちらが相手を信じなくてはいけない。。。
たぶん、そういうことだ。

でも、リスクは自分で判断する。

結局、自分で判断するしかないのだ。


とくに、アフリカの山奥で自分の命を守るのは、自分しかいない。
山極さんは、協力者を頼ることは大事だけれど、その人がいなくなったとたんに自分で自分を守れないような依存の仕方はよくない、と言っている。

信じる、信頼するということは、出会ってすぐにできることでもない。山極さん曰く、「時間のシェア」によって、信頼は育っていくのだと
時間を共有するほどに、相手への理解は深まるだろう。その積み重ねでしか、本当の信頼は得られない。

時間のシェア。
これも、共感。
長く一緒に仕事をした仲間であれば、多少意見の食い違いがあっても当たり前で、そうであっても信頼は築ける。
山極さんは、シェアハウスをしたところで、時間を共有していないと、信頼関係にはならないだろう、と。
時間を共有すること、大事だ。


コロナでなんとなく不安感が広がるのは、誰かと時間を共有することが難しくなったということもあるかもしれない。
当たり前のようにあっていた人と、会う機会が減るということは、人間にとってはやはりストレスなのだ。


強く、たくましく生きてきた人なんだなぁ、と思う。

 

すごく、共感した一節を覚書。
”私は、世界というものはもっと生きたものではないかと思うのです。人々の動作や仕草の端々に現れるような生の世界。そこを通じて共同体の中で自分がどう生きるべきかを覚えていく。道徳を覚える。倫理を覚えていくわけです。道徳は教科として教わるものではなく、自分の身近な人の経験を通じてしか獲得できないものだと思います。” 

 

この一節は、政府が道徳教育の充実をはかるために道徳を「特別の教科」にしたと言う話のあとに述べられている。教科で教えるのではなく、子供たちが”生の会話”を増やす機会を増やした方がいいのではないか、と。近所の噂話でもいい、ゴシップでもいい、みんなでわいわいがやがややることが大事なのではないか、と。

髙橋秀美さんの『道徳教室』にも通じる。

megureca.hatenablog.com

ほんと、、、、。
体感する事、経験することが一番の学習だと思う。

そして、人間は、いつでも、「あなたたちは私の敵ですか?味方ですか?」という、見方にとらわれがちだという。
これも、おおいに共感。
人間が定住して農耕を始めた時から、「むら」ができて「くに」ができたときから、「私たち」と「彼ら」が出来てきたのだ。

多分、これから先も国民国家が存在し続ける以上は、常に、「私たち」と「私たち以外」が存在し続ける。
重要なのは、そういう差別化をしている自分がいるということを忘れない、ということだろう。

 

『ゴリラから生き方を学ぶ』って、どんな話かとおもったけれど、内容は、ゴリラ生態に学ぶ生き方ということだけでなく、ゴリラ研究を通じて行きついた人生に大切なこと、って感じ。

206ページの文庫本。
さらっと読める。
大学生から大人まで、楽しく読める一冊だと思う。
夏休みの気分転換にもいいかも。

 

ゴリラの住む、大自然を妄想しながら、人間として、生き物として、大切なことをちょっと振り返る。そんな感じ。

 

うん、面白かった。
やっぱり読書は楽しい。 

 

『京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ』 by  山極寿一